第14話 汚れた信仰
「またしても失敗してしまいましたか」
重鎧の魔族を叩き潰した黒い天使を見て、狐の仮面を弄りながら呟く。
『
「清く強い信仰心はクリアしたと思いますが、ティミドが問題でしたか」
ボソボソと独り言を言っていると、周囲の倒れていた兵士たちの身体から、黒い魔力の塊が浮かび上がっていく。
「さぁ……始まりますね」
浮かび上がった黒い魔力の塊は、黒い天使の頭上に集まっていく。しかも森中の色んな所から浮かび上がって凄い勢いで天使の頭上で巨大な塊を作り上げていく。
「やはり気絶させて無力化などと……しょうもないことをする」
まるで、魔族側がエルフリッドの兵を殺さないことを知っていたかのような発言をしながら笑う。
「可愛い娘さんが来たので、ティミドの最期でもみせてあげて、最高の感情をいただきましょうか」
少し離れたところから走ってくる2人の人間と1匹の猫をみつめて、右手をむけて1つの魔術を唱えようとしていた。
◇
フォルカたちがリーシャに本隊がいるはずの場所に案内されている中、大きな叩きつけるような音が聞こえ、足を速めていたところ。空から黒い塊が、この先に集まっているのを見て、フォルカとリーシャは嫌な予感を隠し切れない。
「な、なんですか? これは?」
「ロロ! なんか黒い化け物がいるぞ!」
「最悪にゃ~」
手遅れだったとロロは悟る。しかもムブルグの魔力反応が天使の攻撃したらしき地点から感じる。ムブルグも実力者だが、あの天使とは実力差がありすぎる。
「っ!? なんかの魔術にかけられたにゃ~」
不意に前を走っていた2人の足が止まった。
何かの魔術にかけられたようで、危険な場所で置いていくわけにはいかないし、魔術を解かなきゃにゃ~と思い、ロロはため息をつくのであった。
◇
黒い天使の瞬間移動にも思える速さからの攻撃に、砂埃が舞う中、ムブルグは倒れながらも自身の状況を確認した。
(……とんでもない速さと重さだ)
長年の相棒でもある重鎧の腕部分が破壊されて、自身の「緑色」をした腕が見えて笑ってしまう。
(周囲から魔力を集めている…何をするつもりだ?)
立ち上がり、どうしたものかと考えながら、自身も魔力を集中する。
守りには自信のあったムブルグだが、こうも簡単に破壊されてしまった鎧を見ると、自分の守りの術など大した意味がないと感じて、少しずつ近づいてくる見知った魔力の2人と知らない1人に、どう託すかムブルグは考える。
そんなことを考えていると、集まっていた黒い塊が、ぐにゃぐにゃと形を変え始めた。
「……
大きくなり、翼のような形を作り始める塊を見て、嫌な予感のするムブルグは完成する前に叩くと、鎧が破壊された腕に魔力をためて突っ込む。
「アァ……ァァア…」
ーーガシャァァァンッ!
「守るということは、今は脆いということっ!?
右の斧でムブルグの攻撃を塞いだ、黒い天使が、すぐに切り替え左の斧で薙ぎ払うように、空中のムブルグに斧を振る。
その攻撃に対してムブルグは、両手に再び魔力をためて迎え撃つ。
「そのまま返してやる……
ムブルグのカウンター技「
自身の腕は鎧を破壊させるようなダメージを受けているが、倒せる見込みがないなら繋げるためにもと思い捨て身の構えであるムブルグ。
ーーガシャァァァァンッ!
「ぐぉっ!!」
空中で直撃を受けたムブルグは凄まじい勢いで吹き飛んでいった。
◇
ーーズシャァァァンッ!!
「にゃ~、ムブルグが飛んできたにゃ」
「……ぐぅっ…そこの2人は大丈夫なのか?」
「そろそろにゃ……起きるにゃ!!」
「「っ!」」
吹き飛んできたボロボロのムブルグに軽口を言いながら、フォルカとリーシャにかけられた魔術をとくロロ。
魔術から解除されたリーシャは突然膝をついて涙を流しはじめ、フォルカからは怒りの色が見える。
「お父様……どうして」
命を捧げるだなんて言う魔術を使用していた失望と、父自らの命も捧げていたという絶望がリーシャを襲う。
「あの黒いのを召喚するとこでも見せられたと思うけど、まずはどうにかするにゃ」
「『
「……長い名前にゃ、ムブルグがボロボロにゃ」
「返し技が、まったく効かなかったぞ」
鎧のあちこちが砕け、緑色の肌から多量の血を流しているムブルグ。
本人は気にしていない顔しているが、フォルカはムブルグの肌を見て少し驚いていた。
「……フォルカ、気になることは後だ」
自身の肌の色を見て言いたいことがありそうな気配を察したムブルグは、戦闘に意識をむけるように声をかける。涙を流している少女にも声をかけたいが、ムブルグ自身にも、そこまでの余裕がなかった。
そこへ1人の人物が声をかける。
「面白い呪いをお持ちだ」
狐の仮面を被り、黒いローブで全身真っ黒の、さっき見せられてた中では、こいつが魔族と領主さんを生贄にしてたけど、こいつが俺とリーシャっていう騎士に魔術をかけてたのか?
「貴方……お父様を騙していたのですか?」
「騙したのではなく、本当の欲望をつついてあげただけですよ」
「見せられていた……あれは本当のことなんですね」
「私の見ていた視点映像を、わざわざ見せてあげたんですよ」
特に悪びれる様子もなく、狐の面を触りながら言う。
先ほど見せたものは本当のことで残念ながら、召喚魔術は失敗してしまい制御が出来ないと。あの天使は捧げられた願いの通り、遺跡を破壊しに行くが、目に映ったすべての生物に攻撃を仕掛けると。
数㎞範囲で気絶した者の魂を吸収し分裂するという聞きたくなかった事実も。
「じゃあ……兵の皆は…」
「なりそこないの『
「にゃ~、もう一匹完成しちゃうにゃ! ムブルグはゼキルのとこに行くにゃ! ジンが合流しても、おそらくキツイにゃ!」
「ロロ……まかせるぞ」
ボロボロの体だったが、ゼキルの危機に力が入ったのか、飛ぶように遺跡の方向へ向かっていったムブルグ、狐面の人物は特に止めるそぶりも見せることなく、2体の天使を止めれるはずがないだろうとばかり余裕そうな雰囲気をだしている。
フォルカの頭は状況を受け止め切れていなかった。
「あんたは……何がしたいんだ?」
「わざわざ言うつもりはありませんよ、さぁなりそこないの天使2体目の完成ですね」
そこには言葉にならない声のような音を発しながら、まったく同じ大きさの黒い天使がもう1体並んでいた。
天使は、それぞれ別の方向を向いており、1体は遺跡のほうへ、もう1体はフォルカたちのほうへプカプカと動いている。
「あんな化け物……どうすれば……」
「結局……こうなるのか…お前らみたいな奴らが……」
狐の面をした敵が正面にいるに関わらず、リーシャは天使から発せられる魔力差に絶望し、フォルカは魔術の生贄になってしまった魔族とエルフリッドの兵士たちを守れなかったことに嘆いている。
「
「にゃ~、手を出さない内に消えるにゃ」
「おぉ~怖い怖い、戦えばお互いケガをしそうなので、ここらへんでおさらばしましょうか」
そう言うと狐面の姿は霧のように消えていった。
ロロ一安心し、プカプカとゆっくり近づいてくる黒い天使が目の前に来る前に、どす黒い魔力が刻印から少しだけ漏れ出してるフォルカの目を覚ませることにした。
「フォルカ、後悔するよりも、どうにかして1体倒して遺跡のやつも止めないとにゃ~」
「……わかってる」
「だったら、その暴走しそうな魔力を制御するにゃっ、それにつられて天使が狙いを定めてるにゃ」
「狐面の魔術にかけられてから珍しい
狐面のやつに、生贄の瞬間を見せられてから、普段は呼ばないと声をかけてくることが少ない『
何言ってるのか、直接会話してるわけじゃないから何言ってるのかよく分からないけど、ザワついてくれなかったら怒りで我を忘れてたと思う。今でも十分怒ってるんだけど、なんか1つ怒りの向こう側に着いちゃった気がする。
「ロロ……リーシャを連れて、遺跡のほうへ向かっててくれ」
「1人で勝てるかにゃ? 『
「いや……そいつは使わないけど、大丈夫な気がするんだ。代償は置いといて絶対倒すことは出来るから安心してくれ」
「にゃ~、しょうがないにゃ」
(覚悟……決めないとな)
ロロは堪忍したように、リーシャの頭の上にのり、何かの魔術を唱えて消えていった。
誰もいなくなったことを確認して、フォルカは1人自分の刻印に向かって声をかける。
「これでいいのか?……『
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