第8話 戦前の不安

 フォルカたちは酒場の店主から、聞いた話は予想はしていてはいたが、想像以上のもだった。


 エルフリッドの領主、ティミド・エルフリッドが王国への功績のため、エルフリッド近辺にいる魔族を根絶やしにする計画を立てており、予定より遅れてはいるが、間もなく作戦が開始されること。

 ゼキルたちの居場所は、最近ティミドに腰巾着のようについている、怪しげな黒いマントの人物から教えてもらっい、根絶やしにする作戦も、その人物からの入れ知恵だという。



「功績のためにゼキルさんたちを殺そうってのかよ」


「人間と魔族の歴史さ……魔王が討伐されても変わらない」



 淡々と店主は言う。


 魔族も人間も、私利私欲のために討ちあっていた歴史がある。

 その事実は変わることはないし、簡単に色褪せるものでもない。人からすれば脅威の対象である魔族を討つこと、今の時代、英雄になるような反響がある。野心ある奴らは、その手を見逃すはずなんてないと。



「ゼキルさんたちは……大丈夫ですよね?」



 エルが心配そうに問いかける。

 

 ゼキルたちは移動の準備をしているし、エルフリッドが仕掛けてくることは知っているので、襲撃の対策は万全なはずとフォルカは内心思っていた。



「にゃ~思ったより襲撃日が速そうにゃ、ノアの力で移動するにも、まだ日数が必要だにゃ」


「なっ!……襲撃をもろに食らったら、さすがのゼキルさんたちでも…」


「……うぅ……」


「とりあえず、この情報を早急に持って帰るのが先決にゃ」



 今日は遅いし、1泊してから、明日の早朝に街を出て帰ろうとロロは提案する。

 勇者との戦いから、かなり弱ってしまっているゼキルたちでは危険だから早く伝えて逃げる準備をしなければと、フォルカとエルも、すぐにでも戻って何か手伝えることをしなければと思い同意する。


 店主が何やら思い出したように3人に語りかける。



「そういえば、街の東側で数人の男冒険者が斬り刻まれていた事件があった」


「物騒な街だにゃ~」


「こんな事件は久々さ、街の兵は犯人探しに走り回ってるから、用心しな」


「ありがとうだにゃ~、ムブルグからのお代を置いとくにゃ」



 店主に金銭と何か石のようなものを渡し、しっかり礼をしてからフォルカたちは店を出る。


 ロロの魔術があるにしても、先ほどの事件で警戒されていることを忘れずに3人は宿に戻っていった。









(戦いになる可能性が大きいってことか……くそっ!)



 宿に戻り、エルとロロは2人で仲良く眠る中、フォルカは1人で先ほどの店主から言われたことを改めて思い返していた。



(エルフリッドの兵や傭兵が襲撃してきたら、どう頑張ったって被害が出る)



 あの遺跡には戦える魔族は多くない。ムブルグさんやノアさんは戦えるが、全盛期はとうに過ぎたと本人たちも言っていた。

 守り切り逃げ切るのが叶わずに全滅してしまうことだって考えられる。



(もちろん……エルフリッド側にだって被害が出る)



 捕らわれている魔族たちだって、どうにか助けたい。店主は歴史だなんて言っていたが、過去の魔族たちの行いを、何の罪もない魔族で償いと言う名の生贄だなんてあり得ない話だ。

 ロロは助けるなら、街でコソコソするよりも、外に出てきて魔術の準備段階のところで助け出すしかないらしい。だけどもゼキルさんたちと一緒に守り逃げ切るのが第1目標なので、正直厳しいんじゃないかと。


 そして戦いになれば、エルフリッドの兵たちだって無傷じゃ済まなくなるのは確実だ。みんなを守りたいけど、こうやって生命いのちの奪い合いを繰り返していたら、それこそ歴史は繰り返すってことだ。



(くそっ! 考えても良い考えなんて浮かばない……ノアさんの準備が整うのを全力で守るしかないってのか)



 ロロのように幅広い魔術が使用できるわけじゃない、自分の『八罪呪源アマルティア・オクトー』は強力だけど、周囲に影響が大きすぎる。俺にだって八罪以外にも技はあるけど、大したもんじゃないからな…。



「……ダメだな、まずは明日に備えないとな」



 なかなか考えは収まらなかったが、気付いた時には眠りについていた。

 

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