第7話 栄光のエルフリッド

「随分地味なとこにある小っさい店だな」


「失礼にゃ奴だにゃ~」



 ゼキルさんたちに情報提供している関係柄、そんな表立った店だとは想像していなかったけど、木造で出来た小さい店ってのは驚きだ。

 宿から近かったけど、人通りから離れた場所だから繁盛はしてなさそうだけど。



「さぁ~入るにゃ!」


「うぅ……」



 エルは緊張している、何か戦闘が起きたりするって考えてるだろうか?

 街の人からも声をかけられてオドオドしてたし経験がないってのは大変だな、果物とか渡されてたし。



「大丈夫だ……街中で仕掛けてくる奴なんて滅多にいないはずだ」


「あ、ありがとうございます」



 エルに一声かけて店に入る。

 カウンター席とテーブルが2つだけあって、カウンターの奥に厳ついおっさんが1人いるだけでお客さんはいない、率直に落ち着いた良い店だなって思える。



「にゃ~店主! さっきぶりだにゃ」


「おう……その2人が例の子たちか…」


「事前に挨拶してたのかよ!」


「そりゃそうにゃ」



 先に顔合わせてたって言ってくれよ!


 って思ったけども、猫が先頭で意気揚々と入るってことは、事前に魔族って知ってなきゃ変か…。

 エルにあんなこと言って少し恥ずかしくなってきたぞ。



「まぁ……座りな、聞きたいことは想像できる」



 店主に言われるがまま、俺たちはカウンター席に座り、ドリンクを準備してくれている店主を待った。












 ーーエルフリッド・領主館



 エルフリッド領主、ティミド・エルフリッドは、部屋の隅に立っている、黒いマントをして狐の仮面をつけている人物に対してイラついた気持ちを抑えることなく話しかける



「少しズレが出たが、魔術に使用する魔族50体は揃った! 本当に大丈夫なんだろうな?」


「もちろん……私共も報酬は頂いております、半端なことは致しません」


「よし! これで私も大きな武功をあげることになる!」



 王国騎士に恥じぬ男に! 大規模魔族を討伐した英雄に! 偉大なる父に! これで私はなることが出来るぞ、エルフリッドの栄誉は過去のことだと笑ったら奴らに知らしめねばならぬ、この男は信用は出来ぬが、魔術の腕は本物のようだ、残るは実行するのみ。



「最終準備が終わり次第、すぐに実行する。動く準備は出来ているな?」


「もちろんです」



 娘のリーシャの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 魔族を生贄に捧げることは言えぬが、大規模魔族を討伐したとなったら父の誉高き姿に感動するだろう。

 当日リーシャには別動隊として動くことになっているので、私の姿を見せてやれぬのは残念だが、完璧な父だけを見せるためには致し方ない。



「やれるぞ……私には出来る」



 多忙あってか、くすんできた茶色の髪を弄りながら、自己暗示をするように、ティミドは己に言い聞かせる。

 王国にもエルフリッド街の人々にも、そして家族にも、自分の力と指揮で魔族を壊滅させると言い切ったのもあり、失敗は許されぬ立場、ここまで来て恥をさらすことはあってはならないと、心の中で何度も繰り返す。



 コンコンッ


 扉の叩かれる音がする。



「来たか…入れ」



 許可を得て、微笑みながら1人の男が部屋に入ってきた。


 190㎝ほどの身長で、黒髪をオールバックにし、とある国で作られている和鎧という着物に鎧を合体させたものを着用しており、胸部に肩、左腕は黒に金色のラインが目立つ鎧が纏われている。

 背中に1つの巨大な鞘に2本の太刀という変わった形の武装をしているが、それ以上に目立つのが、男の額付近と首に広がっている、青黒い呪いの刻印だ。



「呪い持ちで本来なら貴様も魔術の餌にしてやりたいが、安い金でよく働くと評判だったから雇ってやったんだ! 失敗は許さぬぞ」


「もちろん承知している! 敵の本拠地へ偵察に行き、やれるなら戦力を削ぐ…だろう?」


「わかっているなら良い……明日動いてもらう、準備をしておけ」


「ゆっくり休んでおくとしよう!」



 

 和鎧の男は、意気揚々と声をあげて部屋を出ていった。



「桜火の国出身…呪い持ちだが、実力は相当なもので、安い金で働く…まぁ少しは役に立つだろう」


「魔族の実力を測る、実験のようなものですかな?」


「魔族の戦力を削ったなら上々、最悪は魔術の餌にしてやれば良い」



 ティミドは安く雇った傭兵を大した戦力として数えていない。先の男のように呪い持ちは、戦果をあげたとしても上手くやって魔術の餌にでもしてやれば良い、そうすれば戦果は私の者となり、魔族を討ち滅ぼす魔術のためにもなる。


 そんな考えを巡らせながら、近々訪れるだろう、すべての王国民が自分を称賛する様子を想像し、1人微笑んでいた。

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る