第6話 いざ街へ! 初めての景色

 早朝、フォルカとロロはエルフリッドに行くための準備を終え、ムブルグと最終確認を行っていた。



「〈土竜の踊り場〉って酒場を探すせばいいんだにゃ」


「ふむ……そこの店主が色々知っているはずだ、ただし夜に限るぞ」


「俺たちにも教えてくれる人がいるんだな」



 魔族と内通してるなんて知られたら、何をされるか分からない世の中だからな、何かゼキルさんたちと深いつながりでもあるんだろう。



「軍や傭兵、魔族を捕らえて具体的に何をするのか調べたいにゃ」


「期待しておるぞ……緊急なら急いで逃げてくるがよい」



 調査しに行ったはいいが、明日動きますとかだったら最悪だからな、緊急ならすぐに戻って報告ってことも考えておかないとってことか。



「あ、あの……」


「ん? エル、どうしたんだ? こんな朝早くに」


「うっ……私も連れて行って欲しいですっ」


 

 え?

 ムブルグさんとロロの顔を見てみると、動揺している様子はないな、エルを連れていくのは万が一の時危険な気がするんだけど。



「何か行きたい理由があるのか?」


「街を見てみたくて……色んなものを知りたいです」


「情報収集だけど、もしかしかたら危険もあるかもしれないぞ?」


「そ…そうですよね」



 しょんぼりと項垂れるエル、予想通りの返答だったが上手く返す言葉が出てこず、少し諦めかけている。



「せっかく、この子が自分から言ってきたにゃ」


「ふむ……責任をもってやるのが良い男ってものだ」


「そんな簡単に言われても……」



 ロロが居る限りは大丈夫かもしれないけれど、エルフリッドも話では、そこそこ大きい街だって聞くし、ロロ以上の使い手なんかに出会ってしまったら守り切る自信は正直ないからなー。



「まぁどうせ情報収集は、フォルカはあんまりやることないから一緒に観光してるにゃ」


「ロロがそう言うなら、俺はいいけど……」



 2人の後押しもあったおかげが、エルはキラキラした瞳をこちらに向けてきている。

 ……エルのせっかくのお願いだし、仕方ないか。



「迷子にならないように、ちゃんとついてくるんだぞ」


「ありがとうございます!」



 そこまで喜ばれるとは驚きだけど、何があるか分からないから注意しとかないとな。


 俺たちは最終準備を済ませ、エルフリッドに向かった。そこまで遠くなく6時間ほどで到着するとのことだったので何度か休みつつ目的地へと移動した。










 アトラン王国の一番南に位置しているガンソル領・エルフリッド、森に囲まれており、王国の中では降水量が多い地域であり、農業が適地適作な場所、エルフリッドではオリーブ・ブドウ・野菜なんかの生産が盛んなである。

 王国騎士として代々務めており、数々の戦果をあげているエルフリッド家を街の長として、農業やお酒生産の面で王国を盛り上げている平和な街である。

 人口は4万人ほどで、農家や魔物狩り、酒造業を行っている人が多い。

 魔物が多いため鉄と魔石を用いた城壁に囲まれており、街の中は安全で外は魔物が多いことを理由に、魔物狩り以外でも冒険者と呼ばれる者たちが拠点にしていることが多い。

 王国の中では田舎に該当し、建築物よりも畑が多く、とてもノドカな街である。



 フォルカたちはムブルグから渡されていた許可証のような物を門番の兵に見せるだけで、すんなり街に入れたことに驚きながら、とりあえず宿を確保しつつも街のにぎやかさと広さに戸惑っていた。



「そんなにキョロキョロしてたら怪しさと田舎者感丸出しにゃ」


「くっ……こんなに人の多いところに来たの初めてだから仕方ないだろ」



 これでも、まだ王国の中では人口が多い訳じゃないってどういうことだよ!

 エルはしっかり俺の服を掴んでついてきてるから大丈夫だけど、迷子になったら見つけらそうにないくらい広いな。



「ムブルグの言ってた酒場を探すにゃ、4時間後には日が沈むから宿集合にゃ」


「わかった……無理しないように気を付ければいいんだろ?」


「エルと観光でもしてるにゃ」



 少しだけお小遣いをもらってるから、エルと街を見て周るかな。

 とりあえずロロの魔術で呪いの魔力は消せてるし、右手も刻印が見えないようにしてあるから大丈夫だと思うが、エルもいるし争いごとは避けないとな。








 フォルカとエルは街を目立たないようにしながら街を見て周った。

 売られている者や魔物の素材で作られた物品の数々、目新しいことばかりで、エルだけではなく、フォルカ自身も自分が知らないことがたくさんだと改めて気付かされたようだ。


 街の人たちはとても優しく、すぐに察して色々教えてくれるし、外で仕事している人が多いから見慣れない人が居たら、すぐ観光客だと思い声をかけてくる。

 


「(何も知らなさ過ぎて、エルと一緒にビックリするだけの時間になっちまってる)」


「フォルカさん……なんか騒ぎが…」



 エルが指さす方向には、長い銀髪に黒いロングコートに腕を通さず羽織っている人が、数人の男に何か言われていた。



「魔物の大半は私が斬ったはずだが?」


「うるせぇ! 片腕で呪い持ちをパーティに入れてやっただけで、ありがたく思え!」


「そうだ! こっちはどうしても頼むと言われたから参加させてやったんだ! 感謝料がいるくらいだよ」


「……そうか」



 平和な街に見えても結局は同じなんだな。

 呪いなんかの何かしらの欠陥を追い立てて、見下し差別し、拒絶する……俺たちがどんな気持ちや、何をしただなんて関係ないんだ。



「騒ぎを起こしちゃダメって言われてましたよ」



 ……エルに釘を刺されるなんてな。



「そうだな……時間も近いし宿に戻るか」


「はいっ」



 フォルカは胸の奥からあふれ出しそうなモヤモヤした感情を押しとどめて、エルと一緒に宿に戻った。







 宿の部屋に戻ると、すでのロロは戻っており、やっと帰ってきたと言わんばかりに2人に言う。



「にゃ~待ちくたびれたにゃ~、さっそく行くにゃよ」


「帰ってきたばっかりなんだが……」


「待つ余裕なんか無い可能性もあるからにゃ」



 この宿から、そんなに遠くない場所に目的地はあるようで、フォルカとエルはロロの案内で、ムブルグ教えてもらった〈土竜の踊り場〉に向かった。


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