第3話 夜叉ゼキルとエルの望み①

魔族の子供たちとエルと呼ばれる種族不明な少女の救出に成功した二人。


 ロロの知り合いの魔族たちの住む隠れ家が近いということもあり、なんとか馬車が走れる幅のある森を移動していた。



「着いたにゃ~」


「目の前は変わらず森だけど」


「隠れ家が丸裸な訳ないにゃ」



 フォルカに鋭いツッコミを入れつつ、ロロは馬車を降りて、目の前の空間に向けて、まるで誰かが居るかのように話しかけた。



「久しぶりにゃ~、ちょっと助けて欲しいにゃ~」


「こっちに気付いてるの前提なんだな」



 なんて言ってたら、目の前の空間がグニャリと歪む。

 歪みが無くなり、正面の景色は森に古びた遺跡のような建物が現れた。


 そこから3mあるか無いかの大きさがある、重鎧を纏った巨体が現れた。



「中に入って、子供たちを休ませてやるのだ」


(話が早いな!)



 フォルカたちは、鬼に案内されて遺跡の中に入っていった。







「久しぶりだねロロ、救ってくれた子供たちは皆歓迎するよ」


「久しぶりだにゃ~全部分かってるようだから説明は不要のようだにゃ」



 遺跡の中には、たくさんの多種多様な魔族がいた。畑や子供たちの遊び場など完全に暮らしの場になっていた。

 正直、魔王が討伐されてからは考えられない光景だ。人間の自分が入ってきても特に怯えたり動揺することがないってことは、この場所に対する安心感の現れと、ロロと話をしている鬼の魔族二人の信頼なんだろう。



「相変わらず暑苦しい鎧だにゃ~ムブルグ」


「そちらも変わらずのようだな」



 入口から案内してくれた、ムブルグと呼ばれている金色の重鎧を纏っている鬼、角以外は全部鎧で覆われているから、表情も全然わからないが、ここに来るまでに、遺跡にいる魔族の皆から声をかけられているのをみて、慕われているのが分かる。




「君はまた、凄い呪いを持っているね、大変だっただろう?」


「まぁ……ロロが助けてくれました。」


「ゼキルも後でフォルカの呪いの力を見せてもらうにゃ」


「楽しみにしておくよ、ノア、後で開けた場所を用意しておいてくれ」


(代償があるってのに簡単に言いやがって!)



 ゼキルっていう、この優しそうな一角お爺ちゃん鬼がここのリーダーのようだな、貫禄あるし余裕も感じる。

 体は傷だらけで、2m超えてる体格からは想像できない程、穏やかな鬼だ。



「連れてきた子供たちの中にいた、赤い目の女の子……あの子は何者かな?」


「分からないにゃ~、ゼキルなら分かるかと思ったんにゃけど」


「エルフリッドがここ最近、魔族をたくさん捕えているとは聞いているけど、あの子は魔族じゃないからね」



 ゼキルはここ最近のエルフリッドについて話をする。


 領主の意向で幼かったり、戦闘力の無い魔族が捕え集められており、何らかの魔術に使用される予定である。

 この隠れ家の場所が気付かれており、戦の準備らしきことをしている。

 名のある傭兵を雇い始めた。


 これらの情報を特に表情を変えることなく語るゼキル。



「今言ったのが本当なら不味いんじゃ!」


「ここから移動する準備はしておる、襲撃されれば皆殺しにされてしまうのでな」


「にゃ~、子供たちには厳しい日々だにゃ~」



 魔族の命を使って、魔族を討つって……一体ここの皆や捕らえられた魔族たちが何をしたって言うんだ?

 名のある傭兵も雇ってるってことは、金も使って本気ってことだ。



「他人のため、しかも他種族に対して、そこまで悩める人間と言うのも今時珍しい」


「フォルカは良い子だにゃ~、とりあえず今日は休むにゃ」








 ロロの一声で、今日は各自休むことになった。

 遺跡内を回り、色んな魔族の様子を見たが、皆平和って感じだし、助けた子たちもさっそく馴染んでいる。

 

 そんな中、誰とも話をせずに1人でポツンと立っているエルがいたので声をかけてみる。



「大丈夫か?」


「あ……大丈夫です」


「なんか悩み事か?」


「………私は何者なんでしょうか?」



 魔族の子供たちと一緒に救出され、遺跡についてから周りに自分はどんな種族か問われたらしい、だけど自分の種族も分からない、どこから来たのかも分からない。それで他の子が戸惑ってしまったのを見て1人になったそうだ。



「名前以外のほとんどの記憶がないってのも大変なもんだな…。」



 声をかけたはいいが、上手な言葉が出てこないフォルカ、そんな2人を見て声をかけてくる人物が1人。



「すべての記憶がない訳じゃないってことは、何者かの仕業かもしれないね」


「記憶を消した上に、エルフリッドに送り出したってことですか?ゼキルさん」



 話が聞いていたゼキルさんが声をかけてきてくれた。

 1部の記憶が残っているなら人為的って考えるのも1つの線だし、何者かは今から探しても遅くないよと言ってくれた。



「今から探す…?」


「あぁ……したいこと、なりたいものを今から探していけばいいさ」


「したいこと……」


「フォルカ君が責任をもって一緒に探してくれるさ」


「えっ?」


「…本当ですか?」



 ゼキルさんとエルが期待を込めた眼差しで、こちらをジッと見つめてくる……。



「まぁ……助けた責任ってのもあるしな」


「さすが、フォルカ君だね!」


「…ありがとうございます」



 エルは表情こそ、あまり変えることはなかったが、フォルカのほうをきちんと向き、聞こえる声でお礼を述べた。



「もちろん、私も出来る限り協力するさ!こんな老体でも昔、7代目魔王なんて呼ばれていたからね」


「……えっ?」



 勇者に討伐されたって噂の7代目魔王?ゼキルさんが魔王?


 えっ!?

 

 

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