第2話 八罪呪源 虚飾②


八罪呪源アマルティア・オクトーガ1人、虚飾ヴァニタスココ二降臨』



 フォルカの背後に巨大な頭蓋骨、フォルカが発している赤黒い魔力を纏い、真っ赤な魔力が瞳の位置で燃えるように揺らいでいる。

 

 怯えか、または恐怖から発せられる体の震え、その震えは武器に伝わりカチャカチャと音を響かせている。5人の様子を見てあざ笑うかのように頭蓋骨ヴァニタスは話はじめる。



『コノ程度ノ虫ケラ相手二我ヲ召喚スルトハ、カッカッカッカカカカ!』


「な、なんなんだよ! こんなの聞いてないぞ!」


「ま、まだ大きくなってやがるぞ!」



 しゃべる頭蓋骨、しかも大きさ・魔力量ともに少しずつ膨れ上がっていく、1人が挫けるように声をあげてしまえば、もう連鎖は止まらない。



「魔族たちを誰に頼まれて、ここまで連れてきた?」


「だ、誰だかは知らねぇーが!エルフリッドまで急ぐように依頼されたんだ!」



 こんな簡単にしゃべってくれるのは『虚飾ヴァニタス』の力のおかげだな、エルフリッドって、この先にある街か、一体何するつもりだったんだ?



 ーーカランッ!



 なんて考えていると、立っていられなくなったのか、武器を落として尻もちをつくやつがいた。


 ここまでか。



「ぁ…ぁぁ……」


「ここまでか……やりすぎだろ?」


『フム……我二言ウデ無イ』



 完全に飲まれちゃったか。


 上手くいけば戦わず鎮圧できるのは『虚飾ヴァニタス』良いとこなんだけど、聞きたいことがまだまだあったんだけどな。



「はぁ…見逃してやるから、ここから消えてくれ」



 戦意を完全に失い、話す力も失った5人に対して、フォルカは立ち去るように言う。5人はなりふり構わず逃げ去っていった。



『流石我ノ力ダ、役二立ツデアロウ?』


「あぁ……助かったよ」



 自画自賛して、よく話す頭蓋骨ヴァニタスは消えていった。

 

 正直助かったし、1つの傷も負わずに戦闘を終えれたことは後のことを考えても大きい。


 逃げていった奴らは、しばらく『虚飾ヴァニタス』の影響でまともに話なんて出来ないだろう。



「さて……どうしたもんか」



 とりあえず荷台の中を見に行くか。






「お疲れ様だにゃ~」



 荷台を開けてみると、呑気にくつろぐ黒猫ロロが一匹。


 正直そんなことだろうと思ったし、中にいる子供たちの顔を見ると安心している顔をしているので、何かしらしていたんだろう。獣人族が多いようだし、同じ種族同士で仲良くできたんだろう。



「この子たちも連れていくにゃ、行けるとこまで馬車を使うにゃ」


「誰が操縦すんだよ」


「そこは安心するにゃ……そろそろ反動が来るだろうから休んでおくにゃ」


「ぐっ……全部お見通しかよ」



 『八罪呪源アマルティア・オクトー』すべての力に共通する、使用後の代償。


 使用時間や力の段階で代償は大きく変わる。『虚飾ヴァニタス』の場合は全身を筋肉痛のような痛みが襲うというもの。技を使用してないだけ酷くはないが、痛いものは痛いのでロロのいう我慢して寝ることにした。








 ーーチュンッ チュンッ


 

 鳥の鳴き声で起きたフォルカが見渡すと、荷台の中には誰もおらず、外からは何かを作っている匂い。

 フォルカが呪いの代償で眠りについてから、誰も起こすことがなかった結果、すでに朝を迎えていたのだ。



「誰も起こしてくれてくれないのかよ」



 文句を言いつつ外に出る。そこは街道からは大分離れたであろう森の中。

 

 そこでは


 ロロの指示に従いながら、子供たちが食事の準備をしていた。安全だと分かったのか、食事を準備する子供たちの顔は、とても穏やかで楽しそうだった。



「フォルカが起きたにゃ~、エル! 持って行ってあげてにゃ」


「はい……」



 ロロの指示で「エル」と呼ばれた、白金色で短めの髪に赤い目をした10~13歳くらいに見える少女がスープの入った器を持ってきてくれた。1人だけ獣人族らしき特徴がないような…。


 他の子が盛り上がっている中、その子だけは淡々と笑いもせずにいる。



「……どうぞ」


「あぁ…ありがとうな」


 

 つい数時間前まで捕まっていたんだし、正直この子みたいに楽しいなんて感じれる状況にないと思うが、他の子はロロが上手にやったんだろう。

 エルと呼ばれる子を含めて5人の子供たちがいた。この子たちを王国はどうするつもりだったんだろうか?わざわざ人目のない時間帯に輸送するってことは、やましい事情がありそうだし、今回は止めれたがエルフリッドに魔族が集められている可能性があるかのしれないな。



「いただきます」



 フォルカはロロと子供たちが作ってくれた暖かいスープを飲みながら、自分のやったことについて考える。


 子供たちからすれば、訳のわからない状況は変わらないだろう。自分たちと同族の言葉だから、人間よりは信用できるし優しいっていう信用関係が今はあるだけ、ロロの言う安全な場所にたどり着くまで安心できないな。


 

「食べ終わって片付けたら、出発の準備をするから、皆は馬車の中でお昼寝にゃ~」


「「「「は~い!」」」」



 随分懐かれたもんだな。


 ロロの指示を疑いもせずに遂行する子供たちを見て思う。正直、自分じゃあんなことは出来ないから寝ててよかったかもな。


 フォルカが、子供たちを見ながらそんなことを思っていると、子供たちに指示をし終わったロロが近づいてきた。



「よく休めたかにゃ」


「あぁ……おかげ様で元気一杯だ」


「フォルカが戦ってるときから、子供たちに色々話をしたら信じてもらったにゃ」


「とりあえず、安全な場所とやらまで一緒に行くんだろう?


「後数時間で到着できるにゃ、なんとなく分かってると思うけど、私の知り合いの魔族たちがいるにゃ」



 ってことは複数の魔族が隠れ家を作って暮らしてるってことか、俺は人間だが大丈夫なのか?しかも呪い持ちだが…。



「リーダーが器のデカい奴にゃ~、フォルカは大丈夫だと思うにゃ~」


「……俺はってことは、他に何か問題があるのか?


「…さっき、フォルカにご飯を持って行ったエルって子にゃ」



 1人だけ獣人族らしき特徴がなかった子だけど、それが何かあるのか?



「エルは魔族でも人間でもないにゃ~、何なのか分からんにゃ」


「種族不明だと不味いってことか?


「にゃ~、リーダーが良くても周りが不安がりそうにゃ~」



 確かに、保護するにしても正体がまったく分からないってのは不安だ。

 魔族同士や安全が保障されているなら良いが、ロロがまったく分からないってのは許して貰えるのか?


 

「本人もよくわかって無いにゃ、まぁ連れていくのは変わらにゃいけど」


「そうだな……とりあえず行くか」



 「エル」という少女の問題を残しつつ、フォルカとロロは近づいてきている魔族の隠れ家へ向かった。





 

 

 

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