アブソルート・ディザイア -八つの大罪で世界を喰らう- 

山畑 京助

第1章 踊る虚栄心

第1話 八罪呪源 虚飾①


八罪呪源アマルティア・オクト」この呪いが無ければ、村で平和に暮らせていたんだろうな。


 7代目魔王が勇者とやらに討伐された影響で、魔族、一部亜人や呪い持ちは人間の脅威となりうると判断され、何もしていないのに襲われるような生活になってしまった。


 呪いって呼ばれてるものは、50万人に1人の確率で先天的に生まれ、存在するだけで周囲に悪影響を及ぼしたり、発する魔力で魔物をおびき寄せてしまったりする。後天的に呪い持ちになる人もいるらしいが、俺は生まれながらの呪い持ちだった。


 多くの人間が魔力を保有し、簡単に魔物や魔族を殺せてしまう時代の今、俺みたいな呪い持ちは豊富な武器と魔術を使用する輩に討伐対象とされてしまっている。


 正面を歩く猫に助けられていなければ、どこかしらで力尽きていたかもしれない。安全な場所にいる知人のところに案内してくれるそうだが、本当に安全なのか正直不安がある。



「……ロロ、知人ってどんな奴なんだ?」



 右側だけ少し長い左右非対称アシンメトリーな銀髪、赤色の瞳に、すぐ動けるような軽装、右手の甲に刻まれている赤黒い歪な模様、腰には2本のナイフを携えた青年フォルカは、自らを猫魔族ロロと名乗る黒猫に助けられてから3か月、日が落ちる頃までは、ひっそり修行し、その後目的地まで移動を繰り返す生活を送っており、さすがに不安になってきた青年フォルカ。



「フォルカは本当にビビりにゃ、安全安心だから心配すること無いにゃ」



 18年間生きてきて、呪いのせいで人から避けられてきた人生を歩んできた奴に、ビビりだと咎められても仕方ないことだと思うが、行先について尋ねるたびに、小馬鹿にされるばかりで具体的なことを教えてくれない、だからと言って他に行先が無いので、とりあえずはついていくことにしている。


 広いアルケディオの中でも一番の領土を誇るアトラン王国の南側、エルフリッド付近の街道を進んでいるが、日暮れ寸前の街道だけあって人の気配は感じないし、魔物の気配も感じないが、もしかしてと思いロロに尋ねてみる。



「魔物が寄ってこないけど、何か使ってるのか?」


「表を優雅に歩けにゃい私らにとっての必修魔術にゃ、まぁフォルカが使えるようになるには100年かかるにゃ」



 ーー小馬鹿にする必要あんのかよ!


 なんて思うが、助けてもらっている立場なので文句も言えない。

 魔術ってのは、それぞれが保有している魔力を使用して、魔力に決められた意味をもたせる技術のことだ。今のロロは「気配を消す}っていう意味を込めた魔力を俺にも纏わせてくれてるんだと思う。



八罪呪源そいつらの力を使いこなせるようになったら、襲ってくる奴にゃんていないにゃ」



 自分の右手を見てみる。


 ロロに教わってから「八罪呪源こいつら」の使い方も代償内容も、ある程度は把握することが出来た。だが、使いこなすのは遥か先のことだと思うし、まだまだ力に振り回されている感じなんだよな。



「けっこう時間歩いてるが、後どれくらいなんだ?」


「後半日くらい歩けば、到着する予定にゃ」



 かなり近くまで来てたんだな。


 街道から、そこまで遠くない場所に安全に身を構えているってことは、今のロロと同じように、魔除けか何かの魔術を使用して暮らしてるんだろう。


 ロロの後を、無くならない考え事をしながらついていく。







 それまで話をしながらも、止まらなかったロロが急に止まった。



「……敵か?」


「たぶん違うにゃ、同族の気配が薄いけど近づいてきてるにゃ」



 同族ってことは、魔族が近づいてきてるってことか。敵かどうかは分からないけど、こっちに近づいてきている。目的である知人さんじゃないでもないから警戒してるってことか。

 

 少しすると、馬車が走ってきているのが見えた。こんな夜に走ってるって余程急いでるんだろう。


 ロロと一緒に、街道から外れて木の陰にとりあえず隠れて通り過ぎるのを待つ。



「……同族の気配は、あの馬車の中からにゃ」


「そこそこ距離あるのに、よくそんなことわかるな」


「しかも幼い同族が何匹かいる気配だにゃ」


「それって!」



 ーーザッ!



 深く考えるよりも先に、足が動いていた。


 とりあえず、馬車を止めないと!



「計画性が無いにゃ~………お馬さんゴメンにゃ」



 飛び出したフォルカを小馬鹿にするように言った後、ロロの体が青白く発行した。それとほぼ同時に馬車の進む速度が遅くなり、フォルカの近くに来て完全に停止した。



「おい! くそ! なんかの魔術にかけられたな、おい! 敵襲だ!」



 先頭で馬車を操縦していた片方の男が叫ぶ。目の前には人間が1人と猫だが、馬車をどうにか停めるほどの魔術を使用してできると判断し、かなり警戒をしている。



「突っ込んで止めるまではいいけど、なんか策はあるのかにゃ?」


「なんも考えてないけど、もし幼い魔族が捕らわれてるならほっとけない」



 先頭に居た2人と荷台から出てきた3人が剣や槍といった武器を構えながら、こちらに向かってくる。ロロには警戒の色をそこまで見せておらず、フォルカに武器を構えている。


 

「そこに乗ってる魔族たちをどうするつもりなんだ?」



 5人全員に聞こえる声で尋ねてみる。


 魔族が乗っているのは間違いなかったようで、5人はこちらへの警戒を保ちながらもガヤガヤと何か話をしている、正直5人相手なんて普通じゃ敵いっこないからロロに……って!



「ロロ? ………あれ? どこにいったんだ?」



 さっきまで隣にいたはずの猫がいない! おい! 1人でどうにかしろってのかッ!



「テメェ……どっから知ったのか分からねぇーが、敵ってことは確かだな」


「捕まった魔族の使い道なんて、俺らが知るかよ! 実験にでも使われんだろ」



 きっと、人間を恐れて隠れていたところ見つかってしまい、捕らわれたんだろう。何もしてないのに魔族ってだけで捕らわれて、人間の好きに使われる。


 悪いことに使われると決まった訳ではないのに、自然と想像してしまう。罪の無い魔族たちの悲しい末路を。



「戦争で負けた種族なんだからな! 仕方のねぇーことだろ、運びの邪魔すんなら、ケガじゃ済まねぇーぞ」



 5人は、それぞれの武器を構えて近づいてくる、さすがに1人相手なので大丈夫だと思っているんだろう。


 この5人、誰も疑問になんか思ってないんだろうな。「魔族はすべて危険」「成長したら人間にとって脅威」そんな風に決めつけて、何もしてない魔族たちに自分たちの都合を押し付ける。


 

「あんたらも世間の流れにのった1部なんだろうけど………見過ごせない」



 自然と体に力が入る。



「お、おい! なんかガキの右手が!」



 俺の感情に同調するかのように、右手に赤黒い魔力が渦巻き、右手に歪な模様を描いていく。


 ……正直使いたくなかったけど、ロロ抜きで勝てる相手でもなかったから仕方ない。



「こいつ呪い持ちだぞ! しかも戦闘に使えるタイプのやつだ! 警戒しろ!」


 

 魔力の放出量に驚いたんであろう1人が叫ぶ、先ほどまでの余裕はなくなり、武器をしっかり構えて、こちらの出方をうかがっている。


 わざわざ名前を言わなきゃいけないのは嫌だが!




 「八罪呪源アマルティア・オクトー虚飾ヴァニタス』発動」



 フォルカは右手を正面に突き出し、高らかに自らの呪いの名前を宣言する。


 まったく聞いたことのない名称に、武器を構えていた5人とも守りの構えに入るが……。




「くそ! やっぱ呪言も全部言わなきゃダメなのかよ!」


「ハッタリだ!やっちまえ!」



 予想以上の魔力量と、それを放出できる技量に驚き踏み込めずにいた5人であったが、何もおこらなかったのを勝機と見出したようで、改めて武器を構えなおし、フォルカへと向かっていく。


 堪忍したように、フォルカは再度右手を正面に向け。




空ノ空カラノソラ 空虚ノ王様 顕現セヨ 『虚飾ヴァニタス』」




 ーーゴウゥッッ!!



 フォルカの呪言に応えるように、フォルカを中心に赤黒い魔力が霧のように広がっていく。


 ある程度の人間は魔力を持ち、使用することは出来る。


 だが、こんな風に自分の周囲を覆うような魔力を持つ人間も放てる人間も多くはいない。


 武器を構え、警戒を解いてはいないが、自分たちの前に立つ敵が想像以上の怪物だったことを少しずつ理解してしまったのか、カチャカチャと武器の震える音が響く。



「お…おい、なんだよ? あれ?」



 赤黒い魔力が渦巻くフォルカの背後に、真っ赤な魔力の瞳を光らせて、少しずつ巨大化しているが5人をあざ笑うかのように見下ろしていた。


 


 

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