第4話 夜叉ゼキルとエルの望み②
魔王になる前ゼキルは『夜叉』と呼ばれた鬼魔族の頭領であった。
7代目魔王の話に勇者側が攻めてきた時、勇者メンバーに自分との決闘で、すべての勝敗を決めようと提案したことが有名である。自分が敗れた後の魔王を選定していなかったことで魔族側が人間側に攻め込まれ、魔族全滅の危機を作ったとしても有名だ。
勇者に討伐されたと噂であったが、フォルカとエルに自分は7代目魔王だったと笑顔で語るゼキルに上手く反応できないフォルカの姿がそこにはあった。
「生きていたってことですか?」
「まぁ……死んだフリして、戦う気の無かった魔族の皆を連れて逃げてきたのさ」
「ムブルグさんたちってもしかして……」
「思っての通り、俗にいう魔王軍の幹部ってやつだね」
衝撃の事実を何事もないかのように言われてるが、これがもしもエルフリッド側にもバレているなら狙うのも納得がいってしまう。
でも魔王って呼ばれるぐらいなら、簡単に追い返せそうだけどなぁ
「私には、もう戦う力がほとんど残っていないからね」
「よく考えていることが分かりましたね」
「顔に書いてあったよ」
ゼキルが豪快に笑いながら言う。
フォルカはその姿をみて、リーダーっていうか、ついていきたくなるキャラしてるなと感じていた。その隣でエルはさっそく自分のこれからの参考にするため、ゼキルに何か聞きたそうにしているが、聞けずにソワソワしている。
「何か聞きたいことがありそうだね?言ってごらん」
「…ゼキルさんは、魔王になりたくてなったんですか?」
「ふふっ…そうだねぇ~」
ゼキルは少し微笑みながらも、腕を組んで考える。
かなり真剣な顔で、ゼキルの返答を待つ姿を見て、どのような答えを返すか悩んでいた。
「魔王っていう役割を背負うことが、自分のやりたいことへの近道だった気がしてね、それが魔王を引き受けた理由なんだ」
「…やりたいこと」
ゼキルは語る。
魔王というのは、魔族の中から単純な戦闘力、指揮官としての適性を見て先代が候補を決めておき、先代がタイミングを見て決めたり、死んだタイミングで候補の中で決闘して決めるという伝統があった。
ゼキルは戦闘力の高い鬼の一族頭領、鬼の中でも頭1つ抜けた戦闘力もあったことから次期魔王候補としては、他候補よりも期待される存在であった。
しかし、ゼキルは当時の魔王や他魔族とは違う考え方をもって生きていた。
「何故、わざわざ殺し合うのか? 互いに魔物から身を守るよう手をとりあって生きていけば、どちらの種族も繁栄する未来があるはずだって……思っていてね。」
「……手を取り合う?」
今では考えられない思想だ。
ゼキルは犠牲になっていく両種族を見て常に考えていたという。
互いが互いを恐れる感情と、昔から争ってきたっていう呪いのような伝統が互いを縛り、引くに引けない状況になっている。未来のある両種族の若者は名誉と言う、名前だけの栄光だけを胸に戦に散っていく。
互いに戦争に役立つ者が優れている者と判断されるようになり、生まれつきの不自由やケガ、戦争の影響で心に傷を負い戦えなくなった者は皆、無価値や害、荷物なんかと呼ばれてしまう始末。
「今は制御できているけども……フォルカ、君のような呪い持ちも同じような認識をされてしまっていたね」
「最近はさらに酷いですけどね」
鬼である自分が人間側を変えるのは難しいと考えたゼキルは、魔族側の考えを変えるために、発言力のある魔王に6代目亡き後、候補の中でも抜きん出れるように努力し、結果7代目魔王になることができた。
「魔王は確かに発言力はあったけど、団結力の無い魔族たちだったからね、意見なんて右から左だったよ」
「それでも魔王は降ろされなかったんだな」
「当時の私は、まぁ簡単に言えばケンカも強かったからね。」
ゼキルは魔王になってからやったことを話してくれた。
王国や帝国に和平の手紙を送って見たり、人間側が脅威に感じている魔物を討伐してみたりと、努力はしたのだが効果はどれも無かったようで、変わらず戦争は続き、とんでもなく強かった勇者一行が魔族たちを討ち、自分の元に辿り着いた時には、全然思い通りに行かず絶望していたらしい。
「勇者にゼキルさんの想いは伝えなかったんですか?」
「もちろん伝えたさ」
勇者からは「魔族の意見でなく、魔王個人の意見を主張したところで俺たちは変わらないさ」と一蹴されてしまったらしい。
魔族はゼキルさんの意見に耳を傾けることなく、変わらず人間と戦うことをやめなかった、それを見ていれば人間側も魔王の主張を信じることはないのは当たり前、ゼキルは分かってはいたが変えられなかったと懐かしんでいる。
「そんなこんなで首の皮1枚で逃げ切って、今に至るって訳だよ」
「壮絶ですね…」
「何者になりたいか、何を成し遂げたいのかっていうのは想いだけじゃ難しいってことだね」
「……難しい」
エルは真面目に話を聞いていたが、ゼキルの話が失敗談だったため、さらに頭を悩ませてしまっているようだ。
「エルにはフォルカがいるよ、フォルカやロロに協力してもらいながら目指せばいい」
「協力してもらいながら……」
「まぁまずは何をしたいか探さないとな」
「ここから動くには、まだ準備もエルフリッドの情報も足りないから、ゆっくりしていっていいからね」
ゼキルさんは、そういって笑いながら違う子供たちのほうへ行ってしまった。
簡単に話をしていたけど、凄い重い話だったなと正直思う。仲良く過ごせる未来のため全力を尽くしたけど、何も変わらず多くの同胞を失ってしまった。ようやくロロがここに連れてきた理由が分かった気がした。
ゼキルさんも、ゆっくりしていいっていうし、広い場所を使ってロロに修行をつけてもらわなくちゃな。
「あぁ~…ロロ探しに行くけど、一緒に手伝ってくれないか?」
「さっそく協力ですね」
さっそくできました、と小声で嬉しそうに独り言を言うエルを連れて、フォルカはロロを探しに遺跡を周った。
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