04話.[全部説明できる]
ベランダに出て話したいということだったから部屋から出た。
今日も天気がいいから空や星が綺麗に見える。
「今日、諏訪先輩の家に行ったんだって?」
「飲み物をくれるって話になったからさ」
もちろんあの後はすぐに帰ったからやましいことはなにもない。
どうしてそうなったのかを説明してほしいなら全部説明できる。
「……人が微妙になってるときに呑気なものね」
「それは丸が来てくれていなかったからでしょ? その証拠に丸と会ってからは元気だったわけだからね」
「丸が来てくれなかったからというのもあるけどあんたのせいでもあるんだから……」
「え、なんで?」
なんなら丸といられないからと佐奈がよく来てくれていたぐらいだけど。
僕はその時間を気に入っているし、これからもしてくれればいいと思っている。
ただまあ、丸には頑張ってもらいたいところだけどね。
「……あんたがデレデレしているからじゃない」
「はは、またその話?」
「そうよ、急に変わりすぎじゃない」
確かに魅力的な部分を目視していいなあと感じるときはある。
来てくれる度にもしかしたらと期待してしまう非モテ故の脳もある。
だからあまり否定もできなかった、単純に来てくれるならと相手をしているだけだとしても。
「今日のこれだってあんたが関係しているわけじゃないんでしょ?」
「また三人で集まったりしたいという気持ちはあったよ、よく泊まったりしてたからね」
「……どうせ椎野先輩か諏訪先輩がいればいいんでしょ」
ちょっと待ってほしい。
そもそもどうして彼女はそこまでそのことで引っかかっているのだろうか?
僕のことが好きだということなら間違いではないが、彼女が好きなのは丸で。
「佐奈ちゃん……?」
「佐奈はここにいるよ」
眠そうな丸を連れてきて彼女の横に立たせる。
身長も似ているからいい組み合わせだと思うんだけどな。
が、片方が好きでも片方がそうじゃなかったら延々に進まないことで。
しかも大抵は両想いになんかなれないことだから頑張れと言うのは無責任かもしれない。
「丸、すぐに寝ちゃ駄目じゃん」
「……それがなんか眠たくなっちゃって」
「佐奈が寂しがってたよ」
「ふぅ、もう眠気もどこかにいったから一階に戻ろ?」
「そうね」
自然と佐奈だけを連れて行くあたり、好意があるような気がするんだけど。
彼にとって可愛いや綺麗と感じたものはそのまま吐いてしまうから難しい。
夜ふかしをしても仕方がないから朝までしっかりと寝て一階に移動してきた。
「お腹出したら風邪引いちゃうでしょうが」
夏だろうが関係ない、冷やせばお腹とかも痛くなっちゃうからね。
「ん……基?」
「うん、おはよう」
「おはよー……ふぁぁー」
夜ふかしをしたのかそれとも単純に床で寝たからなのか眠そうだった。
後で起こすから寝ていていいと言っても丸は聞かず。
「佐奈ちゃんを起こした方がいいかな?」
「後でいいよ、あんまり寝顔とか見るべきじゃないし」
「そうだね」
朝食を作ったり軽く掃除をしたりして時間をつぶす。
「おはよー……」
「うん、おはよう」
母よりも早い起床だった。
ご飯を食べてもらっている間に父を起こすべく行動をする。
「……悪いな」
「いいよ」
なにもかもを済ませたら学校へ向かうだけ。
「ふぁぁ、あんたはよく早起きできるわね」
「慣れているからね、もう少しゆっくり寝ていてもよかったんだよ?」
「……寝坊するのは嫌だしあんた達に寝顔見られたくなかったし」
「はは、そっか」
もっと言えば丸には見られたくなかったということか。
恋する乙女だもんね、気になるものだよね。
外での自分と家での自分は少し違う気がするから分かる。
「やっほー」
「丸、行くわよ」
「うんっ」
もしかしたら佐奈は先輩のことが苦手なのかもしれなかった。
でも、積極的に邪魔をしようとはしない人だから誤解しないであげてほしいけど。
「ありゃりゃ、行っちゃった」
「おはようございます」
「おはよ!」
少し移動したところで諏訪先輩と会って一緒に行くことになった。
とはいえ、邪魔をしたいわけではないからふたりが楽しそうに話しているところを見ながら歩いていた。
あんな会話をした後でも諏訪先輩からメッセージが送られてくるなどといった変化があるわけではなかった。
まあそりゃそうかで片付けられてしまうのが情けないところだ。
三階のところでふたりと別れて寂しい教室へ。
「また来たわね」
「あんまり拒絶しないであげてよ」
「だって……あんまり丸に近づけたくないし」
遠ざけたい気持ちはなんとなく分かるがあれではあんまりだ。
なにか悪いことをしたわけでもないのに一方的に嫌われているように見えるのはね。
「増森君」
「あ、ちょっと行ってくるね」
「うん、昼休みにまた来るから」
「分かった」
一緒に廊下に出てみたら先輩はいないようだとすぐに分かった。
んー、この人もどうしてここまで来てくれるんだろうか?
「今日の放課後はあなたのお家に行くわ」
「なにもありませんよ?」
「別に構わないわ、あなたさえいてくれれば」
そりゃまあ自宅なんだから僕はいるけど。
分かるときはくるのだろうか?
いますぐには、というか、一生諏訪先輩のことを理解できなさそうだった。
「どうぞ」
「ありがとう」
この家には専業主婦の母がいるから気楽、だなんて考えた僕が馬鹿だった。
こういうときに限ってお買い物とかでいないという……。
でも、
「おお、銀の家ほどじゃないけどいいソファだー」
「父が少し拘りまして」
先輩がいてくれるのが救いだと思う。
ただ、先輩が行くと言ったときの諏訪先輩の顔は何故か凄く冷たかったから気になる。
別にふたりきりになったからってなにがどうなるというわけではないのになにか拘りでもあるんだろうか?
「ねえねえ、銀子って呼んでみようよ」
「いきなりですね……」
それだったらまだ許可を貰っているから果林先輩と呼ぶ方が気楽だ。
「私はいいわよ」
「えっと、銀子先輩」
「ええ」
あれ、意外と気恥ずかしさとかはなかったな。
これはあれか、逆に果林先輩と呼んでいた場合の方が感じていたかもしれない。
間違いなくにやにやしてくるだろうからね、そういう予想だけは簡単にできるもので。
「基弘君、私の名前も呼んでみよう」
「果林先輩」
でも、それすらもただの悪く考える癖が発動しただけで問題もなかった。
「私のことは呼び捨てでいいよ」
「でも、果林って呼んだら怒りますよね?」
「私がいいって言ってるんだよ? 怒るわけないじゃん」
「とりあえずは果林先輩で」
「はーい」
それで先輩は帰るみたいだったから外まで見送ることにした。
こういうところでひとりで帰ろうとするのは先輩らしい。
「銀のこと送ってあげてね」
「分かりました」
「それじゃ!」
屋内に戻ってみるとなんとなく不機嫌な感じの諏訪先輩が。
「勉強を教えてあげるわ」
「え、あ、それじゃあお願いします」
もう期末考査が目の前にあるからやっておけばやっておくほどいいわけだし丁度いい。
それに銀子先輩は優秀だろうから安心できる。
で、教えてもらった結果、分かりやすくてできれば毎日頼みたいぐらいだった。
「ふぅ、そろそろ帰るわ」
「送りますよ」
「ありがとう」
廊下に出てみたら母が隠れていた、なんてことがあったが気にせずに出る。
リビングでやったのは間違いだったかもしれない。
母はあそこが大好きだから次があったら客間で教えてもらうことにしよう。
「明日は私の家でやりましょう、気になるのなら果林のお家でもいいし」
「それなら銀子先輩の家でもいいですか?」
先輩には妹さんがいると言っていたから邪魔をしたくなかった。
あ、今回のこれは別に欲望を優先したわけではなく常識としてであって、などと内でひとりで言い訳をしてなにをしているんだと微妙な気持ちになった。
「ええ、それじゃあありがとう」
「こちらこそありがとうございました、それでは」
特に不満もないがこれでもっと安心できるというわけだ。
いや利用するような感じになってしまって申し訳ないけどね。
丸が頼ってきた際なんかには分からなくて役に立てなかった、なんてことにならなくて済むというのなら甘えさせてもらうしかない。
「ただいま」
「ふふふ、おかえりー」
「入ってきてくれればよかったのに」
「真面目にやっていたからね、邪魔したくなかったんだ」
母の場合は絶対にそれだけではない。
僕が佐奈以外の異性といたからにやにやしてるんだ。
「ご飯作るの手伝うよ」
「ありがとー」
いつも美味しいお弁当を作ってもらっているからこれぐらいはやらなければならない。
もっとも、上手にできるのは切ることぐらいだけど。
「よし、完成」
「お疲れ様」
「基弘ー、私の肩も揉んでー」
「うん、いいよ」
……普段転がっているだけのように見える母も疲れていることが分かった。
僕らがいない間にも家事とかお買い物とかしてくれているから当然か。
とにかく煎餅が大好きな人だから今度買ってこようと決めた。
「それでさっきの女の子とはどういう関係なの?」
「二年生の先輩なんだ、一応友達……なのかな? なんか曖昧な感じでさ」
ID交換をできているとは言えなかった。
あれはもうどうしようもないから登録したままでいいと言ってくれただけだろう。
あとは自力で出会えたわけではないからというのと、単純に先輩のことを友達扱いしていいのかが分からなかったからこんな答え方になってしまったのだ。
「佐奈ちゃんは丸ちゃんが好きだから基弘はその子と仲良くできるといいね」
「そうだね、知り合えたからには仲良くしたいね」
恋とかはまだどうでもいいからとにかく仲良くなりたい。
休日とかなんかにも気軽に誘えるようなそんな仲に。
「今度私がいるときに連れてきてね」
「おかしいな、母さんが帰ってきていたときにはまだいたと思うけど」
「それは言っちゃ駄目」
ということなのでこの話題を終わらせた。
このまま続けても困ることにしかならない。
母的には彼女ができてほしいだろうから可能性の低いことを話し始めるしね。
「今日はよろしくー」
「よろしくお願いします」
元気いっぱいな先輩も一緒にいてくれているから心強い。
これから毎日は無理でも空いている時間があったらこうするみたいだから。
お喋りをするために集まっているわけではないからそれぞれのやつに集中していた。
分からないところがあったら聞くだけみたいな感じ。
「つまんなーい」
「なにしに来たのよ……」
「や、勉強のためだとは分かってるよ? でも、そればかりで息苦しいっ」
そう言われてもそれが目的でしっかりできているということなんだから困ってしまう。
ただその後も文句を言って止まらなかったので、銀子先輩が自由にしてていいと言った。
先輩はあっという間にリビングから消えて、それだけではなく階段を上がっていく音が聞こえてきた。
「いいんですか?」
「いいわよ、あの子はこの家に慣れているから」
それならこちらは気にせずに勉強をするべきだ。
それで大体十八時頃までやらせてもらった。
これ以上の長居はできないから帰ろうとしたら呼び止められて足を止める。
「真面目にやって偉いわ」
「せっかくお誘いしてもらったわけですからね」
「明日からは果林を誘わないようにしましょう」
「僕は大丈夫ですよ、それではこれで」
傘をささなくていいというだけで楽だった。
少し暑いから歩いているだけで汗が出てきそうになるのは問題だけど。
「ただいま――あれ」
話し声が聞こえてきたからリビングに行ってみたら何故か佐奈がいた。
佐奈は僕を見るなり冷たい顔に、なるようなこともなく、母と話しているだけ。
それなら邪魔するのも悪いからと部屋に行って続きをやることにした。
教えてもらって理解できているいま確実なものにしておきたい。
「話しかけもせずに出ていくなんて冷たいじゃない」
「いや、楽しそうだったからさ」
最近の佐奈はよく分からないところがある。
僕が先輩達と一緒にいるのをやたらと気にしてくるのだ。
下手をしたら好きなんじゃないかとすら勘違いできるような言動や行動だ。
「今日も一緒にやってきたのよね?」
「うん」
「じゃあいまからは私とやりなさいよ」
「いいよ、やろうか」
客間の方にローテーブルがあるからそちらでやることにした。
とはいえ、彼女は自分でほとんどできるから特に会話をしたりすることもない。
だから今日は珍しく二時間以上も授業以外で真面目に勉強をすることができた。
「明日は私も行くわ」
「じゃあ丸も連れて行っていい? 丸が一番不安だから」
「そうね、ま、椎野先輩達が無理なら諦めるけどね」
「大丈夫だよ、果林先輩なんてすぐにやめちゃったからね」
「はは、想像しやすいわ……ん?」
彼女はシャーペンを机に置いてこちらを見てくる。
こちらもなにかを発するまでは見ておくことになった。
「なんで名前呼びしてんの?」
「呼んでって言われてさ、銀子先輩のことも呼ばせてもらっているかな」
「勉強のために行ったんじゃないの?」
「勉強のためだよ、だから佐奈に聞いてばかりじゃなくなったでしょ?」
負担をかけないために日々少しずつ努力していたというのもある。
それにどうせなら教えられる側になりたかったんだ。
汚い欲望だけどそれで嬉しそうにしてほしかった。
あとはいまも言ったように丸のことが心配だからというのもある。
いざ聞かれたときに分かりませんでしたじゃ丸の力になってあげられないから。
「佐奈、勘違いしないでよ」
「……分かった、続きをやろ」
「うん、やろう」
もっとも、勘違いしそうになっているのはこちらだったけど。
いやもう本当に実は僕のことが好きなんじゃないかとすら思えてくる。
でも、実際は違うんだから口にしたりはしないけども。
「ふぅ、もう帰るわ」
「送るよ」
「うん」
今日の空は曇りがちで星が見えなかった。
もしかしたらそろそろ雨が降るかもしれない。
そうなったら相手の家にはなかなか行きづらいから勉強会はなくなる可能性がある。
「どんどん来てくれればいいから」
「佐奈達がいても違うクラスには入りづらいんだよ」
「じゃあお昼休みぐらい相手をしなさいよ」
「空き教室で過ごそうか、丸もたまには連れてきてね」
放課後までしっかり一緒にいればちくりと言葉で刺されるようなこともなくなるだろうか?
元気のなさが暑さや丸が来てくれないことだけではなく、僕が先輩達を優先(佐奈からしたら)しているように見えたからということなら余計にね。
「あと、これぐらいの時間は必ず相手をすること」
「丸とじゃなくていいの?」
「丸とはそれまで過ごすからいい」
「分かった、じゃあまた明日ね」
その、ちゃんと丸と過ごすということをしっかりできれば変わるはずで。
佐奈が変わらなくても丸の中でなにかが変わるかもしれないから無駄ではない。
まあ、佐奈がちゃんと勇気を出せたら、の話なんだけど。
「……やっぱり泊まる」
「えぇ、せっかくここまで来たのに?」
「……冗談よ、送ってくれてありがと」
「うん」
こちらはささっと帰ってもう少し勉強をする、前に母の手伝いをしようと決めた。
「大丈夫だよ」
「そう?」
と言ってもらえたからご飯の時間まで追加で勉強することにした。
贅沢者だって思った。
だって当たり前のように異性がいてくれるんだから。
しかも分からないところは教えてくれるし、一緒にやってくれるし。
そのおかげでひとりぼっちにはならないでいられている。
だからこれからも一緒にいられればいい。
「おい基弘っ」
「えっ!? きょ、今日はハイテンションだね」
父の急襲。
流石にこれには飛び上がった。
勉強机の向き的に扉には背を向けているからというのもある。
「綺麗な子が来てくれているぞ」
「あ、教えてくれてありがとう」
それで来てくれた理由はプリントを忘れていたかららしかった。
「すみません」
「いいのよ、明日でもよかったんだけれど……」
「ありがとうございます、でも、連絡してくれれば取りに行きましたけど」
「細かいことはいいわ、それじゃ」
「あ、送ります送ります」
今度から夜に出るときは果林先輩も誘ってほしかった。
ま、本当は信用できる男の人がいてくれた方がいいんだけど……。
ただ、冷たい顔をされたくなかったから言うことはやめておいた。
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