第2話
僕は桜の咲く4月にこの街にやってきた。
僕も希望住民の1人だった。
理由は両親が交通事故で急に亡くなったためだ。
葬儀のあと、役所の人間が来て言った。
ターゲットタウンに住めば、成人になるまで衣食住は保障してくれるという。
おまけに奨学金として金銭援助もあるという。
他に身寄りのなかった僕は、その話に乗った。
高校近くのワンルームのアパートを、無料で貸してくれた。
おかげで他の生徒と同じように、不自由のない学生生活をおくれた。
夏休みが終わり9月1日。
丁度、1年の2学期が始まる日だった。
僕の高校に転校生がやってきた。
女の子だった。
黒髪は腰にとどくまで長かった。
長いまつげ、パッチリとした目が気を引いた。
スタイルもよく、出るところは出ていた。
はっきりいってきれいだ。思わず見とれてしまう。
クラスの男子も皆、彼女に好意を抱いたのは間違いない。
だがその明るい容姿とは反対に内面は暗かった。
先生から紹介されても、うつむきがちだった。
小さな声でボソボソと、名前を言っただけだった。
彼女は誰も友達を作ろうとはしなかった。
話かけられても、適当な返事をするだけだった。
次第にクラスの女子は彼女と距離を置いていた。
何人か、彼女に気のある男子が声をかけたが、相手にされなかった。
その後もクラスの皆と打ち解けることもなかった。
2週間過ぎても状況は同じだった。
ある日の休み時間。
僕はクラス担任の先生に呼ばれた
先生は生徒思いのいい先生だった。男性で丸いメガネがトレードマークだった。
彼女のことを気にしていた。
「彼女はまだこの街に慣れていません。あなたが友達にってこの街に慣れるようにしてあげて下さい」
「あ、はい。わかりました」
ラッキーだ。
あんなきれいな彼女と話せる口実ができた。
席が隣だった僕は、言われた通り自分から彼女に積極的に話しかけるようにした。
彼女は休み時間はずっとイヤホンをしていた。
唯一外すのは、トイレに行く時くらいだった。
「ねえ、何聞いてるの?」
「……ロック」
「好きなバンドとかある?最近流行ってるバンドだとさあ……」
僕は陽気に彼女に話し続けた。
だが彼女は視線も合わせず曖昧にへえ、とうなずくだけだった。
明らかに僕と話すのを嫌がっている。
カタカタと、人差し指で机の隅を叩き続けている。
きれいな指だった。
会話は続かなかった。だが僕は諦めなかった。
放課後の廊下。
まぶしい程の夕陽が差し込んでいた。
カバンを手に帰る彼女に、僕は後ろからついていった。
ついにキレた彼女が振り返った。
「しつこいわね。
「あ。いや。僕は先生に言われて……」
「なに?じゃああんた。先生に言われたらなんでもするの?」
「い、いや、そういうわけじゃ。ただクラスの皆と一緒に楽しく……」
「楽しく?はっ。楽しくですって?いつミサイルが飛んでくるかもしれないのに、楽しくですって?バカじゃないの。そんなこと出来るわけないじゃない」
彼女は感情を爆発させて言った。
それまで溜め込んでいたのものが、一気に出てきたようだった。
「大体あなた達おかしいんじゃないの!?よくみんな、平気でいられるよね。ミサイルのターゲットにされてる街に住んで」
「そうだな。もう慣れちゃったからかな」
「慣れたとか、そういう問題じゃないでしょ」
一息ついてから彼女は言った。
「私は怖いのよ。いつミサイルが飛んでくるか分からない街なんて」
彼女は僕の右腕をぎゅっとつかんだ。
ブルブルと震えていた。
「嫌なことばっかり!親が事故で死んで、こんなとこと連れてこられて」
「君もなんだ」
「え?」
「僕もそう。事故で親を亡くして―それでここへ」
「あなたも?そうなんだ……」
同じ境遇だと知ったことで、彼女は急に僕に心を開いた。
そして目の前まで顔を近づけた。
ヤバイ。めちゃめちゃドキドキする。
「な、なに?」
「ねえ、あなた。私と友達になりたいんでしょ?じゃあ協力してよ」
「協力?」
「そう。街をでるための協力」
「で、でも」
「あなた彼女いる?」
「いない」
「ほしい?」
「そりゃ、できれば……」
言い終わらないうちに、彼女は急にキスしてきた。
「な、なにっ!?」
「わたしがなったげるから。その代わりに協力。絶対よ」
理性が吹っ飛んだ僕は、黙ってうなずいた。
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