やがて飛んでくるミサイル

空木トウマ

第1話

僕の街。

 僕の住んでいる街。

 どこにでもあるよな、ごく変哲のない街だ。

 人口は3万人弱。

 主に都心へのベッドタウンとしての機能を有していた。

 電車は2線通っている。

 一つは地下鉄だ。

 駅前には大型の百貨店がある。

 同じ通りには銀行も支店が3つあり、オフィスビルが並んでいる。

 南口にはロータリーがある。

 そこから3社のバスが出ている。

 朝と夕方には、バスを待つ学生やスーツ姿のサラリーマンの姿が多く見られる。

 南側に広がるアーケードには、ハンバーガーや牛丼チェーン等、ファストフードの店を中心に賑わっている。

 さらに南側には戸建ての住宅街が広がる

 北側には、新しく新築されたマンションが並んでいる。

 国道が走っておりコンビニやガソリンスタンドが数多くある。大型の家電量販店、ショッピングモールなどもでてくる。

 このように、どこにでもあるような、ごく変哲のない街だ。

 だがここが他の街と決定的に違うところが一つある。

 それはミサイルが飛んでくる可能性がある街、ということだった。

 状況こうだ。

 僕のいる国と国境を挟んだ隣の国は、長い歴史の中で何度も戦争を繰り返していた。

 民族・政治・経済・領土・資源・宗教。両国は全ての面で対立していた。

 長年に渡る戦争で、消耗は激しかった。

 ようやく5年前に停戦状態となった。復興の目処がつき始めた。

 対立は収まる気配はなかっったがもう両国とも、全面戦争は避けたいという考えは一致していた。

 そこで両国政府は、監視と牽制を同時に出来る手段を考えた。

 それがミサイルが両国の互いの街を狙うということだった。

 街は正式名称とは別にこう呼ばれた。

 ターゲットタウン、と。

 過去5年間。2回ミサイルが互いの街に向けて発射されていた。

 飛んでくるミサイルは1発だけという協定があった。

 1発だけだがその破壊力は、凄かった。

 街はほぼ全壊した。何万人という死傷者がでた。

 その後はまた、新たな街がターゲットになるというわけだった。

 そんな恐怖の中、僕らは毎日を送っている。

 ならば忘れればいいって?

 なるほど。確かにそうかもしれない。

 でもそれは無理だ。そう出来ないようになっている。

 1ヶ月に1回、1日の日。

 ミサイルについての特別講義が行われる。

 学生は、学校。

 社会人は、勤務先。

 主婦や、高齢者は役所。

 教師、管理職、役人から同じ講義が行われた。

 市民がミサイルを忘れた状態で生活されても、意味がないからだ。 

 内容は両国の状態、歴史、ミサイルの範囲。それを反芻するものだった。

 そして最後は平和への祈りで締めくくられた。

 平和への祈り?

 ミサイルに狙われた状態で、平和への祈りもないだろうとは思う。

 でも仕方ない。とにかく、そう決められているのだ。

 ミサイルで狙われているような街に、誰も住みたくないだろう。

 だがターゲットタウンに指定された街の住民は、許可が下りない限り他所へ引っ越すことは出来ない。

 これは両国とも同じ人口、同じ経済発展にし、ミサイルが飛んできた際の被害を同じバランスにするためのものだった。 

 ターゲットタウンの住民は2種類いた。

 元々住んでいた住民。

 それと希望住民。

 この2つに分けられた。

 希望住民とは互いの街の人数が合わない時、他所から移住してきた住民のことだった。

 希望とうたってはいるが経済的、社会的事情から半ば強制的にこの街に連れてこられた者達だった。

 希望住民ではなく、強制住民とも陰では呼ばれていた。

 標準的な街が、そしてそこで暮らす市民が犠牲となることに意味があると政府は考えた。               

 このため生活は安定している。税金は一律4分の1になった。治安もよかった。

 他の街では高齢化が問題になっているが、僕の街ではそれはない。

 なぜなら、世代毎の人口分布の調整がされているからだ。

 各世代はそれぞれ20%になるようになっていた。

 





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