第44話 白衣の天使の生首とSL機関車

「サイコロ投げるのを、自分でやることはできます!

 このサイコロを、3回投げてください!」


 コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら、スカートからサイコロを出した。

 納音なっちんGゲール・かおりは、目を輝かせながらコトリ・チョウツガイの手のひらにある3個のサイコロを見た。


「なるほど、そのサイコロの出た目が、転生したわたしの生首の運命の分岐点になるのですね。それを3回試行すると。

 でも困ったわ。私は漢字が読めないので、六面体のサイコロはともかく、

 このオシャレな、八面体の赤い漢字が刻まれたサイコロと、八面体の黒い漢字が刻まれたサイコロが、何を示しているのかが理解できないわ。

 解らないことをそのままやるのは、とても気持ちが悪いですね」


 コトリ・チョウツガイは、3個のサイコロを納音なっちんGゲール・かおりに手渡しながら、ニコニコしながら答えた。


「安心してください! わたしもよく解っていません」

「あらダメよ。何事も仕様はしっかりと確認しないと。イツキさんとやら、説明してくださらない?」


 イツキ・ケブカワは、「はぁあああ」とため息をついた。

 面倒なことになった。本当に面倒なことになった。

 イツキ・ケブカワは、しぶしぶ、八卦はっけの概念の説明を始めた。


 ・

 ・

 ・


「なるほど、つまりこの世界は、ジョージ・ブールさんのブール代数が基板となっているのですね。素敵ね」


「はい。すべてのコンピュータ概念の根源、つまり論理回路の理論は、ブール氏の論理がいしずえとなっています。この結果、後にクロード・シャノンと言う数学者が、二進数の概念を発見したのです。

 八卦はっけは八進数で森羅万象を占う卜術ぼくじゅつですので、情報処理と相性がとても良いのです」


 納音なっちんGゲール・かおりは、少女のように目を輝かせ、いやいや説明を始めたイツキ・ケブカワも満更ではない顔をして説明した。

 二人の会話が一切合切わからないコトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら腰に手を当てて、なんだかオシャレな青色の瓶に入ったドリンクをゴクゴクと飲んでいた。お酢だった。


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 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが1上がった。

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 納音なっちんGゲール・かおりと、イツキ・ケブカワは、ずっと議論を続けていた。

 二人の会話が一切合切わからないコトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら腰に手を当てて、なんだかオシャレな青色の瓶に入ったドリンクをゴクゴクと飲んでいた。お酢だった。


———————————————————

 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが1上がった。

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(なんや、このふたりお似合いやなあ。会話が全く途絶えへん。

 あ、でもイツキさんには、もっと〝ええ人〟がおるからアカン。めっちゃ残念やけど、かおり先生には諦めてもらわんと)


 コトリ・チョウツガイは、二人のやりとりをひとりごちながら、本日3本目のお酢を飲み干した。


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 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが1上がった。

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 コトリ・チョウツガイが、4本目のお酢を手に取ろうとしたところで、


「では、そろそろ始めましょう!」


と、ケブカワ・イツキが言った。

 そして、ノートPCのエンターキーを思いっきり「コーン!」と叩いた。


 途端に周囲はオドロオドロしい紫色のエフェクトに包まれた。

 そして、コトリ・チョウツガイが装備していた〝かわのたて〟が、フワフワと宙に浮き、さっきからずっと宙に浮かんでいる納音なっちんGゲール・かおりの生首の、斜め四十五度に鎮座した。


 斜め四十五度に鎮座した〝かわのたて〟なんとも不穏な音楽が流れた。

 そしてそして、とても恐ろしい声が聞こえてきた。


『キ~~~~~ング、ゲイルー!!

 これから、おまえにサイコロを3回ふらせてやろう!

 出たの目の結果で、お前の生首の転生先が決まる! 喜べ!』


「あらあら、ちゃんとルールの説明もしてくださるのね。親切だわ」


 納音なっちんGゲール・かおりがニコニコと感想を答えると、〝かわのたて〟の斜め四十五度前で宙に浮かんでいる納音なっちんGゲール・かおりの生首が「パッカーン!」と空いた。

 そして、口から線路が飛び出て、しゅぽしゅっぽと二両編成のSL機関車が現れた。

 そして〝かわのたて〟からアナウンスが聞こえた。


『ポッポー! かおり先生の番です!』


「はいはい。では転がしますよ」


 納音なっちんGゲール・かおりは、サイコロをころがした。ワゴンの上に広げた、オシャレな緑色のスカーフの上にサイコロを転がした。

 サイコロはてんてんてんと転がって、八面体は〝コン〟と〝ゴン〟、普通のサイコロは六の目を出した。


『先生! 15マス進めますぞ!』


 アナウンスと同時に、SL機関車はマッハで走り、黄色いマスでピタリと止まった。


『14歳、とあるタレントオーディションで応募総数52,357の中から15名に選ばれ、アイドルデビュー』


「あら。私の生首の来世は偶像アイドルなのね。素敵」

「めっちゃスゴイ応募人数や! これ、めっちゃスゴイですよかおり先生!」


 納音なっちんGゲール・かおりとコトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら感想を言い合った。

 イツキ・ケブカワは「むむ?」と首をかしげた。


「3回転がすのよね。それじゃあ2回目。えい」


 納音なっちんGゲール・かおりは、サイコロを転がした。ワゴンの上に広げた、オシャレな緑色のスカーフの上にサイコロを転がした。

 サイコロはてんてんてんと転がって、八面体は〝ゴン〟と〝ケン〟普通のサイコロは六の目を出した。


『先生! 25マス進めますぞ!』


 アナウンスと同時に、SL機関車はマッハで走り、黄色いマスでピタリと止まった。


『24歳、アイドルグループの統括リーダーを務めたのち卒業。芸能事務所を設立し、最終的に十二人になる国民的アイドルグループをプロデュースする』


「あらあら。私の生首の来世は実業家でもあるのね。素敵」

「めっちゃスゴイ! アイドルで社長さんやなんて、まるでワンコさんみたいや!」


 納音なっちんGゲール・かおりとコトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら感想を言い合った。

 イツキ・ケブカワは「むむむ?」と頭をかかえた。


「あらあらあら。だあれ? そのワンコさんとやらは?」

「ワタシが所属する地下アイドルの社長さんです。でもって、プロデューサーさんです。十二支をモチーフにしたアイドルで、わたしはとり担当のコトリです。」


とり担当のコトリ? とても覚えやすくていいですね」

「はい!」


 コトリ・チョウツガイは、スタイルの良い胸を張った。


「でもコトリさん、先ほどなぜあなたはその事実を隠していたのです?

 あなたは、占い師のタマゴでしょう?」


「まだアイドルで生活はできんのです。アイドルの世界は厳しいです」

「なるほど、偶像アイドルはかくも厳しい世界ですのね」


「メイドも占いもしっかりやってます。そこは抜かりありません!」

「なるほど、東洋には『二足のわらじ』ということわざがあります。二足でも大変なのに三足とは、あなたはとても働き者なのね」


「はい!」


 コトリ・チョウツガイは、スタイルの良い胸を張った。

 イツキ・ケブカワは「むむむむ?」と頭をかかえた。


 ひょっとしたら、納音なっちんGゲール・かおりの生首の転生した人物は、自分がよく知っている人物なのかもしれない。


 自分の天敵とも言える、とんでもなくガンコな人間なのかもしれない。

 ガンコなワンコなのかもしれない。


 イツキ・ケブカワは、「はぁあああ」とため息をついた。

 面倒なことになった。本当に面倒なことになった。

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