第36話 ゴールデンハンマーと3つのサイコロ
「わたしの勝ちです!」
〝コトリ〟は、能天気な軍艦マーチのリズムに合わせて、気が狂った様にゴールデンハンマーを振り回した。
これはマズイ。とてつもなくマズイ。
イツキ・ケブカワの操る〝あさ子〟は、圧倒的な劣勢にたたされた。どんどん狭くなっていくステージで、当たると即死のゴールデンハンマーを避けつづけなければならない。
そして、最も絶望的なのは、〝コトリ〟がお酢を5本飲んでいること。すなわち木行ポイントが+5あることだった。
コトリ・チョウツガイは、心の中で素早く「↑+B」と入力した。
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メイド服のスキル、
最も直近に使用した
武器リーチ増加。
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ゴルデンハンマーは「ギュイン」と伸びた。
コトリ・チョウツガイが使用できる
ゴールデンハンマーの攻撃範囲は、ステージのほとんどの範囲を網羅している。そして無情にも、ステージはどんどん小さくつづけている。
(ぐぅ!)
イツキ・ケブカワは苦悶のうめきをもらすと〝あさ子〟をステージの外にジャンプさせた。そして復帰不能ギリギリのタイミングで、「→↓↘︎+B」と入力し、大振りの「バリツキャノン」を放って、片手でステージのヘリにぶらさがった。とても苦しい時間稼ぎだった。
このまま終わってしまうのか……イツキ・ケブカワが諦めたその時、戦局が動いた。
「ずるい! ずるい! ずるい!」
第三の女、キコ・アンラクアンが動いたのだ。
キコ・アンラクアンは
これは自分が企画したゲームだ。そして実装の中で最も難しい巨大ステージの準備までしたのだ。
なのにどうだ! 二人の助手の態度はどうだ!!
開始早々「キラーン」とお星様にされて、それ以降はずっと蚊帳の外だ。
自分はボケーっと楽しそうなふたりの戦いを見ているだけだ。
屈辱的だった。
二人の助手は、社会人としてなっていない。接待プレイがなっていない。
キコ・アンラクアンの怒りが頂点に達した。そして、おもむろにグレーのスーツのポケットからサイコロを取り出した。
八面体の赤い字の刻まれたサイコロと、八面体の黒い字が刻まれたサイコロと、至って普通の六面体のサイコロだった。
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対象:本日のキコ・アンラクアンとノートPCの相性。
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キコ・アンラクアンは、思いっきりイツキ・ケブカワのノートPCにサイコロを叩きつけた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
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キコ・アンラクアンのスキル発動。〝
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サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャとキーボードを叩いた。
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〝
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サイコロはガチャガチャガチャガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略の2乗)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略の3乗)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略の4乗)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略の5乗)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略の6乗)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロはガチャガチャ(中略の7乗−2の8乗)ガチャとキーボードを叩いた。
サイコロは、ノートPCにキーボードを狂ったように暴れ回った。
そして白い八面体のサイコロと、普通のサイコロは大きく宙をまった。残った赤い字の八面体のサイコロは、エンターキーを、思いっきり「コーン!」と叩いた。そして、エンターキーの上で〝
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デバックモード起動。〝
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〝かわのたて〟から能天気な効果音を流れてきた。
同時に、イツキ・ケブカワの声の
(ちょ、先生なに勝手にズルしてるんですか!)
〝コトリ〟が空を見上げると、下半身むき出しの〝
「めっちゃキショイ!」
下半身むき出しの〝
そしてすぐさまゴールデンハンマーに「コーン!」とぶん殴られてステージの外に落下した!!
〝かわのたて〟から能天気な効果音を流れてきた。
下半身むき出しの〝
そしてすぐさまゴールデンハンマーに「コーン!」とぶん殴られてステージの外に落下した!!
すべての所作がどれも流れるように美しく一切の無駄がなかった。
キコ・アンラクアンは、絶望的にゲームが下手だった。
地獄だった。地獄絵図だった。
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