第34話 上級者とテクニカルキャラ

 戦線に復帰したコトリ・チョウツガイは、足に引っ掛けていたお酢入り風呂敷を蹴り上げると、華麗に背中に装着した。いつもの異世界探索スタイルだった。


「せっかくや、嫁入り前の娘の扱いが色々とひどいイツキさんに、思いっきりスマッシュ攻撃食らわせたる!」


 コトリ・チョウツガイはお仕事モードになって気を引き締めた。


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 さて、ここで現在の戦況を整理しよう。

 現在生存しているキャラクターは、タクミ・ケブカワの操作する〝あさ子〟。

 そして、コトリ・チョウツガイの操作する〝コトリ〟の2キャタクターだ。


 〝あさ子〟の蓄積ダメージは、現在108%。すでに危険水域だ。

 一方の〝コトリ〟の蓄積ダメージは、現在8%。バトル開始前にうっかり転んたしりもちダメージだけたった。


 一見すると〝コトリ〟が圧倒的に有利に見える。しかし、このハンデキャップがあっても、〝あさ子〟の絶対有利は覆らない。それくらい、プレイヤースキルに開きがあった。


 普段から〝コトリ〟を操り数々の死線を潜り抜けてきたタクミ・ケブカワと、普段は操られるがままのコトリ・チョウツガイ……結果は火を見るより明らかだ。


 だが、コトリ・チョウツガイにも意地がある。なんとか一矢を報いるべく、お酢を飲んだ。



「Bボタン」で発動する必殺技「酸性耐性おす、めっちゃスキ」だった。


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 蓄積ダメージが3%回復した。

 木行ポイントが1上がった。

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 〝コトリ〟の必殺技「酸性耐性おす、めっちゃスキ」は、とても便利な必殺技だ。なんだかお洒落な青色の瓶に入ったドリンクをゴクゴクと一気飲みすることで、ほんのわずかだがダメージを回復できる。さらに「Bボタン」を押し続けることによって、空き瓶を飛び道具として投げることができる。


 回復と牽制を同時にこなせる、とても便利な技だった。さらに、すべての所作がどれも流れるように美しく一切の無駄がなかった。つまり、スキがほとんどない技だった。


 だが、そんなことは、普段〝コトリ〟を持ちキャラにしているイツキ・ケブカワも当然知っている。〝あさ子〟は苦もなくガードした。



 必殺技「お酢めっちゃ好き」。


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 蓄積ダメージが3%回復した。

 木行ポイントが1上がった。

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 必殺技「お酢めっちゃ好き」。


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 蓄積ダメージが2%回復した。

 木行ポイントが1上がった。

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 必殺技「お酢めっちゃ好き」。


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 蓄積ダメージが0%回復した。

 木行ポイントが1上がった。

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 必殺技「お酢めっちゃ好き」。


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 蓄積ダメージが0%回復した。

 木行ポイントが1上がった。

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 〝コトリ〟の目的は、ダメージ回復ではなかった。そして、空き瓶を投げる事でもなかった。

 コトリ・チョウツガイは心の中で素早く「↑B」と入力した。

 木行ポイントを5ポイント消費した。


「頭脳戦なら負けませんよ! なぜならわたしの頭脳はお推理(お酢入り)やから!」

「え? あ、しまった!」


 イツキ・ケブカワは、〝コトリ〟のたくらみに気がついた。

 しかし今更気づいてももう遅い。


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 メイド服のスキル、職務経歴詐欺キャリアシート発動。

 最も直近に使用した推命アビリティを不正使用。

 推命アビリティ8。〝辛未かのとひつじ〟発動。

 光学迷彩。

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 コトリ・チョウツガイは、たちどころに砂嵐に包まれた。そして、体の輪郭がうっすらと景色と混ざっていき、やがて完全に同化した。

 前回の任務で、ムネハル・クリアリバーの切腹に立ち会うために小早船こはやぶねに乗り込んだ時に使用した推命アビリティだった。


 〝コトリ〟は、使用した推命アビリティをコピーできる、テクニカルなキャラだった。

 〝あさ子〟はすでに蓄積ダメージが108%だ。強烈な吹き飛ばし攻撃を一撃与えることさえできれば、遥か彼方にふっと飛んで「キラーン」とお星様になる。


「うーん、ヤバイなぁ」


 イツキ・ケブカワは、ステージ上にいるプレイヤーのコトリ・チョウツガイにわざと聞こえる様につぶやいた。


 嘘だった。


 イツキ・ケブカワは、ポケットから貝殻を取り出した。軟膏なんこう、つまりは塗り薬だった。

 イツキ・ケブカワは、軟膏なんこうを指で少しだけすくい取ると、目に塗った。


 そして、静かに推命アビリティを使用した。


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 推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟発動。

 人物観察プロファイリング:鑑定方法、相術そうじゅつ

 特殊効果:玲珠膏しゅれいこう

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 イツキ・ケブカワの瞳、具体的には角膜に直接、〝コトリ〟の情報が映し出された。


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名前:コトリ・チョウツガイ

職業:東洋メイド


必殺技

立B必殺技:酸性耐性おす、めっちゃスキ

横B必殺技:風呂敷おマッシュ

上B必殺技:職務経歴詐欺キャリアシート(木行ポイント5消費)

下B必殺技:ドッスンおトーン


習得推命アビリティ:60〝癸亥みずのとい

状態異常:なし

特殊判定:玲珠膏しゅれいこうにより姿を捕捉


 イツキ・ケブカワは、狼狽ろうばいしきった声をあげた。


「お、落ち着け、まずは……落ち着け……」


 嘘八百だった。

 顔は、これ以上ないくらいニヤケていた。


 イツキ・ケブカワは、コトリ・チョウツガイを調子づけるため、わざと〝コトリ〟が、見えていないフリをしていた。必死に笑いをこらえているのが功を奏し、絶妙に声が震えて狼狽ろうばいする様を演出できた。


 そして、完全に騙されているコトリ・チョウツガイは「くっくっくっ」と笑いを押し殺しながら抜き足差し足と〝あさ子〟に近づくと、心の中で「→+B」と入力し、肩に背負しょっていた風呂敷を、砲丸投げの要領で思いっきり振り回した。

 〝なかったこと〟になっているお酢の重さを、キャンセル技で吹き飛ばしエネルギーに変換する「風呂敷おマッシュ」だった。


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