第33話 あさ子と戸居(ドイル)とコトリ

 〝かわのたて〟からエコーの効いたカッコいい声が響き渡った。


「3・2・1・GO!」


 開幕早々、コトリ・チョウツガイに、キコ・アンラクアンが操る下半身むき出し紳士がダッシュで襲いかかってきた。無表情で目の瞳孔が開いていた。


「めっちゃキショイ!!」


 コトリ・チョウツガイは、下半身むき出しの紳士から、悲鳴をあげながら逃げ惑った。そして、〝かわのたて〟に向かって叫んだ!


「ちょ! イツキさん! なんでわたしも参加せんとアカンのんです!?」


 〝かわのたて〟越しに、イツキ・ケブカワの声が聞こえてきた。


(僕も先生と一緒で、一度遊んでみたかったんだよね。いつもはコトリちゃんを操作しているけど、一回でいいから本気でコトリちゃんと戦ってみたかった)


「なに、バトルジャンキーみたいなこと、言うとるんですか!

 あと、本気で戦うなら、わたしも万全な状態で戦わせてください!

 お酢がないと、下半身むき出しの紳士に、ストーカーみたいに追いかけ回されて、無抵抗に身体をもてあそばれて、用済みになったらステージ上からポイされます!」


(確かに、言われてみればそうだ。お酢を取ってくるよ。どこに置いてるの?)


「わたしの住み込み部屋に、唐草模様からくさもようの風呂敷があります。中にお酢が入ってますから、こっちまで放り投げてください!

 重さは〝なかったこと〟になってるんで、イツキさんの貧相な二の腕でも届きます!」


 コトリ・チョウツガイは、どさくさに紛れてイツキ・ケブカワの結構な悪口を言った。


(了解! すぐに取ってくる!)


 だがイツキ・ケブカワはその悪口を全く意に介さず、コントローラーのポーズボタンを押して、駆け足で風呂敷を取りにいった。


 コトリ・チョウツガイとイツキ・ケブカワが、互いに心から信頼しているビジネスパートナーであることの証左であった。互いが何をしたいのかを、1言えば10理解する。かゆいところに手が届く、阿吽あうんの呼吸のビジネスパートナーだった。


 ポーズボタンを押された上半身むき出しの紳士は、ピタリと動きを止めていた。

 そして、そんな無抵抗な紳士を、下半身むき出しの紳士がポコポコと殴り始めた。


 *わかりづらいので、以降は参戦キャラクターをファイター名で呼称する。

  上半身むき出しの紳士〝あさ子〟(プレイヤー:イツキ・ケブカワ)

  下半身むき出しの紳士〝戸居ドイル〟(プレイヤー:キコ・アンラクアン)

  酸性耐性おす、めっちゃスキ〝コトリ〟(プレイヤー:コトリ・チョウツガイ)


 キコ・アンラクアンは絶望的に空気が読めない人間だった。

 空気が読めないキコ・アンラクアンが操作する、〝戸居ドイル〟にポコポコと殴られる〝あさ子〟は、どんどんダメージを蓄積していった。ダメージは危険水域の100%をオーバーした。


「ちょ! 先生、何コズルイことやってるんですか!』


 タクミ・ケブカワは、急いでお酢の入った風呂敷を上空にぶん投げると、コントローラーにしがみついた。

 重さが〝なかったこと〟になっているお酢の入った風呂敷は、グングンと上空にとんで行き、見当違いの方向に飛んでいった。


「ちょ! イツキさん! コントロール悪すぎません!?

 タクミさんとはえらい違いや!!」


 このままでは、お酢の入った風呂敷は、見当違いの方向に「キラーン」とすっ飛んでいってしまう。

 コトリ・チョウツガイは、断崖絶壁となっている床から思いっきりジャンプすると、お酢の入った風呂敷を「ガシっ」とはがいじめにした。そして両手の自由を確保するため、風呂敷の結び目をエナメルの靴にひっかけた。

 そして、スカートのポケットから、唐草模様からくさもようの風呂敷取り出すと、「バッサァ」と広げた。

 コトリ・チョウツガイは、上昇気球に乗って大きく宙を待った。そして、スカートがヒラリとめくれるのに細心の注意を払いつつ、上手に風呂敷を操りながら、スイスイと空を飛んで戦線に復帰した。


 一方、〝戸居ドイル〟に、良いように身体をもてあそばれていた〝あさ子〟は、タクミ・ケブカワによって命を吹き込まれていた。

 〝あさ子〟は〝戸居ドイル〟の大振りの吹っ飛ばし攻撃を、冷静に「↓+B」で無効化すると、そのままカウンターの正拳突きを繰り出した。そして、素早くステップを踏んで近寄ると、そのまま背負い投げで放り投げた。上方に放り投げ出された〝戸居ドイル〟に、〝あさ子〟は絶妙なタイミングで、戸居ドイルあさ子の脳内だけに存在する、東洋の格闘技「バリツ」の必殺技を放った。「↓↘︎→+A」で〝〟を放つ「バリツバースト」だ。


 「バリツバースト」は、ちょうど〝戸居ドイル〟の体の上方にあたり、再び〝戸居ドイルの体を跳ね上げた。


 〝あさ子〟は、「↓↙︎←+A」の高速の回し蹴りでを追撃した。「バリツタイフーン」だ。

 そしてすぐさま「←↙︎↓↘︎→+A」で連続ヒットする〝灼熱しゃくねつ〟を放つ「アトミックバリツ」とおみまいして〝戸居ドイル〟をピヨらせた。


 〝あさ子〟は悠々とジャンプをすると、フラフラと頭の上にヒヨコをチラつかせている〝戸居ドイル〟を飛び越えるようにキックをブチ当て、着地するやいなや強烈なアッパーカットを喰らわせて、すぐさま(右向きになった為)「←↓↙︎+A」と入力しアッパーカットの動作をキャンセルして強烈な必殺アッパー「バリツキャノン」をおみまいした。


 そしてそしてすぐさま(右向きになった為)「←↓↙︎←↓↙︎+AB」と入力して「バリツキャノン」をキャンセルしてさらに強力に強烈な超必殺アッパー「アルティメットバリツキャノン」をおみまいした。


 キコ・アンラクアンの操作する〝戸居ドイル〟は、遥か上空にすっ飛んで、お空の彼方に「キラーン」とへ消えていった。

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