第32話 天才小説家と天才小説家と東洋メイド

 戸居どいるあさ子は、〝どうのつるぎ〟で、ちょうど胃袋のところで真っ二つに切り裂かれた。

 戸居どいるあさ子は、息絶えた。


 〝どうのつるぎ〟は、そのまま回転をしながら壁にブチあたり、壁をガリガリと攻撃して正確な五角形の穴を開けると、そのままビュンビュンと回転しながら唸りをあげて上昇していき、「キラーン」と空の彼方へ消えていった。


「痛い。痛い。痛い」


 〝57〟と書かれたドアの敷居につまづいてすっころんだ銀フレームの絶世の美女は、受け身が取れずに床にしたたかぶつけたアゴをさすりながら、ヨロヨロと起き上がった。


 それらの一連の様子を、数字の〝57〟が書かれてあったドアの向こうで呆然と眺めている黒スーツの男がいた。イツキ・ケブカワだった。


 イツキ・ケブカワは、我にかえって青ざめた顔をして叫んだ。


「ちょ! 先生、何やってるんですか! すぐに生き返らせないと!!」

「了解。了解。了解」


 先生と呼ばれたグレーのスーツの絶世の美女は、銀フレームのメガネをスチャと構えて珍妙に答えた。美女の名前はキコ・アンラクアン。

 安楽庵あんらくあん探偵事務所の所長で、東洋メイドのコトリ・チョウツガイと、黒スーツの男、イツキ・ケブカワの上司にあたる。


 キコ・アンラクアンは、〝かわのたて〟を天にかかげた。

 〝かわのたて〟のスキル、〝駅馬えきば〟受信レベルバリ3!


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 〝駅馬えきば〟受信レベル1。

 〝かわのたて〟とイツキ・ケブカワのノートPCのトランザクションを確認。音声通話を許可。


 〝駅馬えきば〟受信レベル2。

 戸居どいるあさ子、イツキ・ケブカワのノートPCと五感データを互換。


 〝駅馬えきば〟受信レベルバリ3。 

 戸居どいるあさ子、状態異常。脳波信号をイツキ・ケブカワのノートPCに移譲。

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 この瞬間、戸居どいるあさ子の全権限は、イツキ・ケブカワのノートPCに移譲された。


「ちょ! 先生、何ワケのわかんないことやってるんですか?

 早く推命アビリティ使わないと、もう時間がないです!」

「了解。了解。了解」


 イツキ・ケブカワは冷や汗をたらしながら大慌てで、キコ・アンラクアンは至って冷静に、推命アビリティを使用した。


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 推命アビリティ52。〝乙卯きのとう〟完全蘇生。

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 戸居どいるあさ子の下半身から、まる裸の上半身が生えた。

 戸居どいるあさ子の上半身から、まる裸の下半身が生えた。


 危なかった、あやうく死後60秒が経過するところだった。

 あと5フレーム遅かったら、取り返しがつかないところだった。


 死後60秒が経過すると、遺体の損壊箇所は回復しない。

 戸居どいるあさ子は遺体損壊が酷すぎる。ピッタリとくっつけて蘇生をほどこしても、深刻な後遺症が残る恐れがあった。

 それに比べれば、二人に増える後遺症など、全然大したことはない。


 大丈夫だ、問題ない。


 後遺症の心配を一切気にする必要がない二人の戸居どいるあさ子は、足を振り子にように降って、手を使わずに跳ね起きた。そして無表情でファイティングポーズを取った。

 とてもニュートラルでスキのないファイティングボーズだった。


 キコ・アンラクアンは、そんなふたりの戸居どいるあさ子を見てモジモシと照れていた。


 戸居どいるあさ子の上半身むき出しの体がたくしいからでは無い。

 戸居どいるあさ子の下半身むき出しの体がたくしいからでは無い。


「いっしょにゲームしよ? しよ? しよ?」


 キコ・アンラクアンは、照れながらイツキ・ケブカワにゲームのコントローラーを差し出した。


「ゲーム?? ……ひょっとしていつもコトリちゃんを操作してるヤツのことですか??」


 イツキ・ケブカワは、電波バリ3のコトリ・チョウツガイを遠隔操作する際、彼女をゲームコントローラーで操作していた。


 キコ・アンラクアンは、それが羨ましかったのだ。自分もコントローラーで異世界のゲームを遊んでみたかったのだ。いつも異世界のゲームを一人で楽しんでいるイツキ・ケブカワが羨ましかったのだ。


「別に構わないですけど……」


 イツキ・ケブカワは満更ないでも無い顔をして、戸居どいるあさ子の執筆デスクにつくと、ノートPCをパカリと開けて、物凄い勢いでキーボードとガチャガチャ言わせ始めた。


「うん、これでOK!」


 イツキ・ケブカワは、キーボードのエンターキーを「タン」と叩いた。

 すると、遥か彼方に飛んでいった〝どうのつるぎ〟が、そのままビュンビュンと回転しながら唸りをあげて戻ってきて、二人の戸居どいるあさ子と、コトリ・チョウツガイの周辺を、正確な五角形の形に切れ込みを入れて、再びビュンビュンと唸りをあげて彼方へと飛んでいった。


「じゃ、先生、お願いします」

「了解。了解。了解」


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 推命アビリティ5。〝戊辰つちのえたつ〟地形ビルド。

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 五角形に切れ込みを入れられた床がグラグラと揺れると「ボコン」と外れて宙に浮いた。


「え? なんです? これ?」


 コトリ・チョウツガイは。グラグラする床に立ってられなくなり、尻もちをついた。

 二人の戸居どいるあさ子は、無表情でファイティングポーズを撮り続けた。


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 キコ・アンラクアンのスキル、干支七度廻るてんてんどんどんてんどんどん発動。

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 床は「ボゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴン」と大きくなった。


 床は巨大化して、部屋いっぱいのサイズになった。


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 〝丁亥ひのとい〟発動。加算を乗算に状態異常。

 (〝どうのつるぎ〟強化時に詠唱済)

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 床は「ボゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。

 床は「ボゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン」と大きくなった。


 床は屋敷を突き破って瞬く間に巨大化し、巨大なステージとなった。


 イツキ・ケブカワは、ノートPCには、二人の戸居どいるあさ子と、コトリ・チョウツガイが写っていた。


 イツキ・ケブカワは、ノートPCに無線コントローラーを同期させると、指の形をしたカーソルで「1P」と書かれたバッチをつかみ、上半身まる裸の戸居どいるあさ子の上に置いた。


「あさ子!!」


 上空から、小気味の良い効果音とともに、エコーの効いたカッコいい声が響き渡った。

 〝かわのたて〟だった。〝かわのたて〟はスピーカーの役目を果たしていた。そしてカメラの役目を果たしていた。絶妙なカメラアングルで、でっかくなった床の全景を捉えていた。


 キコ・アンラクアンは、ノートPCに無線コントローラーを同期させると、指の形をしたカーソルで「2P」と書かれたバッチをつかみ、下半身まる裸の戸居どいるあさ子の上に置いた。


戸居どいる!!」


 上空から、小気味の良い効果音とともに、エコーの効いたカッコいい声が響き渡った。


 イツキ・ケブカワは、「CP」と書かれたバッチをつかんで、コトリ・チョウツガイの上に置いた。


「コトリ!」


 上空から、小気味の良い効果音とともに、エコーの効いたカッコいい声が響き渡った。


「え? ちょ、ちょっとなんですか? これ??」


 コトリ・チョウツガイが混乱していると、〝かわのたて〟からエコーの効いたカッコいい声が響き渡った。


「3・2・1・GO!」


 天才小説家と天才小説家と東洋メイドの大乱闘が始まった。

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