第31話 天才小説家と新人メイド
天才小説家、
「ごちそうさま。いやはや素晴らしかった。これが東洋の神秘ってやつかな?」
ルバーブのパイをすっかりつ食べ尽くした天才小説家の
新人の東洋メイド、コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながらテーブルの片付けを始めた。
天才小説家は、壁にかかったジャケットとチェック柄の鹿撃ち棒帽を取り、いそいそと身をつけた。
「ちょっと出掛けてくる。ディナーは外で済ますから必要ない」
新人の東洋メイド、コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら言った。
「かしこまりました。スイスで滝のように酒を浴び、そのまま滝壺に飲み込まれるのですね?」
図星だった。
東洋の新人メイド、コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながらつづけた。
「変ですもん。ちょっと出かけるのにそんな明らかにアウトドア用の帽子かぶって、靴も登山用ですし、あきらかに変です。
以前旅行で訪れた、スイスのライヘンバッハに行って、探偵と同じ最後を遂げるおつもりなのですね?」
完全に図星だった。
天才小説家の
すばらしい! これが東洋の神秘か!
東洋の新人メイド、コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながらつづけた。
「辛いのはわかります。でも、先生の小説をみんな待っています。飽き飽きしとるのもわかります。
わたしが尊敬しとる人も同じこと言うてました。おんなじ曲ばっか求められて、めっちゃしんどいって」
同じ曲? この東洋の新人メイドは歌手志望なのか?
「おんなじ歌ばっか求められて、おんなじ曲ばっか歌って踊って、ホンマ、めっちゃしんどいって。
でも、そんなん思うんはファンに失礼やって言ってました、せっかく売れたのに、売れとらん人もたくさんおるのに、めっちゃ贅沢で失礼な悩みやって」
なるほど、歌の世界にも似たような悩みを持つ天才がいたのか。
そして、そして天才は凡人には解らぬ悩みを抱えて、誇りを持って孤独に生き続けるべきなのか……。
「いやはやスッキリしたよ。バッサリと見えない刃で切り裂かれたみたいだ。そうか、これが東洋の神秘、すなわち〝気〟なのだな?」
東洋の新人メイド、コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら首を
「ちょっとなにってるか、わからんけど、気持ちがスッキリしたみたいで良かったです。じゃ、スッキリしたところで、バッサリ死にましょ?」
「はぁ!?」
ちょっと意味がわからない。なんなんだこの東洋の娘は、鼻が低い平坦な顔の娘は?
さっきまで、自殺するつもりだった私を生きろと諭して、その舌の根が乾かぬうちに死ねと言うのか?
コトリ・チョウツガイは、
「
ちょっと意味がわからない。さっぱり意味がわからない。
二人になる?
そして、一人は生まれ変わる??
本当に何を言っているのだこの東洋メイドは。
そして、コトリ・チョウツガイはニコニコと笑いなから、大きな声で叫んだ。
「先生! お願いします!」
ドアは、ハッキリとした一面グレーのドアだった。そして額縁が備え付けられてあった。額縁の中に数字の〝57〟が書かれてあった。
ガチャリ!
ドアノブが反時計回りに回されて、額縁のついたドアから、髪をひっつめにして、グレーのスーツに身を包み、銀フレームのメガネをかけた絶世の美女が現れた。右手には〝どうのつるぎ〟左手には〝かわのたて〟を持っていた。
絶世の美女は、一歩踏み出すやいなや、いきなりドアの敷居につまづいた。
そして、〝どうのつるぎ〟は、絶世の美女の手から「すぽりん」と抜けて、唸りを上げて回転しながら、コトリ・チョウツガイにすっ飛んで行った。
「こわっ!!」
コトリ・チョウツガイは素早くしゃがんで避けた。
危なかった、あと5フレーム反応が遅ければ、首と胴体がおさらばしていた。
攻撃をかわされた〝どうのつるぎ〟は、その先の射線上にいた、
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