第22話 お忍びメイドと目ざとすぎる男

 カンベエ・ブラックフィールドが頭を下げると、ビッチュウ=タカマツ城の石垣の上で無表情で眺めていたエケイ・ブラックテンプルは、とっとと城の中に入って行った。


 ムラカミ・パイレーツのふたりは、ゴザを広げて宴会をおっぱじめた。ムネハル・クリアリバーのお神酒みきを少しばかりくすねたのだろう。


 まったくいいご身分だ。


 カンベエ・ブラックフィールドは、ため息をついて荒縄で松の木にくくられた小早船こはやぶねを見た。小早船こはやぶねは、不可思議に揺れていた。


 カンベエ・ブラックフィールドは、懐から貝殻を取り出した。軟膏なんこう、つまりは塗り薬だった。

 カンベエ・ブラックフィールドは、軟膏なんこうを指で少しだけすくい取ると、目に塗った。


 そして、静かに推命アビリティを使用した。


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 推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟発動。

 人物観察プロファイリング:鑑定方法、相術そうじゅつ

 特殊効果:玲珠膏しゅれいこう

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 カンベエ・ブラックフィールドの瞳、具体的には角膜に直接、娘の情報が映し出された。


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名前:コトリ・チョウツガイ

職業:お忍びメイド

スキル:酸性耐性おす、めっちゃスキ


統率:05

武力:09

政治:06

智謀:03

教養:08

魅力:93


習得推命アビリティ:60〝癸亥みずのとい

状態異常:なし

特殊判定:玲珠膏しゅれいこうにより姿を捕捉。


 カンベエ・ブラックフィールドは、推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟を発動したまま、お忍びメイドのコトリ・チョウツガイに話しかけた。


「もし」


(!?)


「お前だ。忍の娘」


(……な、なんで気づいたん??)


 お忍びメイドのコトリ・チョウツガイは、心臓が飛び跳ねた。背筋がゾクゾクとした。


「こたびは7ヶ月前のイナバ=トットリ城の時のような、南蛮女中なんばんじょちゅう出立いでたちではないのだな?」

 

(……イ、イナバ=トットリ城? あの時もバレとったん? 目ざとすぎません??)


「我が一族のマジックアイテム〝玲珠膏しゅれいこう〟はなんでも見通す。連合国家の企みなど全てお見通しだ」


(……ま、マジですか?)


「見た限り、こだびの任務もいくさの横槍では無さそうだ。しからば、このまま気づかぬフリをしておくが……よからぬ事を企んでいるようであれば、こちらにも考えがある。よいな?」


 コトリ・チョウツガイは、ガクブルと震えながら、何度も何度も首を上下に動かした。首が千切れんばかりにうなずいいた。


「どうせタカカゲ・リトルリバーのお節介であろう。死出の旅路へと、公方くぼう様からの品をたまわっておるのだろう。よいよい。存分に食わせてやるが良い。そして腹を切ればよかろう」


 コトリ・チョウツガイは、ガクブルと震えながら、何度も何度も首を上下に動かした。首が千切れんばかりにうなずいいた。


「では、とっとといくが良い」


 カンベエ・ブラックフィールドは、推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟を解除した。


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 ・


 コトリ・チョウツガイは、ガクブルと震えなながら、抜き足差し足と歩みを進めた。警戒しているからではない。怖いからだ。怖くて足がすくんで動かないのだ。


 推命アビリティ8。〝辛未かのとひつじ〟で、完全に姿を隠しているにも関わらず、じっとこちらを凝視しているカンベエ・ブラックフィールドが、もう、怖くて怖くてたまらないのだ。


 コトリ・チョウツガイは、ひいひい言いながらどうにかこうにかビッチュウ=タカマツ城に入った。

 そして、自分が完全にカンベエ・ブラックフィールドの視覚に入らない状態になったことを入念に確認してから、〝かわのたて〟を天にかかげた。


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 〝かわのたて〟のスキル、〝駅馬えきば〟発動。

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 プルルルル……ガチャリ


(コトリちゃん、首尾はどうだい)


 〝駅馬えきば〟に出たのは、日本一の和食料理人、タクミ・ケブカワだった。

 コトリ・チョウツガイは、念のためこそこそと小声で会話を始めた。


「守備も攻撃もないです!(こそこそ)

 相手方のお侍さんにバッチリ見つかりました!(こそこそ)」


(え? 推命アビリティ8。〝辛未かのとひつじ〟は使ったんだよね?)


「はい、今も使ってます。

 使ってるんやけど、なんや貝殻に入った目薬つけて、推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟使われてガッツリ見つかりました。(こそこそ)〝相術そうじゅつ〟やと思います。めっちゃ目ざといです(こそこそ)」


(貝殻に入った目薬? まさか、黒田官兵衛くろだかんべえか?)


「多分、そうやと思います。なんやよくわからんけど、カンベエ・ブラックフィールドって呼ばれています(こそこそ)」


(そうか、あの天下一の軍師か……完全に油断した。俺の責任だ)


「タクミさんは悪くないです。イナバ=トットリ城に行ったんもしっかりバレとりました。(こそこそ)

 せやからタクミさんは悪くないです。悪いのはイツキさんです! 厳重注意しといてください!!(こそこそ)」


(本当か? いやはや、流石は天下一の軍師。我々では足元にも及ばないな……)


「そうです。ほんまイツキさんには、あんまり調子に乗らんよう、きつーくお灸を据えたってください!(こそこそ)

 ……とりあえず、なんや知らんけど、見逃してくれるらしいんで、わたしは任務を続行します(こそこそ)」


(了解。じゃあ、僧侶が退出したら、推命アビリティ8。〝辛未かのとひつじ〟を解除して、タカカゲさんからあずかった品を城主にわたしてくれ)


「はーい!(こそこそ)」


 ガチャリ


 コトリ・チョウツガイは〝駅馬えきば〟切ると、こそこそと本殿のスライドするドアの前に移動した。

 

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