第20話 お忍びメイドと水浸しのお城

 不穏な空気を感じ取ったコトリ・チョウツガイは、目的地のビッチュウ=タカマツ城に足早に向かって行った。


 悪い予感は当たった、目的地のビッチュウ=タカマツ城は、まるで大雨による水害でも起こったように水浸しになっいた。

 辺り一面、見渡す限りが水に埋まっている。水深は腰の辺りまでありそうだ。泥にまみれた汚水でビッチュビチャのドッロドロになっていた。


 コトリ・チョウツガイは、目の前の惨状を、〝かわのたて〟越しに、できるだけ正確に日本一の和食料理人タクミ・ケブカワに説明した。


(やっぱりそうか。ほぼ、こちらの世界の史実通りだ)


「史実っちゅうのがちょっと、なにいってるかわからんですけど、このままだと、タカカゲさんから預かった品を渡すことできません。どうしましょう?」


(ちょっと待ってくれ。今、〝どうのつるぎ〟と〝かわのたて〟のスペックを調べている。パソコンの操作には慣れていなくてな。すまない)


「ええです。ええです。ゆっくり調べてください。まだ、鯛が食べ頃になるんには時間がありますし」


(すまない。もう少しだけ待ってくれ)


 ・

 ・

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 どれだけ待っただろうか。もうずいぶんと日が傾きはじめた。

 コトリ・チョウツガイは、待ちくたびれて喉の渇きとお酢の禁断症状を発症した。


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 コトリ・チョウツガイ、状態異常。

 〝酸性依存症おす、めっちゃのみたい〟を発症。

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「ちょっとだけや、ちょっとだけや……」


 コチリ・チョウツガイは、禁断症状に耐えきれず、ハァハァと息を切らせながら唐草模様からくさもようのお酢のビンを取り出した。

 コトリ・チョウツガイは、うつろな瞳をドロリと輝かせながら、お酢のキャップを「パキリン」と開けて、腰に手を当ててゴクゴクと飲みはじめた。


 乾いたのどに、お酢の強烈な酸味が浸透していく。


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 コトリ・チョウツガイの木行ポイントが1上がった。

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「あぁ! めっちゃうまい。強烈な酸っぱさの中にも、ハッキリとしたしょぱさと、淡くピリリとした苦味が楽しめて、でもその奥にかすかに、しかしながらしっかりと輪郭の立ったコクのある酸味。やっぱりタクミさんの調合したお酢は世界一や! いや、異世界にもないから異世界とこの世界ひっくるめて一番や! 美味しさ一等賞Most Variableすばらしいおすや!」


 コトリ・チョウツガイは、ビストロたくみでつまみ飲みした時と、一字一句、寸分違わぬ感想をひとりごちた。


 タクミ・ケブカワは一度習得した調理は、寸分違わず再現できる。

 キッカリ60工程もある、とても複雑かつ繊細な調理技術を要する〝コトリ・チョウツガイ専用お酢〟を、毎回寸分違わぬクオリティで作り上げることができる。

 日本一の和食料理人とうたわれた、タクミ・ケブカワの超人的な職人技術の為せる技だった。


 コトリ・チョウツガイは、もう一本お酢を飲んだ。

 すべての所作がどれも流れるように美しく、一切の無駄がなかった。


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 コトリ・チョウツガイの木行ポイントが1上がった。

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 コトリ・チョウツガイは、さらにもう一本お酢を飲んだ。


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 コトリ・チョウツガイの木行ポイントが1上がった。

 (現在、累計で木行もくぎょうポイント+5上昇)

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 そして、もう一本お酢を飲もうとしたところで、〝かわのたて〟越しのタクミ・ケブカワから連絡があった。


(待たせてしまって本当に申し訳ない)


「え? あっ、はい! すみません何の話でしたっけ?」


 お酢の快感で頭を支配されていたコトリ・チョウツガイは、ビクリと体を震わせた。完全に現在の状況を忘れていた。


(……ビッチュウ=タカマツ城への進入方法の件だ。方法はふたつある。

 ひとつめは時間はかかるが、安全確実に〝かわのたて〟の推命アビリティで侵入する方法。

 もうひとつは、〝どうのつるぎ〟の推命アビリティで強引に潜入する方法。

 どちらがひとつ選んでくれ)


「〝かわのたて〟がいいです!」


 コトリ・チョウツガイは、迷わず答えた。


「〝どうのつるぎ〟が、いろいろと危険が危ないです!」


 そう、〝どうのつるぎ〟は、とてもマニアックで、かなりとり扱いが難しいスキルと推命アビリティばかりが詰め込まれている。とてもプレイングが難しい。

 〝駅馬えきば〟の電波をバリ3にして、イツキ・ケブカワが、コトリ・チョウツガイの操作を代行する時に限り、使用する装備だった。


(了解だ。であれば、さっそく〝かわのたて〟の推命アビリティ8。辛未かのとひつじを使ってくれ。そして船に乗り込んでくれ)


「はーい」


 コトリ・チョウツガイは、唐草模様からくさもようの風呂敷から、素早く5本のお酢を取り出すと、目にも留まらぬ早技で、瞬く間に5本ものお酢を飲み干した。


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 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが5上がった。

 (現在、累計で木行もくぎょうポイント+10上昇)

 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントがMAXに到達した。

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 心ゆくまでお酢を堪能したコトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら木行もくぎょうポイントを10消費して、インスタントスキルを発動した。


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 〝経歴詐欺キャリアアップ〟発動。全ての武器熟練度をMAXに不正に書き換え。

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 コトリ・チョウツガイの〝どうのつるぎ〟と〝かわのたて〟が、七色に光り輝いた。いや、正式には10色だった。ハッキリした色合いの〝緑赤黄白青〟の5色と、淡い色合いの〝緑赤黄白青〟の10色だった。

 なんだか、ものすごいレアアイテムがくじ引きで当たったような、なんとも胡散うさん臭い光り方だった。


コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら〝かわのたて〟を天にかざした。


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 推命アビリティ8。〝辛未かのとひつじ〟発動。

 光学迷彩。

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 コトリ・チョウツガイは、たちどころに砂嵐に包まれた。そして、体の輪郭がうっすらと景色と混ざっていき、やがて完全に同化した。


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 〝かわのたて〟のスキル、干支七度廻るてんてんどんどんてんどんどん発動。

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 光学迷彩。

 光学迷彩。

 光学迷彩。

 光学迷彩。

 光学迷彩。

 光学迷彩。

 光学迷彩。


(いちいち面倒くさいが、そういう仕様なのだ。ご了承いただきたい)


 コトリ・チョウツガイは、泥にまみれた汚水でビッチュビチャのドッロドロの水辺に浮かんでいる、数人乗りの小早船こはやぶねは船に乗り込んだ。(と思う)


 小早船こはやぶねは、コトリ・チョウツガイの重みで、ゆらゆらと揺れたが、やがてすぐに揺れを止めた。


 ほどなく、四人の男がやってきた。その内の二人は、船の漕ぎ手だった。

 その内の一人は、僧侶だった。

 そして、最後の一人は、足を引きずる侍だった。


 僧侶の名前は、エケイ・ブラックテンプル。連合国家の外交僧がいこうそうだった。 

 足をひきずる侍は、カンベエ・ブラックフィールド。魔王西方進行軍の司令官、ハゲネズミ男の軍師だった。

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