ラストレター
第15話 悩める男とお忍びメイド
男は悩んでいた。悩める男だった。
悩める男は小国の領主だった。しかし、とても地位の高い小国の領主だった。なぜなら男の属する小国は、いくつもの小国が連なる連合国家だったからだ。
そしてその悩める男の父親は、連合国家の実質的な頭領として、十数年君臨した人物だった。そしてその権力は、息子達に譲渡された。故にその小国の悩める男は、その連合国家の要職にあった。
悩める男の名前は、タカカゲ・リトルリバー。
若き頃、たくさんの小国の中のひとつに養子に出されて家督を継いだ男だった。
父はとても知恵が働き、武勇があり、そしてとても運が良かった。英雄と言っても過言ではない。
悩める男は、そんな偉大なる英雄の三男だった。そして父からトンデモナイ強運を授かっていた。
悩める男、タカカゲ・リトルリバーは、目下、魔王軍と交戦中だ。そして苦境に立たされていた。魔王軍の部下の、ハゲネズミ男に
このままでは連合国家は魔王に
そう、悩める男は連合国家の滅亡を覚悟していた。
しかし、悩める男は偉大なる英雄の父より、トンデモナイ強運を授かっていた。
魔王の部下のハゲネズミ男が、和議を持ちかけていたのだ。
信じられないくらい、とてもありえないくらいの好条件だった。
悩める男タカカゲ・リトルリバーは、次兄、モトハル・グッドリバーの了承を得て、和議に応じることにした。
偉大なる英雄の父はとっくに死去していた。トンデモナク知恵が働く長兄は、若くして父よりも先に死去していた。そしてトンデモナイ武勇を誇る次兄も、病魔に
「はぁあああ……」
悩める男タカカゲ・リトルリバーはため息をついた。
連合国家の重責が、運だけが取り柄の小国の領主、タカカゲ・リトルリバーの双肩に、ドッシリとのしかかっていた。
「失礼します」
スライドするドアの向こうから、女の声が聞こえる。
忍びだ。
「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました。お入りください」
悩める男、タカカゲ・リトルリバーは、一介の忍びに敬語で応えた。
「失礼します」
スライドするドアが半分開いた。忍びの娘が、両膝をつき腰をかがめていた。
忍びの娘は、一度ドアを開くのを止めた、そして両手を添えてドアを全開にした。
そして、部屋に入ると音を立てずに「そっ」ドアを閉めた。
とてもマナーが良かった。
マナーの良い忍びは、全身黒ずくめの衣装だった。しかし隠密には向かない格好だった。全身黒ずくめの衣装にとても清潔な真っ白いエプロンをつけ、おまけにとても目立つ髪飾り、ホワイトブリムをつけていた。
忍びの女はメイドだった。つまりはお忍びメイドだった。
お忍びメイドは、そのままシンプルな造りの床のヘリを踏まずに歩き、悩める男、タカカゲ・リトルリバーの下座に座った。
そして、三つ指を立てて
「お久しぶりです。タカカゲさん。お元気そうでなりよりです」
「コトリさんもお変わりなく。去年の10月以来ですから、半年とちょっとですか」
「はい。わたしにとっては、つい一週間前なんですけど……多分、こっちの世界やと7ヶ月ほど前の出来事です」
つい一週間前……? ちょっとなにいってるか、わからない。
タカカゲ・リトルリバーは首を
コトリと呼ばれたお忍びメイドは、ニコニコと話を続けた。
「今回も、前回と同じご依頼ですか?」
「はい。面目ないです。本当にお恥ずかしい……」
「こんなやご時世やからしゃーないです」
コトリと呼ばれたお忍びメイドは、ニコニコするのをやめると、とても悲しげな顔をして言った。そして、言葉を続けた。
「持っていくのは、目の前にあるこの3つのお品でええですか?」
「はい。よろしくお願いします。
「はーい」
コトリと呼ばれたお忍びメイドは、ニコニコしながら返事した。
「ひとつ、注意がございます」
コトリと呼ばれたお忍びメイドは、ニコニコしながら聞き返した。
「なんでしょう?」
「こたびの任務、絶対に失敗は許されませぬ。なかでも
「めっちゃわかりました」
コトリと呼ばれたお忍びメイドは、ニコニコしながらポケットから
「では、行ってきます。あ、鯛のおかしらは、せっかくやから美味しくしてから持っていきます」
「
悩める男タカカゲ・リトルリバーは頭を下げた。頭頂部は青々と剃り落とされ、後頭部の髪は束ねられて、見事な
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