第14話 勇者ご一行とふたりの赤ん坊。

 公益ギルドのアイテム鑑定所の鑑定士、兼、所長、兼、先生のキコ・アンラクアンが魔王の玉座に「ぼけー」と座っていると、コトリ・チョウツガイと勇者ご一向が戻ってきた。


「おつかれ。おつかれ。おつかれ」


「無事、十二運ステータスが〝死〟から〝墓〟に移行しました。木行ポイントも1になっとるから、三年後には転生してくると思います」


「ごくろう。ごくろう。ごくろう」


 勇者ご一行が、キコ・アンラクアンとコトリ・チョウツガイの珍妙なやりとりを「ぼけー」と聞いていると、コトリ・チョウツガイがメイドらしい気遣いを見せた。


「みなさん、わたしの私事わたくしごとにお付き合いいただき誠にありがとうございました。めっちゃ助かりました。

 ついさっき〝かわのたて〟経由で、イツキさんから連絡ありました。スイートルーム予約してくれたそうです。どうか、心ゆくまでごくつろぎください。

 あ、各種オプションにつきましては、多様性がございますし、いささか個人情報に抵触いたしますので、お手数ではございますが、ご自身でのご注文をお願いいたします」


 コトリ・チョウツガイは深々と頭を下げた。


「あ、ありがとう……」


 代表して勇者テンセン・チチュウが礼を述べると、コトリ・チョウツガイと、キコ・アンラクアンは、ずっと開けっぱなしになっている、額縁に〝21〟と書かれたドアの前に立った。

 そして、コトリ・チョウツガイは、キコ・アンラクアンの頭を「ぐぐぐっ」と、無理くり頭を下げさせると、自分も「ぺこり」と頭を下げた。


「それでは、わたしたちは、お先に失礼いたします。ほんま、ありがとうございました」


「こちらこそ本当にありがとう。魔王を倒してくれて。世界を救ってくれて」


 勇者テンセン・チチュウが礼を述べた。勇者ご一行の代表、いや、この世界を代表して礼を述べた。


「あ、それは、もののというか、結果的に偶々たまたまそうなっただけなんで、ホンマに気にせんといてください。それじゃ、失礼します」


 そう言うと、コトリ・チョウツガイは、改めて「ぺこり」と頭を下げた。

 キコ・アンラクアンは、さっさとドアの中に入って行った。しっかりと、ドアの敷居を踏みしめて、マナーのなっていない入り方をした。

 頭を上げたコトリ・チョウツガイは、自分もそそくさとドアの中に入っていた。ドアの敷居をまたぎ、メイドらしく「失礼します」と丁寧ていねいにおじぎしながら、音を立てずに「そっ」ドアを閉めた。


 ガチャリ。


 ハッキリとした、緑とグレーのツートンカラーのドアは、戸が閉じた瞬間に「フッ」消え去った。


 ・

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 勇者ご一行は、城下町〝シンジュク〟に戻った。

 魔王の城に程近い、最果ての街〝シンジュク〟は、城壁に囲まれた城塞都市だ。魔王軍との前線基地を兼ねており、強力な武具が取り揃えられレアアイテムも豊富だった。


 勇者ご一行は、城壁を護る門番にめざとく見つかり、声をかけられた。


「おおお! 勇者ご一行のお戻りだ! 魔王を倒した勇者ご一行の凱旋だ!」


 勇者ご一行は、街の住人に、最大限の祝福を受けた。当然だ。世界が救われたのだから。


 しかし四方八方から聞こえてくる声の中には、祝福ではない声も混ざっていた。


 年頃の男ひとりと、年頃の女ふたりの不思議な組み合わせに余計な詮索をする者。マイノリティ種族のエルフの娘を興味深く眺める者。珍妙な柄の布を腰に巻き、その下には何もつけていない武闘家の娘の姿に余計な妄想を膨らませる者。


 だが、勇者ご一行は一向に意に介さなかった。勇者ご一行は有名人だ。自分たちに対する陰口は慣れっこだった。


 だが、魔王の悪口は堪えた。勇者ご一行の面々に向かって堂々と放たれる、魔王の悪口は結構堪えた。しかし、街の住人には罪の意識はない。


 街の住人は知らないのだ。魔王たちの壮絶な過去を。

 街の住人は知らないのだ。そもそも魔王が、ふたりだったことを。

 街の住人は知らないのだ。そもそも魔王は、ただの彼氏と彼女であることを。


 勇者ご一行は、公益ギルドに行き魔王討伐のミッション完了を報告した。

 そして、公益ギルドに併設されたスイートルームの予約を確認した。


 ギルドの受付嬢は答えた。


「はい。うけたまわっております。ただ、イツキ・ケブカワと言う人物からのご予約ではありまん。中央ギルドから、つまり我々の組織が予約致しました」


 勇者ご一行は、公益ギルドを見渡した。


 アイテム鑑定所のドアは、どこにも見当たらなかった。

 ハッキリとした緑とグレーのツートンカラーのドアが、どこにも見当たらなかった。


「あの、あそこにアイテム鑑定所ってありませんでしたっけ? 受付嬢のコトリさんがいて……」


 代表して勇者テンセン・チチュウが疑問を述べると、公益ギルドの受付嬢は、首をかしげてにべもなく答えた。


「さあ? そのような施設は、当ギルドにはございませんが? 〝コトリ〟という人物も存じ上げません」


「そうですか……」


 代表して勇者テンセン・チチュウが相槌をうつと、勇者ご一行の三人は、顔を見合わせて首をかしげた。


 ・

 ・

 ・


 202X年、とある世界にひとりの赤ん坊が産まれた。男の子だった。予定よりずいぶんと早く産まれて、1500グラムにも満たない未熟児だった。この世界では今は〝極低出生体重児〟と呼ばれている。

 しかし、後にその赤ん坊は、たくましく、そしてしたたかに成長する。


 202X年、おなじ世界にひとりの赤ん坊が産まれた。女の子だった。予定よりずいぶんと遅く産まれて、このご時世ではかなり珍しい4キロを超えるジャンボベイビーだった。この世界では今は〝高出生体重児〟と呼ばれている。

 しかし、後にその赤ん坊は、華奢で儚げな可憐で美しい女性に成長する。


 ふたりの赤ん坊は一切の他人だった。前世では硬い硬いひたいのツノを、胃の中でドロドロにして、ひとつに結ばれていたが、その部分をバッサリ〝どうのつるぎ〟で切り裂かれていた。


 ふたりの赤ん坊は一切の他人だった。そして前世の縁も、スッキリと断ち切られいた。だが、ふたりの赤ん坊は〝木行もくぎょうポイント+1〟だった。つまり新たな縁がフラグとして仕込まれていた。


 ひょっとしたら、また出会うかもしれない。また結ばれるかもしれない。


 所詮は占い。当たるも八卦はっけ当たらぬも八卦はっけ

 だが、ふたりをバッサリと切り裂いた〝どうのつるぎ〟は、その日、とても運が良かった。


 そう、ふたりはとても運が良かった。前世でとても運が悪かった反動からか、とても運が良かった。


 だから、また出会うかもしれない。また結ばれるかもしれない。

 そう、願いたい。




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幕間劇


 こんにちは。コトリ・チョウツガイです。

 ここまで、お読みいただきありがとうございます。めっちゃうれしいです。


 なんや色々と訳わからん話ですみません。

 あと、推命すいめいってのが、なんやわからんアビリティですみません。


 ちょっとだけ解説すると、わたしが唯一使える推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟は、要するに〝占い〟です。


 この世界には、なんや知らんけど〝占術せんじゅつ〟〝相術そうじゅつ〟〝卜術ぼくじゅつ〟の3タイプの占いがあります。


 〝占術せんじゅつ〟は、産まれた生年月日と時間で占います。要するに、星占いや動物占いです。過去から未来を紐解くタイプの占いです。


 〝相術そうじゅつ〟は、要するに人相や手相、あと姓名判断や、家の風水的なモンを占います。要するに現在の状況から未来を紐解くタイプの占いです。


 最後に〝卜術ぼくじゅつ〟は、要するにタロットやおみくじです。一期一会いちごいちえの偶然の結果から未来を紐解くタイプの占いです。



 ちなみにわたしは、〝占術せんじゅつ〟が得意で、〝卜術ぼくじゅつ〟はまあまあ得意で、〝相術そうじゅつ〟は出来ません。

 イツキさんは、〝卜術ぼくじゅつ〟が得意で、〝相術そうじゅつ〟がまあまあ得意で、〝占術せんじゅつ〟は出来ません。


 でもって先生は、〝占術せんじゅつ〟〝相術そうじゅつ〟〝卜術ぼくじゅつ〟の3種類ともぜーんぶめっちゃ得意ですが、日常生活が壊滅的に出来ません。


 参考程度に頭ん中に入れておいてもらうと、めっちゃ嬉しいです。

 それでは、失礼します。

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