第12話 魔王と〝どうのつるぎ〟と額縁つきのドア。

 唐草模様の風呂敷を腰に巻いたタツミ・イヌウシが、首を大きくかしげていると、コトリ・チョウツガイと、〝かわのたて〟越しのイツキ・ケブカワは理解の範疇はんちゅうを超える会話を続けた。


「でもってイツキさん、〝どうのつるぎ〟は、なにをええです?」


(うーん、難しいけど、推命アビリティ21。〝甲申きのえさる〟かなぁ。コトリちゃんの〝卜術ぼくじゅつ〟で、80%っていう不安定な命中率は補正できるから。

 それになんといっても防御力無視なのが大きい。魔力がなくても8回重ねれば充分に実践レベルに落とし込める。

 他はちょっと、コトリちゃんの戦闘スタイルに向いていない。コトリちゃんのスタイルは〝木行もくぎょう〟と〝卜術ぼくじゅつ〟と〝干支七度巡るてんてんどんどんてんどんどん〟のシナジーを組むのが前提だから)


「はーい」


 コトリ・チョウツガイは、〝かわのたて〟越しのイツキ・ケブカワの、ちょっとなにいってるか、わからない解説を、これっぽっちも理解しないまま、ニコニコと元気よく返事をした。

 そして、おもむろに、胃袋のところで真っ二つになった目覚めた魔王の下半身に、〝どうのつるぎ〟をかかげた。


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 スキル、盗作疑惑めっちゃリスペクト

 目覚めた魔王の推命アビリティ41。甲辰きのえたつを〝どうのつるぎ〟に無断コピー。

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 エラーが発生しました。エラーコードE12C。


「しもた、こっちやったか」


 コトリ・チョウツガイは二択の選択ミスを行った。危なかった。戦闘中なら死亡確定だ。


 コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら今度は、胃袋のところで真っ二つになった目覚めた魔王の上半身に、〝どうのつるぎ〟をかかげた。


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 スキル、盗作疑惑めっちゃリスペクト

 目覚めた魔王の推命アビリティ41。〝甲辰きのえたつ〟を〝どうのつるぎ〟に無断コピー。

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「息を引き取った魔王さん、ありがとうございます!」


 コトリ・チョウツガイは、〝どうのつるぎ〟を腰にぶら下げたフックにひっかけて、両手を合わせてお祈りした。東洋的な仏教思想のお祈りだった。


「これでよし。それじゃあ次は、勇者テンセンさんと、エルフの魔術師ホクトさんを生き還えらせましょう。60分越えんうちに」


(了解。先生にそっち行ってもらう。もう〝ドアの前〟でスタンバイしてもらっている。

 そっちに行ってもらって、推命アビリティ52。〝乙卯きのとう〟使ってもらうよ)


 この世界は、優れた蘇生技術が進んでいる。

 推命アビリティ52。〝乙卯きのとう〟で、寿命や病気以外の死者の完全蘇生が可能だ。


 しかし、世の中便利なことだらけではない。推命アビリティ52。〝乙卯きのとう〟には明確な消費期限がある。


 死後60秒以内なら、60%未満の欠損があっても完全再生可能。

 だが、60秒以上経過すると、欠損箇所は再生できない。

 そして、60分移以上過すると、蘇生率は100%から40%に低下する。

 さらに、以降、60分経過する毎に、蘇生率に40%の乗算が行われる。


 世の中は、明確なルールが存在する。そんなに便利に都合よくは行かないのだ。

 死人がホイホイと簡単に生き還る世界があるなら、そもそも、この世界に魔王は生まれていない。


 コトリ・チョウツガイは、そんな都合の良くないこの世界に、とても都合の良くない人物が訪ねてくることに難色を示した。


「え? 先生ですか? イツキさんではなく?」


(ゴメン、僕は今、株主総会中なんだ。これから登壇しないといけないから、そろそろ〝駅馬えきば〟を切るよ)


「ちょ! ちょっとまってください!」


 ガチャリ! ツーツーツー……


 引き止めるコトリ・チョウツガイを華麗にスルーして〝駅馬えきば〟が切れる音がした。

 同時に、コトリ・チョウツガイの目の前におもむろにドアが現れた。

 ドアは、ハッキリとした緑とグレーのツートンからのドアだった。そして額縁が備え付けられてあった。額縁の中に数字の〝21〟が書かれてあった。


 ガチャリ!


「おつかれ。おつかれ。おつかれ」


 ドアノブが、にひねられた。

 ドアから現れたのは、一人の女だった。


 女は、涼やかなの目の絶世の美人だった。グレーのストライプのスーツに身を包み、腰まであろうかと言う黒い長髪をひっつめにして、銀の細フレームのメガネをかけていた。


「先生、おつかれさまです!」


 コトリ・チョウツガイは、ニコニコと笑いながら〝先生〟と呼ばれた女をねぎらった。

 女の名前は、キコ・アンラクアン。コトリ・チョウツガイが勤務する、公益ギルドのアイテム鑑定所の鑑定士だった。ついでに所長でもある。


 公益ギルドのアイテム鑑定所の鑑定士、兼、所長、兼、先生のキコ・アンラクアンは、カツカツと革靴を鳴らして、エルフの魔術師、ホクト・ノールポイントのもとで立ち止まった。


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 推命アビリティ52。〝乙卯きのとう〟完全蘇生。

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 魔術師、ホクト・ノールポイントは、パチリと目をさました。


 公益ギルドのアイテム鑑定所の鑑定士、兼、所長、兼、先生のキコ・アンラクアンは、腰をかがめて、ホクト・ノールポイントの顔を見た。


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 推命アビリティ60。〝癸亥みずのとい〟発動。

 人物観察プロファイリング:鑑定方法、相術そうじゅつ

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 キコ・アンラクアンの瞳、具体的には角膜に直接、エルフの魔道士ホクト・ノースポイントの情報が映し出された。


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名前:ホクト・ノースポイント

人種:エルフ

職業:魔道士

スキル:魁罡マイウェイ魁罡マイウェイ魁罡マイウェイ魁罡マイウェイ


冒険者レベル48

HP:1669

攻撃 :47

防御 :17

素早さ:35

魔力 :59


習得推命アビリティ:24。〝丁亥ひのとい〟/26〝己丑つちのとうし〟/35〝戊戌つちのえいぬ〟/43〝丙午ひのえうま〟/49〝壬子みずのえね〟/51〝甲寅きのえとら〟/52〝乙卯きのとう〟/54〝丁巳ひのとみ〟/57〝庚申かのえさる〟/58〝辛酉かのととり

状態異常:なし


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 キコ・アンラクアンは瞳、具体的には角膜に直接、エルフの魔道士ホクト・ノースポイントの情報を確認して珍妙につぶやいた。


「大丈夫だ、問題ない。状態異常はない。ない。ない。

 そして良いスキル。良い推命アビリティ。良い。良い。良い」


 エルフの魔道士ホクト・ノースポイントは、キコ・アンラクアンの珍妙な口調に首を大きくかしげた。

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