第11話 武闘家の娘と〝かわのたて〟

 下半身まる裸の武闘家の娘は慌てていた。

 魔王の城から653.4メートル吹き飛ばされ毒の沼に着地して、大急ぎで戻ってきた。どれくらいの時間をロスしただろうか、少なく見積もっても、10分以上は経過しているだろう。おそらく、私以外は全滅している事だろう。


 玉座の間の窓から吹っ飛ばされて、下半身まる裸のなモノだから、とにかく魔王のしもべと遭遇しないよう、こそこそと逃げながらようやく玉座の間にたどり着いた。何も履いていない武闘家の娘は、素足が血まみれになっていた。


 プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……


 玉座の間から、不可思議な音が聞こえてくる。


 下半身まる裸の武道家の娘がすでに蹴破り済みの扉の向こうには、とんでもない光景が広がっていた。


 吹き飛ばされる前から死んでいた、毒によって石像のようにカチンコチンになったホクト・ノースポイントの死体と、右手首、左足首、首を切り刻まれた上半身まる裸のタツミ・イヌウシの死体。


 それから、首が明後日あさっての方向に転がっている勇者テンセン・チチュウの死体と、最初に自分が殺された時と同じようにドテッぱらを真っ二つにされた目覚めた魔王の死体。

 そして、公益ギルドのアイテム鑑定所の受付嬢、コトリ・チョウツガイが無表情で目を見開いて転がっていた。


 プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……


 不可思議な音は延々と鳴り響いていた。


 プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……


 どれくらい鳴り響いただろう。

 公益ギルドのアイテム鑑定所の受付嬢、コトリ・チョウツガイがヨロヨロと起き上がった。体はプルプルと震えていた。

 よく見ると装備している〝かわのたて〟も、プルプルと震えていた。


 コトリ・チョウツガイは、身体をプルプル震わせながら、〝かわのたて〟を「ぺしん」と叩いた。


「もしもし」


(あ、コトリちゃん、目が覚めた?)


「はい、なんやめっちゃ苦しくて、あと身体がめっちゃプルプルするんですけど……なんですかこれ?」


(コトリちゃんは今、〝感電〟の状態異常起こしてる。HPは1)


「え? わたし、稲妻いなづまに打たれたんですか? でもってHP1!?

 死にかけやないですか! もうちょっと大事に扱ってくださいよ!! 嫁入り前の娘の取り扱いちゃいますよ!!!」


(ごめんごめん。でも本当に強敵だったよ。コトリちゃん生きてるのが不思議なくらい)


「ぶっそうなこと言わんでください! あ、あかん、このままやと死んでまう」


 コトリ・チョウツガイは、身体をプルプルとさせながら、背負ったリュックを「ドスン」と降ろした。


「……はぁはぁ……お酢……お酢を飲んで回復せな……はぁはぁ……あぁ……なんや……川の向こうにお花畑が見えてきた……こっちゃこいって……おじいちゃんが手招きしとる」


 コトリ・チョウツガイは、プルプルしながらリュックをゴソゴソとまさぐって、なんだかお洒落な青色の瓶に入ったドリンクを手に持った。お酢だった。


 コトリ・チョウツガイは、お酢を飲もうとしたが、手がめっちゃプルプルして、キャップが上手く開けられなかった。


 見かねた下半身まる裸の武闘家の娘、タツミ・イヌウシは、コトリ・チョウツガイの震える手を「そっ」と支えて、お酢のキャップを「パキリン」とひねって開けた。

 そして、コトリ・チョウツガイのプルプルと震える手を支えたまま、口へと運んで行った。


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 コトリ・チョウツガイは、HPが30回復した。 

 コトリ・チョウツガイは、〝感電〟の状態異常が回復した。

 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが1上がった。

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 コトリ・チョウツガイは、「ふう」と息を吐くと、大きな声で叫んだ。


「くーーーー生き返るぅ! やっぱ身体をもてあそばれた後はお酢に限る!

 手の震えもキレイさっぱり収まったし、ホンマ最高や。

 やっぱりわたしは、骨の髄までお酢依存症なんやなぁ。

 あ、タツミさん、お酢の運び屋ありがとうございます。」


 コトリ・チョウツガイは、色々と勘違いされそうな感想をひとりごちた。


 大丈夫だ、問題ない。お酢に依存症の症例はない。

 木行もくぎょうの酸っぱいお酢を飲んでHPが30回復し、木行もくぎょうの状態異常〝感電〟を中和しただけである。


「……あ、そうや!」


 ひとりごちたコトリ・チョウツガイは、下半身まる裸のタツミ・ウシウミにお礼を言うと、リュックの中をゴソゴソ探ってアイテムを取り出した。


「その格好、めっちゃ恥ずい思うんで、これ」


 唐草模様からくさもようの風呂敷だった。


「あ、ありがとう。助かる」


 下半身まる裸のタツミ・イヌウシは、頬をあからめながら、いそいそと、唐草模様からくさもようの風呂敷を腰に巻いた。


 コトリ・チョウツガイは、その様子を見ながら、〝かわのたて〟を使ってイツキ・ケブカワと会話を続けた。


「で、イツキさん、わたしはどれをええです?」


(やっぱり、イヌウシさんの〝四墓土局タイムズスクエア〟を〝わかのたて〟にかな?)


「そうなんです? 勇者チチュウさんの七殺七冲ふんだりけったりの方が便利なん違います?」


(いやいやいや、〝どうのつるぎ〟〝かわのたて〟は、ほとんどコトリちゃんの専用装備だから。

 コトリちゃん、属性的には「S」だよね。先生の扱いなかなかにヒドイもの)


「うーん、自覚はないんですけど、確かに「M」ではないっぽい気がします」


(そういうこと。そういうわけでひとつ宜しく)


「はーい」


 コトリ・チョウツガイは、ニコニコと元気よく答えると、おもむろに〝かわのたて〟を、唐草模様からくさもようの風呂敷を腰に巻いたタツミ・イヌウシに向かってかかげた。


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 スキル、盗作疑惑めっちゃリスペクト

 タツミ・イヌウシのスキル〝四墓土局タイムズスクエア〟を〝かわのたてに〟に無断コピー。

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 コトリ・チョウツガイは、ニコニコしながら、タツミ・イヌウシにペコリとおじぎをした。


「タツミさん、ありがとうございます!」


「はぁ……」


 唐草模様の風呂敷を腰に巻いたタツミ・イヌウシは、首を大きくかしげた。

 コトリ・チョウツガイと、〝かわのたて〟越しのイツキ・ケブカワの会話は、終始一貫、一切合切、理解の範疇はんちゅうを超えていた。

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