第8話 魔王と〝かわのたて〟

 魔王が復活してキッカリ60秒が経過した。

 すなわち、3ターン目が始まった。

 すなわち、推命アビリティの使用回数がリセットされた。


 目覚めた魔王は慎重だった。相手の手の内が全くわからない。

 目覚めた魔王はとても慎重に、とても控えめな推命アビリティを3つ使用した。


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 推命アビリティ21。〝甲申きのえさる〟発動。

 かまいたち発動。対象は、コトリ・チョウツガイの心臓。


 推命アビリティ21。〝甲申きのえさる〟発動。

 かまいたち発動。対象は、コトリ・チョウツガイの心臓。


 推命アビリティ21。〝甲申きのえさる〟発動。

 かまいたち発動。対象は、コトリ・チョウツガイの心臓。

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 かまいたちの威力はとても控えめだった。たった100ダメージしか与えることだできない。だか、推命アビリティ21甲申きのえさるは、防具で防げない。故に、HPが100未満のコトリ・チョウツガイにとっては致命傷になる。


 そして、目覚めた魔王は、回避されることを予測して、かまいたちを3つ放った。

 この世界における、推命アビリティ21甲申きのえさるの一般的な回避率は20%。素早さで補正がかかるが、コトリ・チョウツガイの素早さは8。この世界は回避の演算に1の位以降を切り捨てる。

 よって、コトリ・チョウツガイが絶命する確率は98.2%だった。

(コトリ・チョウツガイが無抵抗の場合)


「めっちゃヤバイ!」

 

 コトリ・チョウツガイは、迫りくるとても控えめなかまいたちに、思わず声をだした。そして、〝かわのたて〟を天にかかげた。


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〝かわのたて〟で、推命アビリティ10。〝癸酉みずのえとり〟発動。

 身代り地蔵を召喚。

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 〝かわのたて〟のスキル、干支七度廻るてんてんどんどんてんどんどん発動。

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 身代り地蔵を召喚。

 身代り地蔵を召喚。

 身代り地蔵を召喚。

 身代り地蔵を召喚。

 身代り地蔵を召喚。

 身代り地蔵を召喚。

 身代り地蔵を召喚。


 身代り地蔵は、100ダメージを受けた。

 身代わり地蔵は消滅した。


 身代り地蔵は、100ダメージを受けた。

 身代わり地蔵は消滅した。


 身代り地蔵は、100ダメージを受けた。

 身代わり地蔵は消滅した。


 そして位置エネルギーに変換された突風が、激しい砂埃すなぼこりをあげた。

 砂埃すなぼこりが晴れると、そこにコトリ・チョウツガイはいなかった。


 逃げていた。


 逃げるコトリ・チョウツガイは、〝かわのたて〟を天にかかげた。


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 〝かわのたて〟のスキル、〝駅馬えきば〟発動。

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 プルルルル……ガチャリ


(あ、コトリちゃん? 首尾はどう?)


「どうもこうもないですよ、イツキさん!

 めっちゃピンチです! もう3人も死んでます」


(え? コトリちゃん以外全滅?)


「いえ、なんや武闘家の女の人が2人になったから、その人と2人です。

 でも、下半身まる裸でどっかすっ飛んで行きました」


(すっと飛んだってのが、ちょっとないってるか、わからないけど。一応計画通りに行ったんだ。じゃあ、魔王は1ターンで死んでるはずじゃ無い?)


「はい、死にました。でもって、なんや女の人になって生き返りました」


(え! そんなことあるの……まいったな、〝相術そうじゅつ〟でそこまで読みきれなかった。やっぱり先生や、コトリちゃんみたいに〝易術えきじゅつ〟もたしなんで……)


「そんなこと今はどうでもええです! 早くください!

 翌日、めっちゃ筋肉痛になるんは、この際しゃーないです」


(了解、じゃあすぐに感度上げて!)


「はーい!」


 逃げるコトリ・チョウツガイは、〝かわのたて〟を天にかかげた。

 〝かわのたて〟のスキル、〝駅馬えきば〟受信レベルバリ3!


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 〝駅馬えきば〟受信レベル2。

 コトリ・チョウツガイ、イツキ・ケブカワのノートPCと五感データを互換。


 〝駅馬えきば〟受信レベルバリ3。 

 コトリ・チョウツガイ、状態異常。脳波信号をイツキ・ケブカワのノートPCに移譲。

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 この瞬間、コトリ・チョウツガイの、全権限は、イツキ・ケブカワのノートPCに移譲された。


 めっちゃニコニコして、めっちゃ泣いて、めっちゃ慌てて逃げていたコトリ・チョウツガイは、ピタリと足を止めた。表情はなかった。一切無表情だった。

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