第6話 魔王と勇者

 目覚めた魔王は、無様に胸元まで凍りの沼に埋まり、首が丁度ちょうど半分ちょん切れた勇者テンセン・チチュウの元へと歩いて行った。


 目覚めた魔王は、勇者と、勇者ご一行が許せなかった。息を引き取った魔王のかたきであることは勿論のこと、ふしだらにただれまくった勇者ご一行の三角関係が心底許せなかった。端的に言うと羨ましかった。嫉妬した。


 だから勇者はこの手で、いやこの足で、思いっきり蹴っ飛ばして踏んづけてやりたかった。自分がられた時のように、られた時のように、顔を踏んづけられて角をひきずり出された時のように、思いっきり足で踏んづけてやりたかった。

 血を吹き出して、グラングランしている首を思いっきり蹴っ飛ばして、吹き飛んだ頭を踏んづけてやりたかった。


 だが、そんなことを命がけで阻止したい娘がいた。下半身まる裸の武闘家の娘、タツミ・イヌウシだ。

 彼女は勇者テンセン・チチュウの為に、全てを捧げていた。可憐な唇も、控えめな乳房も、イノセントな貞操も、インモラルな貞操も、いっさいがっさい捧げていた。そして命も捧げる覚悟ができていた。


 下半身まる裸の武闘家の娘、タツミ・イヌウシは、下半身丸出しの足で、唸るような回し蹴りを放った。しかし、全ての貞操を失っている下半身丸出しの付け根から放たれたその回し蹴りは、魔王のとてもささやかな推命アビリティき止められた。

 そして、武闘家の娘、タツミ・イヌウシは、明後日あさっての方向に跳ね飛ばされた。


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 推命アビリティ10。〝癸酉みずのえとり〟発動。

 身代り地蔵を召喚。

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 身代わり地蔵は6535ダメージを受けた。

 身代わり地蔵は消滅した。


 身代わり地蔵はデコイ。つまりはおとりだ。

 とてもささやかな推命アビリティで出来たデコイなので、HPは1しかなかった。

 故に処理しきれないダメージは、位置エネルギーに変換され、下半身まる裸の武闘家の娘、タツミ・イヌウシを、明後日あさっての方向に跳ね飛ばした。


 推命アビリティ35〝戊戌つちのえいぬ〟により、身体硬度を二倍、つまり威力が二倍になった体で、彼女の持ち技の中で最大の威力を誇る回し蹴りのダメージがあだとなり、タツミ・イヌウシは、明後日の方向に653.4メートル弾き飛ばされた。


 邪魔者がいなくなった目覚めた魔王は、足を大きく振りかぶって、血を吹き出しながらグラングランと揺れている、勇者テンセン・チチュウの頭を思いっきりけっとばした。


 頭は「ぶちん」と音を立ててちぎれ、てんてんと転がって行った。

 勇者テンセン・チチュウは息絶えた。


 勇者テンセン・チチュウの頭は、てんてんと転がって、コトリ・チョウツガイの足に当たった。


 交易ギルドの看板娘のコトリ・チョウツガイは、動揺しつつも、お酢ドリンクをゴクゴクと飲んだ。


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 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが1上がった。

 (現在、累計で木行もくぎょうポイント+10上昇)

 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントがMAXに到達した。

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 コトリ・チョウツガイは、お酢にまみれた口をぬぐいながら言った。


「めっちゃ危なかった!

 危うく全滅するところやった。さあ、今から反撃や!!」

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