第4話 魔王とエルフの魔道士

 目覚めた魔王は、今までの魔王と違い、控えめな性格だった。


 控えめな性格なので、推命アビリティの威力も控えめだった。

 具体的には先ほど息絶えた魔王の推命アビリティの7分の1の威力だった。

 そしてさらに、とても控えめな威力の推命アビリティも操れた。

 具体的には先ほど息絶えた魔王の推命アビリティの49分の1の威力だった。


 先ほど息絶えた魔王の推命アビリティはとても強力で、その一撃は勇者たちの致死量を優に超えていた。つまりは、オーバーキルだった。

 とても強力な推命アビリティだったが、1ターンに1つの推命アビリティをしか操れなかった。


 対して、目覚めた魔王は1ターンに控えめな威力の推命アビリティを同時に6つ。とても控えめな威力の推命アビリティを同時に7つ。つまり1ターンに13の推命アビリティを同時に操れた。


 町の商人が几帳面な性格で、キッチリと1グラム単位で魔王を均等に7等分した賜物たまものだった。

 加えて善良な医師が、7等分された魔王のうちの1つを、さらに7つに小さく切り分けた賜物たまものだった。


 魔王は、目覚めた瞬間から、とても控えめな威力の推命アビリティを、7つ同時に操っていた。


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 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。


 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。


 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。


 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。


 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。


 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。


 推命アビリティ40。〝癸卯みずのとう〟発動。

 1秒間に最大HPの65535分の1を回復。

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 続けて、控えめな威力の推命アビリティを、6つ同時に操った。


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 推命アビリティ30。〝癸巳みずのえみ〟発動。

 毒蛇を召喚。指定の毒を付与。〝〟を選択。


 推命アビリティ30。〝癸巳みずのえみ〟発動。

 毒蛇を召喚。指定の毒を付与。〝〟を選択。


 推命アビリティ30。〝癸巳みずのえみ〟発動。

 毒蛇を召喚。指定の毒を付与。〝〟を選択。


 推命アビリティ30。〝癸巳みずのえみ〟発動。

 毒蛇を召喚。指定の毒を付与。〝〟を選択。


 推命アビリティ30。〝癸巳みずのえみ〟発動。

 毒蛇を召喚。指定の毒を付与。〝〟を選択。


 推命アビリティ30。〝癸巳みずのえみ〟発動。

 毒蛇を召喚。指定の毒を付与。〝〟を選択。

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 魔王に召喚された6匹の毒蛇は、まるで水の中を泳ぐように、息を潜めて地面の中を静かに泳いだ。

 そして、6匹の毒蛇は一斉に、エルフ魔道士、ホクト・ノースポイントに同時に噛み付いた。


 5種類の毒と1種類の血管拡張剤を同時注入されたエルフ魔道士、ホクト・ノースポイントは、強烈なアナフィラキシーショックを起こして息絶えた。


 その死は、周囲はおろかホクト・ノースポイント本人ですら、気が付く事はできなかった。

 なぜなら、推命アビリティ30。癸卯みずの巳は、とても控えめな、暗殺専用の推命アビリティだったからだ。


 そして、本来ならこのような危機を奇跡的に回避するためにある、勇者テンセン・チチュウのホクト・ノースポイントに対する〝幸運値〟は0だった。


 勇者は、完全に調子に乗っていた。本来なら、タツミ・イヌウシの〝幸運値〟を消費した最初の一太刀ひとたちで、魔王は息絶えていた。

 余計な連撃を加えなければ、ホクト・ノースポイントの〝幸運値〟を温存し、毒蛇を回避できたものを。


 勇者は完全に浮かれていた。宿屋を併設した交易ギルドのアイテム鑑定所の看板娘、コトリ・チョウツガイのリップサービスに完全に浮かれていた。


 今夜のおたのしみのことで、頭がいっぱいになっていた。

 スイートルームのことで、頭がいっぱいになっていた。

 各種取り揃えられたオプションのことで、頭がいっぱいになっていた。


 コトリ・チョウツガイのリップサービスで、勇者ご一行は、絶体絶命のピンチに陥った。


 コトリ・チョウツガイは、本日6本目のお酢を飲んだ。


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 コトリ・チョウツガイは、木行もくぎょうポイントが1上がった。

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