第4話 試合開始

 俺たちの体も温まったし、そろそろアップ終わるか。

 そう思ったとき。

 ホイッスルが鳴り響き、A対Bの紅白戦が終わった。


「次、Cチーム!Dチーム!グラウンドに出ろ!」


 ビブスを着て、軽くジャンプする。


「よしっ!」


 準備は万端。

 気合も十分!

 やってやる。

 試合が終わった頃にはみんな俺に注目してるだろうよ。

 そう心の中で呟き俺はコートへと入って行った。


 快晴の中、コーチの吹くホイッスル鳴り響いた。

 キックオフだ。


 俺はツートップのうちの一人。

 海斗はトップ下、OMFだ。

 Cチームボールで試合は始まった。

 俺はキックオフ後、海斗にパスした。


「海斗!いくぞ!」

「しっかり決めてよ!」


 海斗はドリブルを始めた。

 相手陣営は突っ込んでくる海斗に対してフォワードをファーストディフェンスとしてボールを奪いにいかせた。


 海斗は寄せてくるディフェンスに対してサイドステップを踏みながら向かっていく。

 ディフェンスはそのサイドステップに惑わされて左右に揺れる。


 そしてそのディフェンスが左右に揺れ、気づいた頃にはボールは海斗の足元から消えていた。

 海斗は左右に揺れるディフェンスの足元に空いたわずかな股下にボールを通していた。


「いきなりあいつ股抜きしたぞ!」


 試合を見てるA、Bチームから驚嘆の声が聞こえる。

 海斗は一人抜いた後もスピードをどんどん上げていく。

 そして次は二人のディフェンスが海斗に向かっていった。


「あいつやばそうだ!2枚でいけ!」


 相手センターバックの指示だ。

 実力のある選手に対して数で対抗する。

 それは決して間違えではない。

 しかし通用しないやつもいるのだ。


 そう。この海斗のように。

 

 二人のディフェンスは間のスペースを塞ぎながら寄せている。

 基本通りの守備。


 しかし海斗はそれを嘲笑うかのように二人のわずかな隙間にボールを軽く浮かして放り込んだ。

 二人の足が届かないであろう絶妙な高さ。

 そしてボールが二人の‘間を抜ける頃、海斗はその二人の間を飛び越えた。


「また抜いたー!」

「あいつまさか一人でゴールまで持っていくのか?!」

「流石に無理だろ」

「いや、あの上手さならいけるんじゃないか?」

 外野が騒ぐ。


 二人を同時に抜いた海斗はまだドリブルを続ける。

 流石に止めないとやばいと感じた相手センターバックは三人守備に行くよう指示した。


 まあ流石に海斗でも三人は少しきついか。

 海斗はドリブルスピードを少し緩めた。

 チャンスと思ったんのかディフェンスは一気に寄せていく。

 ギリギリまで引きつけて、海斗はアウトサイドでパスを斜め前に出した。

 パスは誰もいないぽっかりと空いたスペースに転がる。


「パスミスか?」

 外野は言う。


 お前らの目は節穴か?

 俺がいるぞ。


「通った!」

「あいつさっきまでいたか?」

「パスミスじゃないのか!」

 パスミスなわけないだろ。

 海斗が意味もなくパスするはずがない。

 

 ぽっかり空いたスペースに転がっていたボールを俺は拾いドリブルを開始し、スピードを上げる。

 海斗に三人も守備をいかせていたので残っているのはセンターバック一人だけだ。


「いかせないぞ!」


 気迫のこもった声が響いた。

 俺は一対一の状況。

 ドリブルしてるボールがわずかに浮いた。

 そのわずかな浮きは一対一の状況では致命的と言えるものだった。

 ディフェンスはチャンスだ、と言わんばかりに寄せてくる。

 確かにこれがミスで浮いたものならチャンスだろう。

 だがな……。

 

「俺がこんなミスをすると思ったか?」

「なっ?!」


 俺が言葉を発したと同時にボールは俺の足元へと吸い付き、俺が足を前に出すと子犬のようについてきた。


 ディフェンスは何もないところに足を出していた。

 先ほどまでボールが通ると思われていた場所。

 ディフェンスはそこを予測し、足を出していたのだ。

 しかし俺の足元にボールが吸い付きコースが変わったためボールが本来通るはずだったコースには何も来ない。


 よって何もないところに足を出し、バランスの崩したディフェンスにもうできることはない。

 俺はそのままさらりとディフェンスの横をすり抜ける。

 ボールに微弱な回転をかけて、なおかつその時に吹いた風をも利用した足元に吸い付くドリブルは誰にも止められない。


 自分自身そう自負している。なんたって2年間これに費やしたんだからな。

 けど正直に言うとボール浮いたのはびっくりした。

 あそこで急に浮くなんて思わないじゃんかー。


「何だあれ?!」

「ボールが空中で方向転換しただと?!」

「何者だ、あいつ」

 外野が騒ぐ。


 ディフェンスを抜いた俺はすぐにワンステップでシュートと撃ち、キーパーのタイミングをずらした。 

 シュートはゴールの右斜め上に吸い込まれるように一直線で向かった。

 キーパーはタイミングをずらされ反応できない。

 誰にも邪魔されずに飛んだボールがゴールに入り、シュルシュルと音を立てた。


 ゴールが入ったあとの少しの沈黙。

 そして、沈黙の反動と言わんばかりの大きな歓声がグラウンド中に響いた。


「なんだ今の!?」

「あいつ上手すぎだろ!」

「あれっひょっとしてあいつ……」

「Uー12日本代表だったあの黒咲 空か!?」

「じゃあ黒咲にパス出したあいつも……Uー12日本代表だった一条 海斗じゃねぇか!!」

 そうだ、俺と海斗は小学校の頃Uー12の日本代表だったのだ。


 次の日から、俺と海斗は学校の有名人だろうな。


 そしてその日のうちに俺と海斗はサッカー部のAチームに昇格した。

 やったね。

 計画通りだ!


「やったね!空!」

「あぁ」

「僕たちで全国に行ってやろう!」

 海斗は拳を突き出した。

「おうっ!」

 俺も拳を突き出してグータッチ。

 これぞ青春だな。

 

 部活が終わり、スマホを見るとメッセグループに3件ほど通知が来ていた。


『みんな部活どうだったー?』

『私と春は無事Aチームに上がったよー!』

『それで入学と昇格のお祝いでファミレスに集まろうと思うんだけど行ける人集合ー!空は絶対に来てね♡』


 全部悠亜からのメッセだった。


「なあ海斗ー」

「僕も見たよ。僕は行くつもりだけど空は?」

「俺も行くよ。絶対来いって言ってるしな」


 もともと行くつもりだったけどね。

 

 と言うことで俺と海斗は指定されたファミレスに行くことにした。

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