第2話 研究所の子供たち

「あ、リース聞いて聞いて!」

そう言って私はリース、自分の兄へと向かっていった。

「ん?リリアかおかえり、どうだった冒険は」

そうリースは優しく笑う。

「楽しかったよ!けどドクターに見つかって怒られちゃった」

リースは少し不安そうな顔になる。

「そう……か、なんか変わったことはあったかな?」

「んーとね、変なものはいっぱいあったけど一番奥の部屋にね人間?かな人がいたの、なんかの病気なのかなぁ?話してみたけどそんなに怖い人じゃなかったよ」

そう言いながらリースを見た、その顔は笑っていた。

「リース?」

「ん、あぁごめんなんでもない。レインには話さなくていいのか?」

リースはそう2人目の兄の名前を出した。

「いい、絶対怒られちゃうし……それに最近のレイン怖いし」

「……あんまり距離はとってやるなよ、僕もあいつもリリアに傷ついて欲しくないだけだ、それに……」

『A12番、A12番、オペ室3番へ』

放送が唐突に流れてリースが言葉を切りあげる。

「行ってくる、とりあえず今は大人しくしてなね」

そう私の頭を撫でて別の場所へといなくなった。



「遅せぇよリース」

オペ室3番には僕と同じく紫色の髪を持った長髪の少年が佇んでいた。

「土産話もあるから許してよレイン」

そう笑って構えを取る。

向かいのレインも無愛想な顔のまま腰の短剣を抜く。

「今日は?」

「いつも通り、死ぬ一歩手前まで」

「了解」

僕達は知っている、ここは実験場だ。治療施設でも孤児を保護する場所でも、僕らみたいな幻想種を保護する場所でもない、けれど僕らは動けない、その力を知っているからその力を受け取ってしまっているから。

ただ、それでも諦める訳には行かない。

チャンスはやってきた。


「ちっ、また負けたか」

「あんまり喋らない方がいいよ傷口が開くし」

「お前もそうだろ、ていうかそんなヤワじゃない」

「まぁねぇ、ま、なんにせよこれで僕の158勝156敗だね」

「うるせーよ、で土産話って?」

長い髪の奥から視線を感じる。

「怒らないであげてね、僕が焚き付けたから」

「……またリリアを使ったのか……いくらあのジジィのお気に入りだからって何があるかわからねぇぞ」

「悪かったって、でもおかげでいたらしい、ラストピースだ」

「実力は?」

「わかんないけどすごい拘束されてたらしい、それくらい危険ってことだろう、リリアいわく言語も通じた、危ない理由は多分性質じゃなく、ここにとって不利益だからだ。なら僕らの味方に立つ可能性は高い」

「なるほどね、ならどうする?」

「早い方がいいでしょ、その人がいついなくなるか分からないし、僕らもあまり時間はないしね」

「そうだな……俺よりお前の方が警戒されないだろ、頼んだ」

「了解、カードは僕が盗っとくよ」

「危ない橋は渡るなよ、命が最優先だ」

「大丈夫だよ、彼らは僕らがまだ能力を使いこなせてないと思ってる、まぁリリアはほんとに使いこなせてないけど」

「ちっ、せめてリリアに定着する前に脱出したかった」

「今更だよ、それにあの能力は危険だあいつらの元に置いとくのはそれこそ破滅だよ」

「分かってる、カードは複製するから盗ったらすぐ持ってこい」

ぶっきらぼうにそういったレインは傷を抑えながら外に出ていく。

僕らの国が滅んだ時、僕らを逃がす前に父様は言った。必ず生き残れ、お前達が我が一族最後の希望だ。復讐などは考えなくていい。ただ生きてくれ。と。

だが……。

打ち込んだ空の注射を握りつぶす。

「許すものか……僕らの国を滅ぼしたこいつらを……」

パラパラと破片が舞った、僕は今どんな顔をしているのだろうか……破片で傷ついた傷が修復されるのを待って外に出る。

この鳥かごからでる、まずはそれからだ。


しんと静まり返った沈黙にはもはや慣れてしまった。不本意にも毎日同じ時間帯に来る研究員共の声や人体実験が理性を制御するトリガーとなってくれて何とか正気を保てる。だが未だに脱出の糸口が掴めないのも確かだった。外界から完全にでは無いにしろ遮断され、何度か試みた交渉もさすがあのマッドサイエンティストの部下と言うべきかなんの成果もなかった。

要は手詰まりだ。

だが、やはりここを動く訳には行かなくなった、紫髪の少女、見た目は十数歳だ。アイツらが慈善で子供を連れているわけが無い、何とかして救ってやらないといけない。

そんなことを考えていた時だ。

また足音、それも慎重な緊張を含んだ足音だ。

あのマッド野郎ではない。またあの子だろうか……。

やがて闇から現れたのは想像していた少女ではなく彼女と同じく紫の髪でいかにも少年らしい子だった、そういえば少女の時は髪に隠れて見えなかったが耳の位置が黄色いもふもふの動物性の耳が着いていた。

「こんにちは」

少年はそう笑顔で言った……がやはり顔には緊張がある。

「えっと、これかなよしこれでマスクが外れましたね」

「……君は?」

「……リース、リース・ディア・ヴァインスベリア」

ヴァインスベリアという名に聞き覚えがあった。幻想種吸血鬼の一族の王族の名だ、ティアをおっていたさなかで滅びたとされていたが……なるほど生き残りがいたのか。

「単刀直入にいいます。僕らに協力してくれませんか」

「理由は?」

もちろん尋ねないでも大体は察して取れる、だがそれは偽善だ、こちらにも協力するメリットはいるし……そもそもそんな余裕が俺にはない。

「……僕らの国はここのヤツらに滅ぼされた、2年、僕と兄妹の3人は……いや正確には昨日来た妹は何も知らないけれど計画を立ててきた、バカの振りをして与えられた能力を無理に使わずに……」

「まて、与えられた能力……?まさか……」

「なんだ知らなかったんですか、ここは能力を発芽させる研究をしてるみたいですよ……もう何人居なくなったか分からない」

こいつらは……こいつらの目的はそこか……!

「……僕の妹が多分奴らのピースなんだと思う。与えられた能力は『万物創造』まだ使いこなせてないからいいけど、ありとあらゆるものを想像し創造する神の所業です。……もう時間が無い」

彼の言葉から嘘は見つからなかった。

「今俺を逃がして、その後は?俺はここをほぼ知らないし武器も無い、正直プランを考えてないなら……」

「僕の能力は『無音』です、僕に干渉するあらゆる音を操作できます、ステルス能力なら自信がある、まずはあなたをこれで脱出させます」

そういっていつも奴が持っていたカードを見せる。

「リリア、ぼくの妹は戦闘面でも能力面でも今は役に立ちません、けど、僕の双子の弟のレインなら戦闘面でも役に立ちます、それでもやはりこの戦力じゃリリアを守りながら脱出は無理だと思います……だからあなたの力を貸して欲しいです」

なるほど、確かに彼の能力は脱出には好都合だろう、それに言いたいこともわかる、協力もこちらに対してメリットのある話だ。

けれど

確認は……必要だろう。

「……協力することは吝かじゃない、ただ1つ確認だ……君の話だと3人を逃がす、が前提だ、俺は正義の味方じゃないがここを敵視する意味では目的も同じだ……けど俺は拾える命は救いたい、その上で教えてくれ……君たちと同じ思考を持ってるやつは何人いる?」

その言葉が予想外だったのかリースは少し驚いた顔をしてそして少し目を伏せる。

「正直、いないと思います。僕らは幻想種、それに最初から協力的でいるせいで手を施されてはいませんが……故郷をなくして自暴自棄、洗脳されて、もちろん理由は様々ですがどれも酷いものですよ……部屋に閉じこもって出ても来ませんし」

「そっ……か、わかった協力する、君たちを無事逃がすよ」

「ありがとうございます」

そう言って彼はカードを差し込む、なるほど、能力をもう発動しているのかやけにうるさい機械音はなく無音のまま俺は拘束から解放された。

たった感覚も新鮮で少しふらつくが、直ぐに順応していく。肩を鳴らして手を開いたり閉じたりする。

「うん、問題ない、で?君たちはいつ動くんだい?多分今日は来ないかもだけどカメラがあちこちにあるだろうし、いつバレてもおかしくないぞ」

「もう今日の夜にはでます、レインはともかくリリアに軽く説明としなきゃ行けないですので直ぐにとは行きませんが……」

「わかった、じゃあ俺は武器を探す、何かしらの合図をくれたらすぐに動く、よろしくな」

「えっ、ちょっと待っ……」

協力するのは間違いないが全てを悟るのはまだ早い。様子見でもある、彼が……いや彼らがどれだけ信用できるのか、ここで確かめる

そう思いながら俺は武器を探すために研究所内を歩き始めた。

時を刻む時計の音がいつの間にか聞こえるようになっていた。

時間は……ないのだろう。

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