1章4話『黒ローブ』
突然5体の大蛇を従えて、黒いローブを被った人間が森の奥から現れた。右手には黒い剣を持っている。
結界の中なのにどうして魔獣が・・・。いや、あれは小龍だ。
小龍は、アミテロス島に生息する大蛇によく似た生き物で、体長は8mにも達し、硬い鱗につつまれ、下顎や牙に強い神経毒がある。そして、アミテロス魔法学校内の敷地にはいないはずだ。生息地でないからだ。
なるほど、小龍は魔獣ではないから、結界を超えられたということか。
黒ローブが、左手を上げると、5体が一斉にかかってきた。
意を決した
案の定よけられた。遅かった。中に入られた。
あずさと
しかし、黒ローブは琴音ではなく、
黒ローブ「・・・。」
小龍5体と
これはしばらく黒ローブと戦うことになりそうだ。
もはや返事を聞く余裕もなかった。大樹を挟んで皆と反対側に
一対一は得意でない。残念ながら、反則勝ちという概念もない。
黒ローブ「・・・。」
黒ローブ「・・・。」
歳は同じくらいだろうか。
なにかしら情報を得たかった。正体不明の黒ローブには、好奇心をそそられたし、他の3人を小龍と戦わせておいて、情報の一つも得られないのでは申し訳が立たないじゃないか。
黒ローブ「フンッ・・・。」
黒ローブ「それは君が一番よく知っていることだろう。」
ほう。口を開きやがった。てっきり声のトーンはどすが効いていてすごく低いと思ったのに以外に普通だな。
それにしても、誰もあいつのことは知らないことになるな。だって、一番よく知っているはずの俺が、あいつのことを何も知らないのだから。
おっと。
ふざけていて勝てる相手には見えない。
黒ローブの左手から黒色の球体が打たれた。避けようとしたが、それは右かかとあたりをかすめた。すぐに、焼けるような激痛が走った。
火傷か何かしたようだ。ただ、うろたえるつもりはなく、いや、実際はうろたえながらもすかさず、黒ローブを
魔法ではスピードが足りないのか、いや、動きが読まれているからか?
次に、黒ローブは接近戦を持ち掛けてきた。
その時、ローブの中が少し見られた。思わず、凝視するとそこには、よく知った人間の顔があった。
間違いない。あいつのほうが少し細いがまぎれもなく同じ顔だ。
黒ローブ「見えてしまったようだね。」
まさか、同一人物だとでもいうのか。
いっそう激しさを増した黒ローブの剣を、
距離を取ろう。
黒ローブの目的は何だ?
もし、黒ローブの目的が折れを殺すことなら、もっと小規模にことを行えただろう。一人だけ狙い撃ちすればよい。黒ローブの実力なら、できるだろう。
俺に関する何かが目的でも、俺を殺すつもりはないということか。
そもそも、俺が結界のほうに来なかったら、どうしているつもりだったのだろうか。いやまてよ、俺はここまでおびき出されたのだとすれば。
俺がここに来たのは、森の奥の結晶が壊れているという推察だ。どう転んでも、森側で問題が起こった場合、緑寮まで俺が進むことは間違いない。ただ、そこからは未知数なはず。俺が狙いなら、どうしてここまでこられたのかだ。ずっとつけられていたのだろうか。
そして、顔が似ていた。いや、あれはおそらく同じ。
自分とそっくりな妖怪に関する童話を聞いたことがあったが・・・。
そして、黒ローブに追いつかれた。
仕方ない。受けてたとう。
黒ローブ「・・・。」
黒ローブは畳みかけた。右わき腹を軽く切られた。血が垂れる。傷口に
一方、黒ローブは無傷である。魔法もまだ十二分に使う余裕があるのか、容赦なく黒い球体を飛ばしてくる。そして、驚いたことに黒い球体は
一方的に、
おそらく、この勝負は俺の負けだ。
なら、俺にできるのは、できるだけ時間を稼いで情報を聞き出すぐらいか。
黒ローブ「それを聞きたいのは僕のほうさ。」
黒ローブは答える代わりに、黒い球体を連発した。
今度はなんとかよけきった。すると、地面に直撃する黒い球体は、地面を破壊せず、吸収されるようにして地面に消えていった。
黒ローブ「君は僕を知らないというのかい。」
そういいつつも、
黒ローブ「君は、恩知らずなうえに忘れっぽいということか。あきれたもんだ。」
黒ローブ「・・・。」
黒ローブ「・・・。」
しばらく沈黙のままの戦闘が続いた。10分はたっただろうか。
もし、魔法学校自体を崩壊させるのが目的なら、森を中心に結界をすべて壊して回ればよい。しかし、魔獣が向かってきた位置からして、ここ以外に壊された結界があったとしても、壊されたのは“すべて”の結界には程遠い数だろう。
だから、目的は別。
先ほどの考察も合わせると、黒ローブの今回の目的は魔法学校を破壊することではなく、俺に接触することだ。あるいは他に目的がある。
黒ローブは俺より優位にあるが、俺を倒すつもりもない。
黒ローブは俺の動きもわかっていた。
黒ローブは俺について何らかの俺が知らないことを知っている。
この状況で、結界が再び破壊されて魔獣の群れに襲われたら、ほぼ確実に終わる。
“
だんだんと、恐怖を覚え始めていた。体が鉛のように重く、体力は限界に近い。それなのに、頭は暴走して言うことを聞かないし、全身からの流血は止まらない。
本能的に、3人のいるほうへ逃げた。幸い3人は、小龍をすべて倒したようだ。だが、
琴音は泣きながら結界を張っている。
3人とももう動けないだろう。毒蛇との戦いは傷を負ったら最後だから、仕方ない。3人については、黒ローブは殺してしまうかもしれない。
ひょっとしたら黒ローブは俺を戦闘不能にした後、見せしめに3人を殺すかもしれない。
そんなことは、あってはならない。
黒ローブ「君はせっかちだね。」
黒ローブ「ほう。言わないと何だい?今の君には何もできないだろう。」
残念ながらその通り、明らかに剣術の実力は黒ローブのほうが勝っていたし、もともと
黒ローブ「まぁ、確かに君の予想通り、君を殺しにきたわけではない。」
黒ローブ「・・・。」
次の瞬間、壮絶なスピードで黒ローブが間合いを詰めてきた。不意を突かれた
黒ローブに襟をつかまれると、そのまま地面にたたきつけられた。受け身をとる間はなく、衝撃で右肩の骨が折れた感触がした。痛みに
右肩が折れ、剣を持つことも許されず、動けなくなった
黒ローブ「ラルタロス魔法学校魔物部に来い。僕のことが知りたければな。」
と言った。その時、黒ローブの顔が再びみえたが、やはり顔立ちは
そのまま消えてくれるかと
最後に、黒ローブの右かかとの織り成す渾身の一撃を急所にくらわされて、思わず嘔吐するように
痛みは恐怖へと姿を変えた。それでも、冷静にと歯を食いしばるが、出血がすすみ、意識が遠のいてゆく。目の色が絶望の色に変わる。
痛い・・・。
誰か、助けてくれ・・・。
心の声は音にならない。底なし沼に落ちていくように、視界が暗くなっていく。もがいても、もがいてもただ引きずりおろされていく。
死にたくない。あぁ・・・・・。タスケ・・・・・・・・・・・・。
そして、溺れて沈んでいった。
3月21日 夕暮れ以降 夢の中にて
ここはどこだ。
しばらく、森を歩いた。
霧で視界がかすんでいる。
ここはどこだ。
そのまま、意識が遠のいていく。
夢から覚めると、中央の医療院にいた。窓から見た景色は暗い。
夜か。
3月21日 深夜 中央の医療院にて
生きてはいるみたいだな。
あの黒ローブは4人の命を奪わなかったのか。無駄な殺生はしない主義なのか。それともほかに3人の命を奪わない理由があったのだろうか。いずれにせよ、今考えてもわからないだろう。
俺は一瞬すべてを
しかし、杖をつき身体を引きずってリーダーのカナリのもとへ向かい緑寮の話を聞くと、緑寮の11~12歳の5人は死亡、13人が行方不明となった。森が今回の現場であったことだけあって、緑寮のけが人は多かった。10名は今なお気絶したまま目を覚まさないらしい。
たかが結界の一つで、こんなにもあっけないものか。いつもの穏やかな暮らしはここまで恐ろしい世界の中に成り立っていたのか。
無念だ。本当は、最高学年である俺が寮員の不幸を”無念“なんてあっさり言うことは少し冷たいかな・・・。ただ、他に言葉がない。
一方、
それにしても、あの黒ローブ。ラルタロス魔法学校魔物部。なんなんだ。あいつは確かに、「ラルタロス魔法学校魔物部に来い。僕のことが知りたければな。」といった。
なぜだ。知り合いか。いや、俺が知らない。恋敵か。思い当たることはない。嘘です。まじめに考えます。
ラルタロスに行けば、名刺でも持って自己紹介に来てくれるとでもいうのか。そんな馬鹿な。
それとも、ラルタロス魔法学校魔物部の生徒だとでも。まさか。
そもそも、何のためにラルタロス魔法学校魔物部に来させたいんだ。
その後も考え続けたが、答えはわからなかった。
つまり、あいつの主張は“ラルタロス魔法学校魔物部に来い”、なぜ、“ラルタロス魔法学校魔物部に来い”といったのか知りたければ、ラルタロス魔法学校魔物部に来いということか。
黒ローブのものいい、そして
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