この大空の硝煙を・SLGと航空戦

大橋博倖

第1話

■航空作戦


 本号の特集である戦術級空戦ゲーム、つまり「空戦」ですが、これはその通りに航空戦力運用の戦術局面です。

 なぜ空戦が発生するのかといえば、お馴染みでしょうが所謂、彼我ともに自軍の制空権を確保したいからです、現代では航空優勢と称されます。

 空戦ではなく、航空戦力を用いての作戦行動、つまり航空作戦の全体像を掴むのに格好の作品が、えーと、すみませんごめんなさい電源ゲーなんですが「空軍大戦略」です。1994年にシステムソフトからPC-9801用に発売され、現在はそのWindows版がプレイ可能です。余談ですがタイトルである「空軍大戦略」といえば一般では、SLGamerでも定番となりましたWW2西部戦線、その初頭、東部戦線が始まる前の英独の戦い、ドーバー海峡を挟んだ一連の航空戦「バトル・オブ・ブリテン」あるいは英本土航空決戦、をテーマとした1969年公開の戦争映画、既にご覧の読者の方もおられるかとも思います。

 一人用で対人戦機能はありません。戦場は主にWW2、連合枢軸の主要4カ国、日独米英からプレイ担当陣営を選択します。シナリオ9本、連続シナリオ形式のキャンペーンが、太平洋戦域の日本陸海軍、米軍、英軍と、欧州戦域の英独軍で計6本、シナリオかキャンペーンの何れかを選ぶと次にセットアップとして、初期資材で初期戦力を購入、また与えられた工場でどの機体を生産するか決定します。

 この工場はマップ上に配置されていて、戦闘開始と同時に最優先破壊、防衛目標です。キャンペーンでは新機種開発もこの工場で行います。各陣営には敗北条件が設定されていて、例えばドイツキャンペーンの開始面、“フランス侵攻”では、英国本土空軍は(同盟国の敗北)、同盟国たるフランス派遣軍は(建物被害20%、部隊被害50%)ドイツ空軍自身は(ターン終了、部隊被害30%)が設定されています。ここでいうターンはシナリオ期間で、1940年5月10日から25日、15日間の戦いです。作戦は一時停止可能なセミ・リアルタイムで進行し空戦含め戦闘は自動解決、一日は6:00に昼の、18:00に夜間の戦闘指示を部隊にプロットし、各部隊はその通りに所属航空基地から離陸し、作戦し、帰還します。

 端的には、「空軍大戦略」は爆撃を主題にした作品です。航空戦力が移転不可能なデザインなので、空軍基地を爆撃、壊滅させると所属航空戦力も一緒に全滅してしまい、いわば“陸上空母”的な扱いでそこは非常にゲーム的ですが、本作をプレイしてみると、試しに爆撃機を単独で飛ばすと当然、損害続出、それではと護衛の戦闘機を飛ばしてみても、思ったほどではなく多少ましな程度。

 爆撃機を安全に飛ばす手段として、航空優勢の確保、戦闘機どうしのガチンコバトル、現代でいう攻勢対航空作戦の発動、という一連の流れが自然に展開されます。


■SLGと航空作戦


 上記「空軍大戦略」に陸上戦力は登場しません。海上戦力は爆撃目標としてきわめて限定的に表現されます。同上、「バトル・オブ・ブリテン」は、独軍の英国本土上陸作戦の前哨戦でした。他方、多くのSLGで航空戦力は省略され、場合により、「航空優勢」という概念そのものとして登場します。

 WW1で既に航空優勢確保を目的とした空中戦、地上部隊への攻撃、爆撃(戦術航空支援、煩瑣なので本稿では爆撃、で統一します。)が開始されています。しかしながら塹壕線を破った戦車も陸上戦力でした。空戦としてはホビージャパン社の「ブルーマックス」という作品があり、これは同社が過去出版した同名作品とは別だそうです。戦争の構成要素として航空戦力を表現した作品は寡聞にして存じ上げません。

 空を制するもの戦場を制す、

 と航空優勢が文字通り死命を分けるのはWW2以降です。

 以前、ZOCについての記事中で、自軍による航空優勢の獲得は敵地上軍全体をZOCで覆うようなもの、という表現をしました。

 航空優勢の何が恐ろしいかは少しでも想像すれば判ると思いますが、要約すれば“一方的”であることです。

 偵察され、爆撃され、輸送されます。

 陸上戦力どうしの交戦であれば、作戦、戦術、また部隊の錬度、砲兵の砲撃や対戦車装備を一切持たない歩兵を戦車で蹂躙するような例外を除き、最悪、圧倒的であっても100:0という損害比率はまれですが、航空戦力対陸上戦力という図式では当たり前の戦闘結果です。

 そして矛盾しますが、航空戦力は同時に限定された戦力です。戦闘機や爆撃機をどれだけ集めても戦線は張れませんし、機甲師団一つを吹き飛ばすといっても(もちろん、十分な威力ですが)軍団一つを壊滅させるだけの力は持ちません。

 で、あれば、部隊規模が軍団以上の作品では航空戦力の扱いも自然と限定的、或いは省略ということになります、多くの作品では、部隊戦力に織り込まれているでしょう。盤上に登場する航空戦力の多くは、部隊戦力のユニットでは無く、航空作戦の遂行、その影響力を示すマーカーとして登場します。

 陸上戦力の戦闘解決に介入、コラムシフト、1:1の戦力比を+2で3:1に、或いは逆に、という空軍効果がポピュラーでしょうか。他には直接的な地上戦力への移動妨害、眼に見える形での、空軍によるZOCの展開もありますね。

 特殊な例では空挺作戦の表現、補給ルールの一環としての空中補給の可否……あと何かあるかな。加えて、欧州戦域での航空優勢の趨勢が、戦争の趨勢とほぼ連動、開戦当初枢軸有利から後半、連合陣営の圧倒という戦略環境そのものなので、戦略級以下のスケールではほぼ無視か、デザイナーだけが認識していればいいことになります。他方、太平洋戦域では、海上戦力、海上戦力の中核を成した洋上航空基地である航空母艦、そして島嶼防衛の航空戦力と、航空作戦は戦場を構成する要素として大きな比重を占めます。


■近現代戦


 WW2以後の戦争について、ミサイル、の存在による影響、変化以上に重大な要素はないでしょう。

 WW2欧州戦域後半から末期、連合陣営の圧倒的航空優勢を無効にする手段、使い捨ての自爆型航空機、飛行爆弾として、独軍本土から英国本土に向け直接放たれた、現代でいう巡航ミサイルの始祖と云えるフィーゼラー Fi 103、報復兵器第1号(Vergeltungswaffe 1)通称V1、並びに、末は月まで届く、またICBM、大陸間弾道弾の原型ともなった、報復兵器第2号 、V2。

 殊に核弾頭搭載型ミサイル、核ミサイルの出現は、核の撃ちあいによる相互確証破壊戦略などという、早い話が人類絶滅、最終戦、と、戦争の意味そのものすら変えてしまいましたし、前述、制空権にかわる航空優勢という用語の変遷は、地上発射型対空ミサイル(surface-to-air missile 略称SAM / ground-to-air missile GAM、一般にはSAM)の実用化とその配備による防空網、防空能力の出現によります。

 SAM出現以前の制空権は、正に空戦、彼我の戦闘機どうしが戦い、優劣を決する動的に掌握可能な、空を制する権利という概念でした。しかし、SAMは地上から空に制空能力を展開し、殴り返してくるようになりました。制空権の掌握とは敵戦闘機に加えこのSAMをも黙らせ、自軍の航空戦力を有利に展開可能な環境、ということで新たな概念とそれを表す航空優勢という用語も同時に生まれたのですね。

 もちろん、ミサイルは航空機にも搭載され、空中発射型対空ミサイル(air-to-air missile AAM)は空戦の様相を大きく変化させました。

 AAMの実戦デビューは1958年9月24日、朝鮮戦争の余燼覚めやらぬ共産中国と台湾間での軍事的緊張、第二次中台危機の最中、台湾海峡上空で発生した空中戦で、総数100:32、更にMiG-15/MiG-17対F-86Fという質、量ともに劣勢という戦局をはね返し、自軍1撃墜1大破の損害に敵11撃墜、キルレシオ実に11:2という赫々たる戦果の原動力は台湾軍の士気、錬度、そして初期型米国製サイドワインダーGAR-8の存在でした。AAMはこれ以上はない、機体性能と兵数の不利を覆す新兵器として戦史にその名を刻んだのです。

 因みにこの戦いは本誌別記事記載、零戦~海軍航空隊の戦い~の文中でも触れられた「フライトリーダー」の、24.7ミサイル時代の黎明、というシナリオでその一部をプレイ出来ます。

 ミサイル万能が呼号されたのも無理はない鮮烈な実績でしたが、勢いあまって機関砲を戦闘機の装備から外してしまった米軍のファントム2初期型F-4Cは、有視界戦闘、目視確認前の戦闘制限という政治戦略条件のベトナム戦争初期で思わぬ苦戦を強いられ、あわててガン・ポッドを搭載、後期型のF-4Eからは20mmバルカン砲を標準で搭載しています。

 併せて、軽視されていた格闘戦闘の見直し、再教育等のソフト面の修正もされ、正にミサイル万能“神話”は一度終焉したのですがしかし近年では再び、自機の後ろに付かれた敵機に向け、前に撃っても反転して命中しにいくお前それ反則だろ、と突っ込みたくなる全方位型熱源誘導AAMに、有視界戦闘ってなんですかとばかり、敵のレーダーレンジの外から機体のステルス性能を利して先制攻撃撃墜、航空優勢の更に先をいく航空支配を豪語する米軍の最新鋭戦闘機F22が持つ性能等、ミサイル万能復活の兆しも見えます。


■SLGと空戦


 冒頭、空戦を指して、“航空戦力運用の戦術局面”と記しました。では、航空戦力の作戦局面とは、と問えば……旧作ですが、ツクダホビーの「COMBATWINGS」がそれに当たるでしょうか。

 上述、WW2は欧州西部戦線の中・後期を戦場とする、連合軍の戦略爆撃とドイツ軍の防空戦闘を描きます。同上「空軍大戦略」の一部をクローズアップした様な内容です。ターンではなくイニングでのタイム・スライスですがその1イニングは約20分、練習シナリオですら30イニング、リアルスケール10時間の長帳場の戦いを表現します。“空戦”だと盤面時間数分も珍しくありませんので、この一事でも本作の性格がよく判るかと思います。

 もっとも、師団クラス作戦級では1ターン1日も普通ですので、この点からも、陸戦と航空戦の差異というものが顕著になるのではないでしょうか。1ユニットはスコードロン、飛行中隊約12機、表記はシルエットと1~3の耐久値のみで別紙にツクダホビーではお馴染み詳細な機体性能データカードを持ちます。

 面白いのは戦力の稼働率に加え、作戦上必須ながら実施が困難であった空中管制について、編隊形成や維持の成否等がルール化されている点でしょうか。

 例えば当時はレーダーもGPSもありませんので、移動する爆撃隊は旋回をすると、編隊を維持できているか各機が長機に追随できているかの脱落判定、いわば“迷子”が出たかの判定を求められます。

 護衛部隊の爆撃部隊への合流も失敗の可能性があり、迎撃側も、盤上を悠然と飛ぶ目標を攻撃するにはまず自機と敵機の接触に成功しなければなりません。

 そして、両軍の作戦、部隊の移動はすべて各々計画表に書き込む、実施する、という手順になります。

 他、同上、「バトル・オブ・ブルテン」をテーマにした作品は国外では多数、国内でも旧作としてはエポックの「バトル・オブ・ブルテン」という作品がありますが、これは、戦術解決、空戦戦闘結果を実際に空戦のミニゲームで行うという、いささかプレイに支障のあるモンスターゲームですので、本誌としては名前だけを挙げておきます。

 また、現代の航空作戦は、上述、SAMに関する航空優勢の概念に加え、爆撃による直接制圧、電子戦、果ては特殊部隊の投入、制空戦闘についても敵航空戦力への先制奇襲による地上破壊という、何とも味気ないといいますか決定的といいますか、実際に第三次中東戦争のイスラエル空軍がこれで圧倒的航空優勢の確保に成功していたりします。

 航空戦力が行使される航空作戦全般にあって、航空戦、空戦、は、そのごくごく一部ではありますが、SLGとして一番大事、プレイして楽しめる、「面白い」のはそのごくごく一部、ということですね。航空戦の大吟醸である空戦ゲーを是非、ご堪能下さい。

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