初めての同居の話

翌朝、二人は新しく住む家に帰って来た。

疲れ果て最後の力を振り絞り着替えて爆睡を始めた摩美、猛は高揚感から眠ることができず洗濯していた。




(────凄かったな)




心地よい疲労感、場の雰囲気に呑まれたとは言え学校では高嶺の花の存在である摩美と一夜を共にした。

お互い求め、求められ、それに応えて明かした一夜、ホテルを出る頃には冷静になりお互い気まずい空気になり、照れ臭くなりながらも快楽には勝てずに二人はチェックアウト寸前にもう一度求めた。

結果二時間延長である。




「……恋人でもないのにとんでもない事しちゃったな」



側から見れば恋人以上、二人も幼馴染以上の好意を持っているがその先に進めなかった。しかし上より下が、愛情よりも肉欲のほうが早かった。




「……ダメだダメだ! しっかりしろ猛! このままじゃダメ人間になっちまうぞ!! 」




『──時が止まってほしいです。もっとこうして猛と────』




「でぇあっ!! 」




壁に頭突きをしてなんとか理性を取り戻した猛はドラム式洗濯機の中で舞う洗濯物を眺めながら無心になろうとした。しかし眺めると言う選択肢は一線を超えてどうにか抑えていた分の理性の反動が今ある猛にとって毒だった。




(──────混ざってるな、俺の下着と摩美の下着)




洗面台を飛び出し向かったのは摩美の部屋──では無くトレーニングルーム、奇声を上げながらサンドバックを蹴り始めた。







(あわわわわ、ま、ま、ま、ま)





夢の中でサキュバスの姿に変身した摩美は顔を真っ赤にしながら尻尾を振る。





「ま、まさか猛と、せ、せ、せ! 」




小学校で保健体育を学んだその日の夜から猛の夢に出ては誘惑をしていた。サキュバスとしての免れぬ性質に時には嫌悪した時もあった。

万年発情期、脳内花畑、こんな自分が想いを伝えてもいいのだろうか、いつしか近づき過ぎないように言葉遣いを変えて少し他人行儀にしたり、たまに素っ気なくしたりもした。

しかし猛への想いは日々強くなり、昨日の出来事は夢だったのでは無いかと何度も不安になった。しかし猛の温もりは確かな物でもはや抑えきれないものとなっていた。





「……でも、浮かれてばかりもいられませんね」




自分はサキュバスで猛は普通の人間、四階から飛び降りたり、空手の全国制覇したり、そもそもサキュバスである自分より元気だったりと普通の人間と言っていいかは微妙だが猛は人間、もし今回の事でサキュバスの力が増幅されて今まで通りにやってしまった場合、猛が行き着く先は良くて廃人悪くて腹上死だ。




「猛を誘惑するどころか今や猛の存在そのものに私が誘惑されています。申し訳程度にあった理性も昨日無くなり今まで以上に興奮しないようにしなければ……」





好きな人と一緒に暮らせる。そのシチュエーション自体は摩美としては喜ばしい、しかしそれ以上に厄介でもある。常に一緒にいる都合上サキュバスを隠すのは一苦労、今では溜め込み過ぎれば部屋中に猛の写真を貼って気持ちを発散できたが、一緒に暮らす以上不可だ。




「運動……運動ですかねぇ」




気まぐれに見たポールダンスにハマり、だらし無い体型よりかは引き締まっている方がいいだろうと始め、トレーニングルームにもある程度は出来るほどのポールがある。




「まぁポールダンスでなくても普通にダンスでいいのですが、コレが邪魔です」




猛以外の男に見せる気が無いが育ちに育った胸は時として武器として使えるが、それ以上にブラジャーや服を買う時に選べる種類が少ないし、運動する時にも邪魔で生活する分には不便で仕方ない




「まぁ最初は柔軟でも始めましょう、激しいだけが運動じゃありませんし」




宙に浮かびながら納得して頷いていると激しい音で摩美は飛び起きた。




「じ、地震ですか!? 」




部屋から飛び出し猛の匂いを辿り、トレーニングルームに入って摩美は目を見開く──────サンドバックが裂け中身の布が天使の羽の様に舞い、サンドバックの前に静かに構える姿、上着を脱いで露になっている猛の肉体、もはやこれは芸術だと摩美は見惚れた。




「──────ハァ」


「す、凄いですね」


「──摩美か! すまん、起こしちゃって」


「いえ、少し寝たら勝手に目が覚めました」


「すぐ片付けるわ」




ゴミ袋にせっせとサンドバックの中身を入れていると洗濯機が終わった音が鳴り、手を止め洗濯物を干しに行こうとしたが摩美はそれを手で制し、洗濯物を干に向かい洗濯機を開けた瞬間、電気が走る感覚にへたりこむ




「ななな……なんと言うことっ」




先程の猛と同じく、自分達の衣服が混ざり合っている物を見て興奮した摩美は背中から翼を生やす──サキュバスの姿へ変化した。




「こんなの、メタファーですよ……!! 」



翼を戻して一度落ち着くも、全身燃えたぎる摩美は治らずトレーニングルームにいる猛の元に向かい、ほったらかしにされた洗濯物は三時間後、もう一度洗濯して乾燥させた。




「……」


「……」




気まずい沈黙、一度覚えた快楽には中々抗えないのだ。




((嫌われたらどうしよう))




電気ポットのお湯が沸き、猛は立ち上がるとコーヒーを淹れる。



「私はブラックで」


「はいよ」


「天ぷらは海老でお願いします」


「晩飯の話はやすぎるだろ……まぁ薬局行くついでに買ってくるわ」




ブラックコーヒーと、ミルクと砂糖を混ぜたコーヒーを机に置いた。





「これではいけませんよね」


「とりあえず……とりあえず落ち着こう、二人で住んでて何かある度にこうなったら卒業よりも退学が早くなってしまう」


「はい」


「今は敏感だからそう言った気分にならない様に意識して過ごすしか無いな、ハプニングが起きないように徹底して」


「洗濯を別にしたり、不用意に扉を開けたりしない、服装をだらしなくしない、と言ったところでしょう」


「そうだな……そこからだ。後はまぁ溜め込みすぎないようにだけ気をつければな」




「大変ですね、異性と暮らすのは」


「いや、たぶん俺達だけだと思うな、こんなにだらしないの」

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好きだと言えない二人の初めての◯◯ 小砂糖たこさぶろう @n_003

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