初めての映画鑑賞はB級映画の話
最近さらにワンランクアップした夢を見るようになった俺の最近の悩みは摩美の元気がない事である。
表向きはそんなに変化が無さそうに見えるが、ため息の数が増えているし、どこか遠くを見る目で見ている。何より家に来る頻度が増えているから寂しいのかもしれない、俺からももっと何かアプローチした方がいいかもしれないけど、滑った時が怖いかな
後、最近昔を思い出そうとすると頭が痛くなるのも悩みだな
◇
「ありがとうございましたー」
リサイクル業者に家具や家電を持って行ってもらい見送った猛は床に座り込む摩美を見て頭を掻く
「……はぁ」
「何かあったのか? 」
「この家には色々な思い出があったので、少し寂しいだけです」
「思い出……か」
父は母が行方不明になって以来ますます医者として没頭し、中々家に帰ってくる事が少なくなったが、そんな父に反抗する事もなくむしろその姿に納得していた。近くに摩美達家族が住んでいたから寂しいと思う事なく広い家に一人でいたが、摩美達は数年前まで家族と一緒に過ごしていたからであろうと猛は考えていると頭に激痛が走った。
「……っつ」
「どうしましたか猛、頭が痛いのですか? 」
「ん、たまに」
「……」
「そんな心配すんなって、それよりどうする? 家に向かう前にどこかで飯を食うか? 」
「映画でもどうですか? 」
「映画、か」
この間バタバタしていたし、落ち着いてゆっくり映画を見るのも悪く無いなと思った猛は摩美と一緒に家の鍵を大家に返してから映画館に向かった。
「一足早く住んでみてどうでしたか? 」
「俺と摩美だけじゃ広すぎる気もするけど、まぁゆったりできるよ、個人的には風呂が前の家に比べて大きくなったのが嬉しいかな」
「…………もしかして一緒に入ろうとか企てています? 」
「ばーか……まぁあの広さなら入れそうな気がするし、一人で入ると水道代が頭にチラつく広さだけど」
「夜見さん?」
二人は足を止めて振り向くとそこに居たのはややぽっちゃりした男子、小学生から二人の同級生である小田 将暉が驚いた表情で立っていた。
「よぉ小田ちゃん、どうしたよそんなびっくりして」
「え、いや、だって……二人、一緒に住んでるの? 」
「まぁこれでも産まれた病院も一緒で家族ぐるみの仲だしな、女の子一人暮らしさせるよりかはって摩美の父さんから話を持ちかけられたんだ」
「いや……それってダメでしょ! 高校生の男女が二人っきりって!! 」
「お、落ち着けよ小田ちゃん」
猛に掴みかかる勢いの小田に摩美は苛立ち小さく舌打ちをすると猛の前に立った。
「小田さんは"何か用事があるのではないのですか? "」
摩美の瞳は桃色に輝くと小田は途端に大人しくなり猛から離れた。
「そうでした。それでは失礼するね、また学校で」
「────えぇ、また学校で」
小田の姿が見えなくなり、振り向いた摩美の表情を見て猛は思わず後退りした。見惚れてしまうような笑顔、間違いなく他人には見せないほど可愛らしく国宝クラスと言っても過言では無いと猛は思った。しかしそれ以上にその笑顔に恐怖した。
「話、ややこしくしないでくださいって言ってますよね」
「は、はい……!!」
◇
映画館に着いた二人、猛はチケットを買いに並び、摩美は窓ガラスに映る自分の姿を見ていた。
(……うん、普通の女の子ですね)
ボーイッシュな服装は猛が買ってくれた帽子に似合う様に色んなファッション誌や服屋を巡り選んだ物、好きな人の横に立つ自分は最高の自分でいたいと密かな想い、ガラス越しに猛が近づいているのが見えた摩美は振り向く
「今日の私はどうですか? 」
「ん? そうだなぁ……でもその帽子いる? 」
腹部への鋭い一撃、かつて格闘技を学んでいた猛は今までに無かった一撃に一瞬よろめいた。
「これは! 貴方が! 買ったのでしょう! 」
「────そうだな、その元気な姿が映えるな、今日の服は」
「服だけですか? 」
「そうだなぁ、とりあえず泣くような映画はチョイスしていないよ」
「──────人の顔をジロジロと」
「そう言われたら厳しいなぁ」
たははと笑う猛に摩美は掌を握り、照れを隠すためにソッポを向いて誤魔化した。
(────この男は、本当にもう)
映画の時間になり、二人はシアターに入り席に座ると猛は周りを見渡す。
「少ないな」
「B級臭のする恋愛映画でシアターが埋まってしまったら終わりですよ」
「そこまで変か? 」
「『ショットガン忍者とバニーガール』と言うタイトルに何の疑問も持たないのは本当に同じ学校に通っていたか不安になるのでやめてください」
いくら好きな人でも映画のチョイスが……と若干の呆れの目線を向けながらも映画が始まると摩美は大人しく観ていた。
(なんで忍者の武器がショットガンなんですか……と言うか二人で映画を観るのが初めてなのに、初めてなのにコレ……)
ショットガン片手にスーツの男達を相手に大立ち回りする忍者の青年、裏カジノのオーナーの殺害を依頼された青年は一人のバニーガールと出会った。
『────君は』
何か言おうとした青年だったが、男達がマシンガンを撃って来たのでバニーガールの女を連れて逃走する。
『私を殺してください、忍者のお兄さん』
明かされるバニーガールの女の正体、裏カジノを経営する組織によって怪異に蝕まれ大勢の命を奪う依代となってしまっていた。
そしてショットガン忍者は表の姿、本当の姿は怪異から人を守る防人だった。
『貴様、女の姿に絆されたか!! 』
『望まぬ形で怪異とされた人と、怪異から人を守る宿命を持ちながら一人の少女を怪異にした者達、同じ人の形をしていてもどちらが怪異か!! 』
『もうやめてお兄さん! 私が死ねば全てが丸く収まるの!! 』
(──────なんですか、これ)
摩美は涙を流した。あまりにも似た境遇、忍者の格好をしたショットガンを持つチグハグな青年の言葉の一つ一つが猛を好きになった時の事を思い出させるのだ。
『愚かな男だ! せっかくここまで組織で成り上がったものを、そんな女の為にすべてを捨てるか!! 』
(────猛)
──女子一人でよってかかって虐めてるようなアホが一人に殴られたぐらいがガタガタ抜かすなボケがッ!! ──
──い、いいんだな!? 父さんにチクッてお前が二度と空手出来なくしてやる!! ──
──上等ややってみろやドアホ! てめぇらのやってる事認めるような道場なんざこっちからやめたるわボケナス!! 必死こいてやってこれやったら賞状もトロフィーもメダルも捨てたるわッ! ──
(猛はこれを知らずに映画を見せたんですかね?)
だとしたら相当な奇跡ですよ、とチラッと猛に目を向けた。
「こんなんする奴おらんやろ」
(えっ!? 貴方も似たような事したんですよ!? )
思わず椅子から転げ落ちそうになった。
かつて小学四年五年六年、そして中学一年の空手の全国大会で優勝し、マスコミからは将来オリンピックを期待されていたほど、しかし摩美を助ける為に虐めていた連中に対して暴力事件を起こして空手の道を捨てた。しかもそれが約二年と数ヶ月ほど前の出来事なのに目の前にいる男は映画の主人公の行動に否定的であるのだ。
「……クソ映画か? 」
(──────────────えぇ……)
なんかもういいや、とドッと疲れた摩美は映画のクライマックスにも関わらず眠ってしまった。自分の家に猛が来る────その緊張とムラムラで眠れなかったせいでもあった。
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