冤罪

娘が亡くなって一年後


妻は夜12時、男と話し込んでいた。



「娘が亡くなって一年ね」


「…」



男は妻の発言に何も答えられないでいた。


無論、娘は山犬によって亡くなったのだが、自分が殺したも同然なのだから。


あんな事件があってから一部の人たちからは関係を断ち切られ、孤立した状態でいた。



「あたしね…好きな人ができたんだ」



妻のこの発言も男は何も感じなかった。


事実、娘とのあの事件があった日もこの妻は別の男とデート中だったのだから。



「でね…相手の方、借金があってね。500万」



男が返事をしないうちに妻は話を続けていく。



「結婚当初からあなた、保険入っていたわよね…」



妻がこれから何をしようと考えているのか、男にはすぐに分かった。


男に包丁を向ける妻の手は震えていた。



「あなたに事故死してほしいの…」



脅すために向けられた包丁はゆっくりと近づいてくる。


妻は何に気が狂ったのか、声を荒げて発狂し、男の胸をめがけて包丁を振り下ろす。


男は抵抗に抵抗を重ね、数分。



気づいたころには白く綺麗な床は赤く染まっていた。


赤く染まった床と自分の手を見て、男は肩を震わせた。


目の前には胸に包丁の刺さっている妻。


まだ少し息があるようだった。


男は何もできずただ茫然と息が小さくなっていく妻を見ていた。



遠くからサイレンの音が聞こえてくる。


妻の悲鳴を聞いた隣人が警察に連絡を入れたのだろう。


男はこのサイレンの音を知っていた。


小さい頃からよく聞いていた。



あの花火をしていたときも…


図書館で文献を探していたときも…


狩猟シーズンに熊狩りしていたときも…


仕事で用があって空港にいたときも…


娘が亡くなったときも…



連絡を受けた警察官が男の家へ入ってくる。


男と妻の状況を見た警察官は少し戸惑いながらも男に手錠をかけた。



「署まで同行を願います。」



男は何も言わずに立ち上がり、パトカーに乗り込んだ。






そして、数日後、


事情聴取を終え、裁判が行われた。


男は有罪とされ、刑は終身刑を言い渡された。


男の母は泣いていた。


男の母の横の知らない男が男に向かって笑みを浮かべていた。

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