熊狩り

青年は25歳になった。


無事、大学も卒業し、立派な企業に就職した。


趣味で狩猟も始めた。


免許も取得し、日々の努力で得た財産でライフル銃を手に入れた。


今日は休日。


職場は休みで、立ち入り禁止の樹海に入り浸っていた。


樹海の中に入れば、北も南も分からない。


入ったところからテープを張りながら、奥へ奥へと進んでいく。


遠くの方で熊が歩いていた。


熊は青年の姿を捉えると向きを変えて、そそくさと逃げていく。


青年は銃を構えた。


標的は小さくなっていく。


とうとう撃つことはできなかった。


次は逃がさない!とどんどんモチベーションが上がっていく。


静かな樹海の中、聴覚が良くなっていく気がする。


遠くの音までもが聞き取れる。


しばらく奥へ歩みを進めると、カサっと遠くの方で草が揺れた。


青年はそれを見逃さなかった。


青年は銃を構え、じっと見つめると黒い毛が見えた。


熊だ。


青年は大きく深呼吸し、



バンッ!



と標的を撃った。


標的は倒れたようで、その場から姿が見えなくなった。


青年は辺りを探したが、標的がどこにいたのか分からなくなっていた。


青年は小さく舌打ちをし、樹海を出ようと身を翻した。


太陽は青年の真上にいる。


日差しがとても暑い。


青年は張ったテープを頼りに樹海を後にした。


樹海を出るまでにかかった時間は2時間。


思ったよりも長くかかった。


行きはそれほどかかったと実感していないが、帰りは途轍もなく長い道のりだった。


樹海を出て、山道の端に停めてある車に乗り込む。


自宅までの道のりはまた38km山を下りなければならない。


38kmの道のりを突き進み、自宅を過ぎた頃にはお昼を過ぎていた。


樹海では携帯の電波が県外であったため、一通も着信が来なかった。


自宅に帰ってようやく携帯を開いたところで、何件か非通知の着信が入っていたことに気づく。


特に重要な連絡でもあるまいし…と青年は無視をし、昼食の準備を始める。


昼食にホットドッグを作った。


今、青年が食べたい気分であったのだ。


手作り感満載のホットドッグにかぶりつく。


市販のものも美味しいが、これはこれでまた美味である。


もごもごと小さかったあの頃のまんまの姿で食べ続ける。


インターフォンがなれば、あの頃同様、口の中にまだ入っているのに関わらず、インターフォンの画面にへばりつく。



「どなたですか?」


「宅急便です」



青年はシャチハタのハンコ片手に扉を開けた。


扉の外にはちょうど青年と同じくらいの男性が立っていた。


受取証に印を押した。










翌朝、


テレビをつけると朝のニュース番組がやっていた。


朝一番のコーヒーを注ぎながら、ニュースに耳を傾ける。



『では、次のニュースです。生配信で頭を撃ちぬかれる瞬間が捉えられました。・・・』



ぼんやりと朝食の準備を済ませる。



『昨日、界隈で有名なYoutuberが〇〇県の樹海での生配信中に突如、何者かに頭を撃ち抜かれました。警察によれば、犯人の検討は未だついていないとのこと。被害者は病院に搬送されましたが、後に死亡が確認されました・・・』



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