市松人形のように育てられた女性が、人形偏愛の男性と結婚するお話。
ホラー小説、のような恋愛ものです。このホラーっぽさと恋愛ものっぷりの両立というか、「ガワと中身でくっきり分かれて別個に成り立ってる」感じが本当にすごい。
人形として扱われる主人公と、そんな彼女に夫が施す行為。これらの出来事そのものは非常におどろおどろしく、ホラーのようなグロテスクさを感じさせるものがある……というのは間違い無いのですけれど。
面白いのは、これがあくまで〝感じさせる〟の域を出ない点。
一旦、自分自身(=読者としての自分個人)の価値観を抜きにして、作中の人物の目線でストーリーを眺めたなら、わりとほのぼのハッピーな日常ものっぽく読めてしまうところ。ここが本当にウキウキします。まあ危うい要素もなくはないのですが(手が出ちゃったところとか)、それでも大まかにはふたりは幸せなんだろうなあと、そうとしか解釈できないところが素敵でした。お互いの幸せの形ががっちり噛み合ってしまっている感じ。
主人公のありようというか、一度は複雑な思いを抱いた市松人形を、結局アイデンティティにしているところが好きです。「超克した」みたいな前向きなものではなく、といって「囚われている」といった後ろ向きなものでもまたない、という、この自然さ。素敵。