第13話 誰と待ち合わせ?

 翌朝


 俺はまどろみの中、心地よい布団の体温にくるまりながら、夢の世界の住人になっていた。


 トントン


 どこからか音が聞こえる気がする。


 トントン


 気のせいじゃない? しかし無視だ。誰にも俺の安眠は邪魔させないぞ。


 ガチャ


 まさか部屋に浸入して来たのか!


「し、失礼しま~す」


 浸入者はとても可愛らしい声の持ち主のようだ。だがそんなことで俺が起きると思わないことだな。


「お、お兄さん起きて下さい。サラお姉さんからお兄さんを起こすように頼まれました」


 声の主はどうやらアイリちゃんのようだ。布団越しに俺の身体をゆさゆさと揺らしている。


 何かこれ気持ちいいな。朝女の子に揺らされながら起きる⋯⋯とうとう俺もリア充の仲間入りか?


「お兄さん⋯⋯起きて下さいよ」


 やばい。アイリちゃんの声が若干涙声になってきた。仕方ない⋯⋯ここは起きるとするか。


「あ、後5分⋯⋯」

「ご、5分ですか? それでちゃんと起きてくれますか?」


 ここで俺にイタズラ心が芽生えてきた。


「膝枕してくれたら5分で起きるよ」


 おそらくアイリちゃんは膝枕をするわけにいかないから、困り果てた表情をするはず。


「わ、わかりました⋯⋯5分だけですよ」


 アイリちゃんはそう言葉にするとベットに座り始めた。


 えっ? マジで? 冗談で言ったけどまさか本当に膝枕をやらせてくれるとは!

 しかし据え膳食わぬは男の恥とも言うので、俺は遠慮なしに頭をアイリちゃんの太腿に乗せる。


「んっ⁉️」


 俺の頭をを膝に乗せた瞬間、アイリちゃんから艶かしい声が上がる。


 な、何だこの後頭部に感じる柔らかさは! これは5分と言わず1時間でも2時間でも味わいたくなったぞ。


「おっはよー!」


 しかし至福の時間は突如乱入してきたサラの手によって終わってしまう。


「え? え? 2人ってそういう関係だったの⁉️」

「5分だけな」

「まさかの援助交際⁉️」

「ち、違います! お兄さん嘘を言わないで下さい」


 これぞ俺がさっき見たかったアイリちゃんの狼狽えた姿だった。



「いやあ⋯⋯アイリちゃんがそこまで進んでるとは思わなかったわ」

「俺もだ」

「お、お兄さんがやらせたんじゃないですか!」


 俺達は一階のリビングに下りて、さっき俺の部屋で起きたアイリちゃんの膝枕についての話題で盛り上がっていた。


「何か今日のアイリちゃんは元気ね」


 母さんはアイリちゃんの様子を見ていつもと違うと感じ取ったようだ。

 さすが子供を持つ母親なだけはある。俺の目から見てもアイリちゃんは昨日より余所行きの態度がなくなったと思う。


「アイリちゃんの面白い所も見れたし、私家に戻るね」


 そう言ってサラは上機嫌でリビングから出ていこうとする。


 お前はそのために俺の家に来たのか! と突っ込みたかったが、アイリちゃんの面白い所が見れたというのは同感なので、俺は何も言わないでおく。


「うぅ⋯⋯お兄さんとサラお姉さんに弄ばれました」


 アイリちゃんは怒っているのか恥ずかしいのかわからないが若干涙目になっていた。


「あっ? あんた今日の約束は絶対護りなさいよ」


 リビングから玄関に向かっていたサラが振り返り、俺に忠告してしくる。


「わかってるよ。サラこそ遅れるなよ」

「遅れるわけないでしょ。ばか」


 今度こそサラは玄関から外に出て自宅へと帰って行った。

 けど確かにサラは今まで待ち合わせで遅れたことはないな。

 時間は10時20分。ちょっと早いが俺も準備して約束の噴水広場へ行くとするか。

 一昨日みたいなトラブルに巻き込まれないとは限らないからな。

 俺は自室へと戻り、シャツを変えて上からジャケットを羽織り噴水広場へと向かうことにした。



 時間は10時50分⋯⋯待ち合わせの10分前だ。


 それにしても何でサラと会うのにデート用の服を着なくちゃならないんだ。別に普通の私服でもいいと思うのだが⋯⋯たまにサラ訳がわからないことを言う時があるからな。

 けどこれで今日はアイリちゃんのパーティー入りの話ができるからちょうど良かった。サラはアイリちゃんのことを気に入ってるから反対することはないだろう。


「ごめん待った?」

「ううん⋯⋯今来たとこ」


 俺の周囲をよく見渡すとカップルらしき人が多くいることに気がつく。そういえばこの噴水広場はデートスポットだったな。


「定番の挨拶をしちゃって」


 くそっ! 羨ましくなんか⋯⋯あるぞ!

 俺もサラとの待ち合わせじゃなかったら心弾んだのかもしれないけど⋯⋯いつかは俺もさっきのカップルのやり取りをやれる日が来るのであろうか? 正直そんなことをするイメージが全くない。


 だが俺の考えはこの後すぐに覆されるとは思いもしなかった。


「ト、トウヤ先輩⋯⋯お、お待たせしました」

「えっ?」


 俺はこの時声をかけてきた人物に驚きを隠せず、思わず間抜けな声を上げてしまった。


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