第14話 デート再び?

「エ、エリカさん!」


 そう⋯⋯今俺の目の前にいるのは一昨日デートをするはずだったエリカさんだった。


「せ、先輩こんにちは⋯⋯」

「こ、こんにちは」


 えっ? えっ? 何でエリカさんがここに⁉️ しかもお待たせしましたって言ったよな? 今日はサラと出掛けるんじゃないの?

 そしてエリカさんの服装は薄い水色のワンピースで、一昨日見て可愛いと思ったやつと同じだ。


 俺は予想外の出来事に頭が混乱していた。


「サラ先輩に⋯⋯して⋯⋯デートを⋯⋯」


 エリカさんの声が小さくて所々聞こえない部分もあったが、サラがアイリちゃんのことをエリカさんに上手く事情を説明してくれたってことだな。


「とりあえずサラ先輩から昼食を食べるならここに行くようにと言われているので行きませんか?」

「あ、ああ⋯⋯わかった」


 こうして俺はエリカさんと一緒に、商業施設がある街の中央通りへと向かった。

 そしてエリカさんの案内で到着したお店は⋯⋯レストランスクイズィート。俺は行ったことパスタが有名な店だったと思う。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「2人です」

「ではお席を御案内いたしますね」


 俺とエリカさんは店員さんの指示に従って、案内された席へと座る。


 ここに来るまで俺達は一言も喋らなかった。

 エリカさんから話しかけて来ることはなく、俺も何を話していいのかわからず無言だった。

 そして今もそうだが俺から話づらい理由の1つとして、エリカさんの表情が非常に険しいことにある。これは怒っているのか? まさかデートだと浮かれているのは俺だけで、エリカさんはこの間のことを断罪するために来たのか!

 そうだよな。よく思い起こしてみるとエリカさんはデートをするとは一言も言ってない。

 だけどエリカさんが俺と会ってくれた理由はどうあれまずは言っておかなければならないことがある。


「エリカさん」

「何ですか?」


 俺が話しかけるとエリカさんはギロリと睨んできた。


 こ、こえぇ⋯⋯けど俺は挫けるわけにはいかない。


「その⋯⋯俺のこと怒ってると思うけど⋯⋯」

「怒ってません!」


 エリカさんは少し声を張り上げて答えてくる。


 いや、誰がどう見ても怒ってるよね? これで怒ってないと言う人がいるなら教えてもらいたい。


「わ、私⋯⋯男の人と2人っりきりになるのが初めてで緊張してるだけなんですぅぅぅ!」


 そう言ってエリカさんは涙を流し、テーブルにうつぶせになる。


「えっ? 緊張?」

「そうですよ⋯⋯私、デートするのも今日が初めてですから。だから先輩のこと怒っているわけじゃありません」

「それなら今日はサラの共通の知り合いってことで、デートじゃなくてただ食事をしにきたって考えよう」

「わ、わかりました」


 正直俺も緊張しているけどエリカさんの様子を見て落ち着いてきた。だが食事を楽しむ前にまずは一昨日のことを謝罪したい。


「エリカさん」

「はい」

「一昨日は待ち合わせに遅れてしまい、すみませんでした」


 俺は立ち上がり、エリカさんに向かって頭を下げる。


「や、やめて下さい。それに謝らなければならないのは私の方です」


 アイリちゃんのことかな? けど誤解とはいえ翌日に別の人とデートしている様を見せられたらいい気はしないだろうからエリカさんは悪くない。


「ノエルさん」

「えっ?」

「先輩はノエルさんを御存知ですよね?」


 ノエルっていうと一昨日オークに襲われて助けた娘だよな。


「あの娘は私の親戚なんです」

「そうなの⁉️」

「一昨日ノエルさんがアストルムに引っ越して来て、昨日全てを聞きました」


 まさかノエルンとエリカさんが親戚だったとは。


「オークに襲われている所を助けてもらって、失くしたリボンを探してもらったって⋯⋯」


 さすがにお漏らししたことはエリカさんには言ってないようだ。


「それに何か用事があるのに、私を街まで送ってくれたって⋯⋯」


 エリカさんはそう言葉にするとぼろぼろと涙を溢す。


「それは⋯⋯ほら。ノエルンが可愛かったから恩を売ろうとしただけかもしれないよ」


 俺がそう言うとエリカさん驚いた表情をする。


 えっ? 何でそんな顔をするの。ここは非難する所じゃない?


「ビックリしました。サラ先輩の言ったとおりです。先輩は私がノエルさんのことを話すと恩を売っただけだって絶対言葉にするわよって」


 俺の行動を読むとは⋯⋯これだから幼なじみは困る。


「だ、だから謝らなきゃ行けないのは私の方なんです。話も聞かず、頬を叩いてしまってごめんなさい」


 エリカさんは泣きながら俺に頭を下げ、周りの客達がその様子を見てひそひそとしゃべり始める。


「何? 痴情のもつれ?」

「女の子めっちゃ泣いてるじゃん」


 やばい、このままだと俺は公衆の面前で女の子を泣かした最低野郎と思われてしまう。


「エ、エリカさん顔を上げて! 俺は全然怒ってないから」

「でも⋯⋯私は先輩に酷いことを⋯⋯」

「事情を話さなかった俺も悪いから⋯⋯ほ、ほら、今日はせっかくまたこうして会えたから楽しく行こうよ」

「⋯⋯わかりました。それと⋯⋯ノエルさんを助けて頂きありがとうございました」


 エリカさんは涙が消え、そして笑顔でお礼を言ってきた。


 ドキッ!


 やっぱりこの娘は可愛いな。今の笑顔は反則だろ。

 容姿だけではなくスタイルも良いので、モデルをやってると言われても驚かないぞ。


「えぇっと⋯⋯そろそろご注文を取りたいのですが⋯⋯」

「「えっ⁉️」」


 どうやら俺とエリカさんは周りが見えていなかったようで、店員さんが注文を取りにきたことに気づかなかった。


 俺達はメニューから料理を選び、店員さんに注文をした。俺は茸のクリームパスタでエリカさんはカルボナーラだ。


「先輩⋯⋯私はエリカといいます⋯⋯サラ先輩と同じリストランテで働いています」


 そういえばこれまでお互いの自己紹介をしていなかったな。


「俺はトウヤ⋯⋯サラ達と魔物を狩ったり、たまに街で色々なバイトをしてます」


 何か自己紹介をしたことで、やっとお互い相手の方を向き合えた気がする。

 ここは俺のことをさらに知って貰うため、アピールをすることにしよう。


「趣味は読書で⋯⋯」

「あっ⁉️ その辺りのことはサラ先輩から聞いてますから大丈夫です」

「サラから⋯⋯だと⋯⋯」


 嫌な予感がするのは気のせいであってほしい。


「変態でエッチなことが大好きだということを⋯⋯後女性に対する運のなさのエピソードも。それと趣味の読書ってエッチな本のことですよね」


 終わった⋯⋯もうエリカさんの中で、俺は危険人物として認識されているだろう。俺の今の無様な様子を見て、サラが高笑いしている姿が目に浮かぶ。


「ですが⋯⋯困っている人には優しくて、言い訳はしない人だということも聞いてます」


 サラァァ!


 さっきは悪魔に見えたが今は天使⋯⋯は言い過ぎか。ちょっとだけ良い人に見える。


「後、私の方が後輩ですから呼び捨てでいいですよ」

「わかった」


 そしてこの後注文していた料理が来たので頂き、お互いの共通点のサラの話題で盛り上がり、俺達はレストランスクイズィートを後にした。



「先輩はこの後何か用事でもあるんですか?」


 エリカは初めに出会った時とは違い、少し緊張がほぐれてきたかのように見える。


「いや、俺は今日は特に何も」

「私は15時からリストランテで仕事があるので⋯⋯そ、それまで街を歩きませんか?」


 別にこのまま帰ってもいいのにエリカは歩かないかと誘ってくれた。少しは緊張がほぐれてきたのかな?


「いいよ」

「あ、ありがとうございます先輩」


 そして俺達は雑貨店などがある商業施設へと向かう。



「ほら先輩⁉️ あれ可愛くないですか?」


 エリカが商業施設の一画にあるファンシー店でぬいぐるみを見つけはしゃいでいる。

 綺麗な容姿だから大人びている感じがするが、こう見ると年相応だな。


 この店に来る時に聞いたのだが、エリカは俺の2つ年下でアイリちゃんとセレナと同じ16歳らしい。


「先輩どうですか?」


 エリカが1つのぬいぐるみを取って俺に見せてきた。

 猫の顔でペンギンのような全体像をしており、手には赤い棒のような武器を持っている。


「これが可愛いの?」

「可愛いですよ」


 俺としてはとてもじゃないが可愛く見えない。


「先輩このキャラクター知ってますか?」

「知らない」

「このぬいぐるみはにゃんペンって言って半年前くらいからアストルムで流行っているんですよ」


 これが流行っている⋯⋯だと⋯⋯。


「この持ってる棒とか相手を叩きつけて血で赤くなったんだろ? もうこれってホラーでしかないよな」

「違います! これはにゃんペンの熱く燃えたぎる魂の色なんです」

「魂だか何だかわからないけど不細工も見慣れたらかわいく見えるってやつか」

「もうそれでいいです」


 エリカは俺ににゃんペンのことを理解されなくて少しふてくされてるようだ。


「そうだ。今日のエリカの服装⋯⋯似合っててすごく可愛いよ」

「今の流れでそれをいいますか!」

「いや、ちがうんだ。本当は出会った時に褒めようと思ったけど言い忘れてたから。エリカのこと不細可愛いなんて思ってないぞ」

「もう先輩なんか知りません!」


 やばい。ちょっと悪のりしてからかい過ぎたか。


「ごめんごめん」


 俺は謝るがエリカは明後日の方を向いてしまう。


「あれ? トウヤくんじゃない?」


 この時突然後ろから声をかけられたので背後を振り向くとそこには修道服に身を包んだシーラ姉さんがいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る