第11話 アイリとの約束

「エ、エリカさん⋯⋯」

「本当にあたなは最低ですね。昨日デートをしなくて良かったと改めて思いました」


 何かエリカさん勘違いしてないか? しかもメチャメチャ怒ってるし。


「あ、あの⋯⋯私は⋯⋯」

「別に言い訳なんて聞きたくありませんからあなたは何も言わなくていいです」


 これって俺は2日連続別の女の子とデートするハレンチ野郎になってないか? いやこの世界は重婚ありだから別にそうでもないか。けどエリカさんは何となく潔癖そうに見えるからハーレム的なことは嫌いそうに見える。


「たまには自分がお客さんになって食事をと思いましたけど嫌いな人がいるから帰ります」


 えっ? それってエリカさんもここで働いてるの? なるほどサラの後輩って言ってたけどエリカさんはこのリストランテの後輩だったのか。


「さようなら最低男」


 そしてエリカさんは俺の頬を目掛けて平手打ちをしてくる。


 ビシッ!


「お、お兄さん大丈夫ですか⁉️」


 アイリちゃんがビンタを食らった俺の所に駆け寄ってきた。


「ここには2度と来ないで下さい」


 そう言ってエリカさんは俺の方をにらみこの場から去っていた。


 いてっ! 女の子にビンタされるなんて最悪だ。

 とりあえず今は昨日の件も含めてエリカさんの誤解を解くか⋯⋯いや、俺が言っても信用してもらえるかどうか怪しいし、益々話がこじれそうだから止めておくか。


「あれ? 何か騒がしいけど何かあったの?」


 サラが着替えを終えて俺達の所へと戻ってきた。


「今エリカさんが――」


 俺はサラに今ここで起こった出来事を話した。



「あらあら⋯⋯最悪のタイミングでエリカが現れたようね」


 確かにそうだ。アイリちゃんと俺が親戚だとわからなければ、女の子を取っ替え引っ替えしていると思われても仕方ない。


「ちょうどいいから私エリカを追いかけてくる。アイリちゃんが親戚だって言うことも伝えてくるね」

「すまないが頼んだ」

「今度私もリストランテのディナーを奢ってね」


 サラはこちらにウインクをしながら、エリカさんを追いかけるためリストランテを後にした。


「それじゃあ俺達も出ようか」

「⋯⋯はい」


 リストランテの帰り道、俺がエリカさんに平手打ちを食らったこともあり、気まずい空気が流れていた。


「お兄さん」


 そんな空気の中、アイリちゃんの方から俺に話しかけてきた。


「少ししゃかんで頂いてもよろしいですか?」

「うん」


 何だろう? とりあえず俺はアイリちゃんの言うとり屈む。するとアイリちゃんは俺の顔に両手を伸ばしきた。


「【回復魔法ヒール】」


 アイリちゃんが言葉を発すると俺の頬の痛みがしだいになくなっていく。


「アイリちゃん、魔法が使えたんだね」

「いっぱい練習しましたから」


 練習した? アイリちゃんは天の島を目指しているのかな?

 いや違う。アイリちゃんは⋯⋯。


「これで治ったと思いますがまだ痛みますか?」

「全然⋯⋯むしろ頬を叩かれる前より調子いいかも」

「そんなことないですよ」


 アイリちゃんは俺の冗談に対して笑顔を見せてくれる。


 それにしてもアイリちゃんには悪いことをしたな。せっかくのお祝いなのに俺のせいで気まずい思いをさせてしまった。


「お兄さん⋯⋯先程の方は⋯⋯」


 アイリちゃんはやはりさっきの騒動が気になるようだ。


「あっ⁉️ いえ⋯⋯もし話せない事情がありましたら別に⋯⋯」

「昨日デートするはずだった女の子。けど俺遅刻しちゃってさ⋯⋯後はさっきエリカさんが言っていたとおり」


 翌日には他の女の子とデートしている最低な奴だと思われている。


「あの! わ、私はお兄さんが良い人だということを知っていますから。だからその⋯⋯私何かが言うのもおこがましいですが元気出して下さい」


 やばい。どうやら俺は険しい表情をしていたようだ。アイリちゃんに心配させてしまったか。


「ありがとう」

「それにサラお姉さんがエリカさんにお兄さんは良い人だって伝えてくれますから」


 そ、それはどうだろう。サラのことだから俺のことを面白おかしく話しているような気がする。

 けどサラは任せろって言ってたから信じるしかないな。


「そうだね⋯⋯それよりリストランテの料理美味しかったね。また行きたいと思ったよ」

「そうですね。またで行きたいですね」


 この後俺とアイリちゃんは、今日食べたリストランテの料理の話題を話しながら帰路に着いた。



 俺は今、自宅に帰宅してから風呂に入りベットに横たわっている。


「サラから連絡ないな。やはりエリカさんは相当怒っているのか」


 例えアイリちゃんの誤解が解けたとしてもデートに遅れたのは事実だからな。


「ええい! やめやめ!」


 今は悪いことは考えるのを止めて、前回オークを仕留めたことによってレベルが上がったからスキルポイントを振ることにしよう。

 俺はシステムと頭の中で念じ、立体的に浮かび上がってきた画像のステータスをタッチする。すると現在の能力、スキルが表示される。

 能力は6つに分かれており、レベルが上がるとスキルポイントを自由に振ることができ、自分にあった育成をすることができる。


 ・HP=Hit Point 体力を表し、0になると死ぬ。

 ・MP=Magic Point 魔力を表し、スキルや魔法を使うと消費される。

 ・STR=Strength 力や攻撃を表す

 ・AGi=Agility 素早さや回比率を表す

 ・VIT=Vitality 体力や防御力を表す

 ・DEX=Dexterity 器用さを表す

 ・INT=Intelligence 魔力の強さを表す

 ・LUK=Lucky 運のよさを表す


 ちなみに俺の今の能力はこうなる。


 レベル22

 HP=352

 MP=231

 STR=336

 AGI=252

 VIT=132

 DEX=111

 INT=212

 LUK=32


 能力が上がることによってスキルを覚えていくが、これは個人差があって、例えばINTが100で回復魔法ヒールを覚える者がいれば覚えない者もいる。これは個人の資質の問題であり、育成の方向性を間違えると魔法が使えないのに魔力が高いといったことになりかねない。

 そして俺は今回レベルが上がったことでスキルポイントが20入ったので、全てSTRに振る。


 STRが356になった。


 ちくしょう! スキルは覚えなかったか。

 ステータスの値が一定以上になるとスキルを覚えるが残念ながら今回はだめだったようだ。


 ちなみに俺はSTRとAGI、INTを優先して上げており、今覚えているスキルはこれだ。


 ・イグニッション=力やスピードの身体能力がアップする

 ・ソニックスラッシュ=風の刃を撃ち出し離れた敵を攻撃する

 ・はやて斬り=一呼吸に3連撃を放つことができる

 ・メテオブレイク=上段から重い一撃を繰り出す

 ・回復魔法ヒール=傷や体力を回復することができる

 ・浄化魔法クリア=状態異常を治すことができる

 ・火炎弾魔法ファイヤーボール=火炎の弾を生み出すことができる。

 ・炎の矢ファイヤーアロー=炎の矢を生み出すことができる。矢の数は本人の魔力の強さによる

 ・土穴魔法アーストラップ=直径3メートルほどの落とし穴を作ることができる。


 一応コンセプトは魔法戦士だが、育て方を間違えると攻撃、魔法のどちらも中途半端になってしまうから注意が必要だ。


 トントン


 突然俺の部屋のドアがノックされる。

 母さんならノックするより声をかけてくるはず。サラとセレナはノックや声かけをせず問答無用で開けてくる。そうなると扉の向こうにいる娘の正体は⋯⋯。


「アイリちゃん?」

「は、はい。アイリです。お話ししたいことがあるのでお部屋に入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 俺もアイリちゃんと話したいことがあったからちょうど良かった。


「お兄さん⋯⋯何で私だって気づいたんですか?」

「そんなおしとやかノックをする人はアイリちゃんしかいないからね」


 俺の答えを聞いてアイリちゃんは苦笑する。おそらくアイリちゃんの頭にはサラとセレナが思い浮かんだに違いない。


「それでどうしたの? 何か困ったことがあったのかな?」


 俺はアイリちゃんが話しやすいようになるべく優しく語りかける。

 5秒、10秒と時間が過ぎていくが、アイリちゃんから言葉が発せられることはなく、下を向いているためどんな表情をしているかもわからない。

 そして俺が話しかけようとしたその時。


「お兄さんは優しいですよね」

「そうかな」


 そういえばリストランテに行く前もアイリちゃんはそんなことを言っていたな。


「久しぶりにお兄さんに会ったけど昔と違ってて⋯⋯」


 そりゃあこの年になってアイリちゃんの背中にカエルを入れたりするのはまずいだろ。


「私の知っているお兄さんは元気でイタズラをするような人でしたから⋯⋯私少し戸惑ってしまって⋯⋯どこか寂しいです」


 なるほど⋯⋯昔会った時と比べてアイリちゃんがおとなしく感じていたのはそういう理由があったからなのか。


「それはその⋯⋯久しぶりに会ったアイリちゃんはすごく可愛くなってたし」

「か、可愛いなんてそんな⋯⋯」


 アイリちゃんは顔を赤らめて益々俯いてしまう。


 だからそういう所も可愛いんだよ。


「それに一緒に住むから変な風に接することが出来ないなと思って必要以上に優しく接していたかも⋯⋯」

「けれど家族のようなものになったので、ありのままのお兄さんで接してくれた方が私は嬉しいです」


 恥ずかしい話だな。俺はアイリちゃんのことが全然わかっていなかったようだ。偽りのお兄さんより素の俺でいることをアイリちゃんは求めてくれている。


「わかった。これからはイタズラでエッチな俺でアイリちゃんに接するよ」

「エ、エッチですか⁉️」


 アイリちゃんは顔が真っ赤になり動揺している。


「まあそれがありのままの俺だからね」


 俺はいつものように冗談を口にした。おそらくアイリちゃんはエッチなことはダメですと反論してくるだろう。


「わ、わかりました」

「えっ?」


 今この娘わかりましたって言ったの⁉️

 アイリちゃんは今肩を出したワンピース型のパジャマを着ている。

 この身体にエッチなイタズラをしていい⋯⋯だと⋯⋯。


 俺の部屋に微妙な空気が流れる。

 女の子に慣れている奴ならここでアイリちゃんに手を出すと思うが、残念ながら童貞の俺にそんなスキルはない。


 しかしこのままいつまでも黙っているのは気まずいので、俺はアイリちゃんに聞きたかったことを口にする。


「俺さ⋯⋯今サラとリョウっていう友達とパーティーを組んでて、いつか天へと続く島に挑戦しようと思ってるんだ」

「サラお姉さんも同じ事を言ってました」

「それで⋯⋯もし良かったらアイリちゃんも俺達のパーティーに加わらないか?」

「それは⋯⋯何で私なんかを⋯⋯」

「今日回復魔法ヒールをかけてもらった時、魔法を練習しているって言ってたから戦力になると思って。それと⋯⋯一緒に天へと続く島に行こうって約束したから」


 そう⋯⋯幼き日にカーデスへと遊びに行った時、アイリちゃんがどうしても叶えたい願いがあると言って、天の島へ宝玉を取りに行くと口にしていた時期があり、その時に俺はアイリちゃん1人で行くのは危ないから、一緒に着いていくって約束したことを思い出した。


「覚えていて⋯⋯くれたんですね」


 アイリちゃんは俺が約束を覚えていて嬉しかったのか、目にじんわりと涙を浮かべる。


「ごめん⋯⋯正直に言うとさっき魔法をかけてもらうまで忘れてた」


 本当は忘れてたことを言わない方がいいのかもしれないけどアイリちゃんに嘘をつきたくなかった。


「私は⋯⋯私は約束を思いだしてくれただけで嬉しいです」


 アイリちゃんは本当に嬉しそうに笑顔を見せてくれている。正直に話して良かった。


「それでパーティーの件どうかな?」

「本当は今私の方からお願いしようと思ってました」

「そうなの?」

「はい⋯⋯お兄さんこれからもよろしくお願いしますね」


 こうしてアイリちゃんが仲間になった。


「ただサラとリョウには俺から話しておくからまだこのことは誰にも言わないでくれ」

「わかりました。お兄さんにお任せします」


 いくら気心が知れた仲とはいえ、いきなりアイリちゃんを連れていって、パーティーに加えることにしたのでよろしく⋯⋯はないので、まずは俺1人で2人に話そう。



 そういえば以前は気にしなかったけどアイリちゃんのどうしても叶えたい願いって何だろう?


「アイリちゃんはもし宝玉を手に入れたら何を願うつもりなの?」


 俺は気になったのでアイリちゃんに聞いてみた。


「そ、そ、それは言えません! お兄さんにはお願い事が叶った時にお話しします! それでは夜分遅く失礼しました!」


 そしてアイリちゃんは逃げるように部屋を出ていった。


 こんなに動揺するアイリちゃんを初めて見たのでどんな願い事か俄然興味が沸いてきた。また時間を空けて聞いてみようかな。


 こうして俺はアイリちゃんを新たな仲間に加えることを決意したのであった。



 今日はもうやることないし寝るか。

 そういえばエリカさんを追っていったサラから何も連絡がないな。

 何もないということはアイリちゃんとの誤解が解けてもやはり昨日のデートに遅れたことを怒っているのだろうか。

 しかし今はそんなことを考えても仕方がないので、俺はベットに横になり、寝ることにする。


 そして目を閉じて30秒ほど経った頃。


 ピロピロ~ン


 誰かが俺宛にメールを送ってきたようだ。

 フレンド同士であるならば、システムを介して離れた相手にメッセージを送ることができる。


「ちょうど寝ようとしてたのに誰だ⋯⋯」


 俺はシステムを開いてフレンド、メールとタッチする。

 すると新規受信のマークが光っており、確認するとサラからのメールだった。


 明日11時噴水広場に来て。洋服は昨日エリカとのデートで着る予定だった服でいいから。遅刻したらあんたの黒歴史をアイリちゃんに話します。


 いや、マジでそれはやめてね。せっかくアイリちゃんと仲良くなってきたのに台無しになってしまう。


 とりあえず俺は明日のことを頭に記憶しつつ、そのままベットで眠りにつくのであった。

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