第10話 リストランテ
俺とアイリちゃんは自宅を後にし、飲食店が多くある街の中央区域へと向かう。
「アイリちゃんは何か食べたいものある?」
「う~ん⋯⋯私はこの街のことを知らないのでお兄さんのオススメのお店でお願いします」
「了解」
オススメかあ⋯⋯これがサラなら酒場に行ったりするけどアイリちゃんはセレナと同じ16歳のはずだからお酒はまだ飲めない。
俺1人だったらラーメンを食べたいけどアイリちゃんみたいな可愛い娘をそんな場違いの所に連れていくわけには⋯⋯そうなると⋯⋯。
俺は1つの結論を導く。
「アイリちゃん洋食は大丈夫?」
「はい。好きですよ」
「だったらサラが働いている洋食屋さんに行ってみよう」
「わかりました」
「実は俺も行ったことがないけどサラが言うには、雰囲気が良くて料理も美味しいらしいよ」
「そうなんですか? 楽しみです」
サラに、もしあんたがデートするならここにしなさいって言われている場所だ。だがもし本当のデートならサラに冷やかされるだけだから使わないけどアイリちゃんと行くなら問題ないだろう。
「アイリちゃんこっちだ」
俺は街の中央地区に到着すると飲食店が多く並ぶ通りへと向かう。
たしかこの辺りに⋯⋯あった!
洋風でモダンな建物のレストランリストランテが見えてくる。
「わあ~言い雰囲気のお店ですね」
ガラス張りの建物で外から日の光を取り込み清潔感を感じさせる様は、流行りの物に慣れていない俺でも素敵に思えた。
「それじゃあ行こうか」
「はい!」
俺達は期待を胸にリストランテに入る。
「いらっしゃいませ!」
しかし俺達の期待は秒で崩れた。
店の中に入ると甲高いオカマ声をしたガタイのいいパンチパーマの男によって挨拶をされる。
えっ? えっ? 普通こういう店ってメイドさんみたいな格好をした可愛い女の子が出迎えくれるんじゃないの?
俺は意見を求めようとアイリちゃんに視線を送る。しかしアイリちゃんはこの状況に苦笑いをしているだけだった。
「お二人様ですか?」
「あ、はい」
「ではこちらへどうぞ」
俺は正直な話席に行かないでこのまま踵を返して立ち去りたい気分だった。けどアイリちゃんにここで食事をすると言ってしまったので仕方なしにこのパンチパーマの店員の後に着いて行く。
そして案内された席に座ると店内で異変が起きた。
「ねえねえ君、この後仕事終わったら俺達と遊びに行かない?」
俺達から3つ隣の席で髪をアップにまとめている店員さんが2人のチャラ男にナンパをされていた。
あれ? やっぱり女性の店員さんの服は俺の予想どおり⋯⋯いやメイド服はメイド服だが、予想に反してスカートの丈が短く、そして上半身は肩を出している服だった。
ちくしょう! 何であの娘が俺達の担当じゃないんだ!
「ねえいいだろ? せめて連絡先だけでも教えてよ」
おっと⋯⋯とりあえず心の叫びは置いといて、彼女を助けた方がいいか。
俺は席を立ち上がりチャラ男達の所に向かおうとした時。
「こぉらおのれら! うちの店員に手を出すとはいい度胸してるじゃねえかボケぇっ!」
ひぃっ! 先程までおネエ声だったパンチパーマの店員さんが、突然マフィアのようなドスを利かせた声でチャラ男達を注意、いや恫喝していた。
「ご、ごめんなさ~い!」
「お釣りはいらないです~!」
チャラ男2人は豹変したパンチパーマの店員さんの言葉に恐怖し、一目散にこの場から逃げていく。
「あらやだ。つい偽りの人格が出てしまったわ。驚かせてごめんなさいね」
パンチパーマの店員さんは俺とアイリちゃんに向かって謝罪してくる。
いやいや、どう考えても今のが本当の人格ですよね。
「支配人ありがとうございました。もう少しであの男達の顔面を蹴るところだったわ」
チャラ男に絡まれていた店員さんがこちらの方に向かってくる。
「あれ? サラじゃないか」
どうやらチャラ男に口説かれていたのはサラだったようだ。
いつもの髪型と違ったから全然気づかなかった。
確かにサラは俺と一緒に魔物を狩ったりしているから、そこらの男より強い⋯⋯チャラ男達は下手をしたら大怪我をしていたかもしれない。
それにしても⋯⋯やっぱりサラは客観的に見て可愛いな。肌も白く胸も大きい、顔も少し童顔な気がするが、笑顔も素敵で人気があるのが頷ける。
「アイリちゃん来てくれたの」
サラがアイリちゃんの手を握り喜びを表す。
「お兄さんに誘われて⋯⋯サラお姉さんが働いている所に来ちゃいました」
アイリちゃんは少し照れた表情でサラの問いに答える。
「採用」
「えっ?」
突然パンチパーマの店員が訳がわからないことアイリちゃんに言ってくる。
「あなた⋯⋯この店で働かない?」
「えぇぇっ! 突然言われても困ります」
「別に今すぐ返事をしなくていいわ。あなたのみたいな可愛い娘がうちで働いてくれたら嬉しいわ」
「そ、そんな⋯⋯可愛いだなんて⋯⋯」
アイリちゃんは恥ずかしいのか顔を赤くして俯いてしまう。
「後あなた」
「俺?」
「さっきサラちゃんが言い寄られている時に助けようとしてたでしょ? 私、そういう男の子好きよ」
パンチパーマの店員さんがそう言って俺に向かってウインクをしてきた。
ゾワゾワ
まさかとは思ったがこの人オカマか! 恐怖で背筋が凍りついたぞ!
「ここの店、男の子が少ないからナンパ男撃退の為にも新しい人がほしいのよね」
「いや、屈強な男なら支配人がいるじゃないですか」
「えっ? 今何か言ったかしら?」
この人聞かない振りをしやがった。それに男がいないのはオカマの支配人がいるからじゃないのか?
「はいはい⋯⋯支配人は乙女の心を持ってるんだからイジメちゃだめよ」
サラはそう言うがどう考えてもこの支配人は突っ込みどころ満載でしょ。
「2人とも私の話を覚えておいてねぇ」
「はあ」
「は、はい」
とりあえず俺とアイリちゃんは支配人の言葉に返事をする。
「あっ⁉️ そうだわ。まだ名前を名乗っていなかったわね。私はスカーレットって言うの。名前を呼ぶときは可愛く言ってね」
スカーレット? 確実に偽名だな。
「私はアイリと言います」
「俺はトウヤです。よろしくお願いします
「いやぁぁ! 私この子嫌いぃぃっ!」
そう叫びながらミスタースカーレットは、走りながら店内の奥へと消えていった。
「もう⋯⋯だからイジメちゃだめって言ってるじゃない」
「だってあれを弄らない訳には行かないだろ」
「まあ⋯⋯それもそうね。私も初対面の時は同じ事を言ったし」
さすが幼なじみ。考えることは一緒か。
「それより注文はどうするの?」
そうだ⋯⋯今日はアイリちゃんとご飯を食べに来たんだ。ついミスタースカーレットに気をとられしまった。
「アイリちゃん好きなの頼んでいいからね」
「はい⋯⋯ありがとうございます」
俺とアイリちゃんはサラからメニューをもらって中を見てみる。
トマトのカルパッチョサラダ⋯⋯銀貨1枚
那須と挽肉のボロネーゼ風パスタ⋯⋯銀貨3枚
サーロインステーキ⋯⋯銀貨10枚
け、けっこう良い値段するな。
銅貨は10枚で銀貨1枚、銀貨は1000枚で金貨1枚、金貨は1000枚で白銀貨1枚になる。
ラーメンは一杯銅貨3枚だからこの店は相当強気の価格設定をしているな。
「けっこうするでしょ?」
リストランテの価格にビビってる俺を見て、サラが話しかけてくる。
「支配人が材料に拘っているから値段が高いみたいよ」
ミスタースカーレットはああ見えて、なるべく客に良いものを提供しようと考えている人なのか。
「あ、あの⋯⋯お兄さん私決まりました」
アイリちゃんがためらいながら自分が注文するメニューに指をさす。
ポテトフライ⋯⋯銅貨6枚
これって1番安いやつじゃないか。
「アイリちゃんなんていい娘なの! 今日は私が全部おごってあげるわ!」
「サ、サラお姉さん⁉️」
サラが突然男前のセリフを吐いてアイリちゃんに抱きつく。
「いや、それは俺のセリフだから⋯⋯アイリちゃん嫌いなものとかないって言ってたよね」
「はい」
「サラ⋯⋯本日のディナーセットを2つ頼む」
本日のディナーセット⋯⋯銀貨20枚
「へえ⋯⋯あんたやるじゃん。承知しました。本日のディナーセット2人分ですね」
「ああ」
サラは注文の内容を復唱して、店の奥の方へと去っていった。
「お、お兄さん。こんなに高いものはダメです」
「いいからいいから。今日はアイリちゃんの為のお祝いだから少しくらい良いものを食べようよ」
「で、でも⋯⋯」
「それにほら⋯⋯俺もお兄さんのプライドとしてアイリちゃんに美味しい物を食べてもらいたいんだ」
「⋯⋯わかりました。お兄さんありがとうございます。ご馳走になります」
そしてアイリちゃんにディナーセットで納得をしてもらい、俺達は楽しく食事を終えた。
「では最後に紅茶かコーヒーになりますがどちらがよろしいでしょうか?」
サラが余所行きの顔で、俺とアイリちゃんに問いかけてくる。
「じゃあ俺は紅茶で」
「私も」
「かしこまりました」
いやあ⋯⋯美味しかった。さすがはそこそこ値段がするだけのことはある。
「お兄さん⋯⋯私コースの料理って初めて食べました」
「俺もだよ⋯⋯それで今日の料理はどうだった?」
「私、こんなに美味しい物を食べたの初めてです」
食事をしている時の美味しそうに食べている表情でだいたいわかったが、満足してくれたようで良かった。
「失礼します。紅茶になります」
サラが容器の音をさせず、紅茶をテーブルの上に置いていく。
「以上で本日のディナーは終わりとなります。私もこれで仕事が終わりだから」
サラの態度が突然いつもどおりのフランクなものに変わった。どうやら店員モードは終了というわけか。
「そっか。それじゃあ一緒に帰るか?」
「いいの?」
そう言ってサラはチラッとアイリちゃんの方に視線を送る。
「わ、私もサラお姉さんとお話ししたいので一緒に帰りたいです」
「嬉しいこと言ってくれるね⋯⋯わかったわ。着替えてくるからゆっくり紅茶を飲んで待っててね」
「はい」
サラは急ぎつつ優雅に挨拶をして奥の部屋へと向かっていった。
「お兄さん⋯⋯今日は本当にありがとうございました」
「喜んでもらえたなら何よりだよ」
アイリちゃんをリストランテに連れてきて良かった。
そしてこのまま優雅に紅茶を飲んでリストランテでの食事は終了かと思われたが、俺は突然背後に殺気を感じた。
「私とのデートの翌日に別の人とデートですか⋯⋯良い身分ですね」
俺は声がする方を振り向くとそこにはエリカさんが立っていた。
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