第9話 憧れの人

「シーラ姉さん」

「こんにちはトウヤくん」


 シーラ姉さんは俺の2つ年上ですぐ近くにある教会のシスターをやっている。小さい頃から俺やサラと付き合いがあって、唯一サラが頭が上がらない人だ。

 ロングのフワフワした髪にとろけるような笑顔。相変わらずシーラ姉さんは綺麗だな。


「良かったわね。あの男の子が仲間に入れて」

「うん」

「トウヤくんのお陰ね」


 さすがシーラ姉さんは鋭いな。まさかこれまでの経緯を全部見てたのか?


「いや、別に俺は童心に戻って遊びたかっただけだよ」


 しかしカイトのためにしたことをシーラ姉さんに言うのは何だか恥ずかしいので俺は誤魔化すことにする。


「ふふ⋯⋯トウヤくんは相変わらず素直じゃないわね」

「何を言ってるんだ。俺ほど素直な人間は他にはいないぞ」


 彼女がほしいっていつも高らかに宣言しているくらいだからな。


「そうね⋯⋯トウヤくんがあの男の子達と同じくらいの時は、欲望に素直だったわ」

「えっ? 欲望?」


 何かシーラ姉さんがとんでもないことを言ってきた。


「私⋯⋯何回もトウヤくんにスカートめくりをされたよね?」

「ソ、ソンナコトシテナイヨ」

「そお? それにお姉ちゃんと一緒にお風呂入りたいって駄々こねて大変だったわ。私も胸が大きくなってきてたから恥ずかしかったのよ」


 そう言ってシーラ姉さんは頬を赤く染める。


 この人は綺麗だけどこういう照れ屋な所がまた可愛い。

 何を隠そうシーラ姉さんは俺の初恋の人だからな。お風呂を一緒に入りたいと思うのは男として自然の摂理だ。


「そういえば午前中にトウヤくんの親戚のアイリちゃんにあったわよ」


 ん? なぜいきなりアイリちゃんの話を⋯⋯。


「私がトウヤくんと昔からの知り合いだってお話したの。そうしたら子供の頃のトウヤくんのことを聞きたがっていたから、お風呂のエピソードを教えちゃおうかしら」

「わわっ! それだけは勘弁して下さい」


 そんなことをアイリちゃんに知られたら、お兄さんとしての信頼が一気に下がってしまう。


「ふふ⋯⋯どうしよっかなあ」


 シーラ姉さんは小悪魔のような笑みを浮かべて俺を弄ってくる。


「なんてね⋯⋯トウヤくんが最近遊びに来てくれないから意地悪しちゃった」


 えっ? それって。


「教会の子供達からトウヤくんと遊びたいってよく言われるのよ。時間がある時でいいからまた来てね」


 ですよね。シーラ姉さんが俺に会いたいわけじゃないよな。


「わかった⋯⋯近いうちに必ず行くよ」

「うん⋯⋯待ってるね。それじゃあ私は神父さんにお使いを頼まれているから行くね。バイバイ」


 そしてシーラ姉さんは手を振りながら街の中央地区へと向かっていった。


 シーラ姉さんはホント変わらないな。昔から綺麗でお茶目な所があって⋯⋯そして真っ直ぐで優しい所が。


 俺とサラの家は父親が早くに亡くなってしまい、母親が働いていたため、いつもセレナを合わせて3人でいることが多かった。

 そして俺達は周りの友達とかと比べて、親と遊ぶことなどほとんどなかったため、いつしかどうすれば母さんは俺達のことをかまってくれるだろうと考え、子供だったせいか悪い方へと向かってしまい、ある日店でお菓子を万引きした。

 結局店員さんにはバレなかったけど、シーラ姉さんが俺達の行動を一部始終見ていて、店を出た後涙を流して悪いことはしてはダメだ、親が悲しむと説得された。初めはうざい奴だと思ったけど何度も何度も話しかけてくるため、いつしか俺達とシーラ姉さんは一緒に遊ぶようになった。その時、俺達は自分達のことをちゃんと見てくれる人がいることに気づいて、もう悪いことをするのはやめようと決心した。

 今思えばあの時シーラ姉さんに会っていなければ俺達はろくでもない大人になっていたかもしれない。

 だからシーラ姉さんには頭が上がらないし感謝している。

 いつか何か恩返しができればいいが。



 俺は目的であったシーラ姉さんに会えたため、また自宅に戻ることにする。

 何となく昨日エリカさんに最低と言われたことが頭に残り、どこかに遊びに行く気にはなれなかった。


「ただいま」


 まだ母さん達は買い物だから誰も帰っていないかな。


「おかえりなさい」


 すると俺の予想は外れて、アイリちゃんが玄関まで来て俺を出迎えてくれた。


「あれ? もう買い物終わったの?」

「はい」

「母さんとセレナは?」

「セレナさんはお友達と⋯⋯おば様は急にお仕事が入ってしまったのでお家にはいません。夜ご飯は私達2人で食べてと言ってました」

「えっ? それって⋯⋯」


 今この家に俺とアイリちゃんしかいないってこと⁉️


 アイリちゃんも俺と同じことを考えたのか、顔が赤くなっていた。


 く~っ! 可愛いなあ。

 けどアイリちゃんは親戚でマリーさんの娘だ。手を出したら俺は母さんに殺される。


「それじゃあ俺は部屋でゆっくりしているから。何かあったら呼んで」


 変な気を起こさないためにも、俺は自室へと引きこもることを決意する。


「あっ? お、お兄さん⋯⋯それでしたら私とお話ししませんか?」


 マジか⁉️ 今しがたアイリちゃんから離れることを決意したけど誘われたなら断る訳にはいかない。


「いいよ」

「せっかくですからお兄さんの部屋に行ってもいいですか?」


 お、俺の部屋⋯⋯だと⋯⋯。

 この娘は何を言っているのかわかっているのか⁉️

 せっかく俺は襲わないように敢えて自分から檻に入ったのに、わざわざアイリちゃんから飛び込んでくるとは。


「ああ」


 しかし俺はアイリちゃんのお兄さんとして、妹の願いを叶えてあげる義務があるため許可をする。


「わあ⋯⋯ありがとうございます。私、男の人のお部屋に入るの初めてです」


 しかもそんな男が喜びそうな言葉を言うなんて⋯⋯アイリちゃんは小悪魔じゃないかと思えてきた。



「どうぞ」


 俺は自室の部屋のドアを開け、アイリちゃんに中に入るよう促す。


 変なもの置いてないよな? これでエロ本の1つでも見つかってしまえば、お兄さんとしての威厳は地に落ちてしまう。


「うわぁ⋯⋯これがお兄さんのお部屋ですか」


 アイリちゃんはキョロキョロと部屋の中を見回す。

 俺の部屋に女の子がいる。それだけで何かいけない気持ちになってまうのはなぜだ。ちなみにサラは家族みたいなものだからカウントしない。


「アイリちゃん好きな所に座っていいよ」


 とりあえず俺はアイリちゃんが座らなそうなベットに腰を掛けるが⋯⋯。


「では、私はお兄さんの隣に」


 そう言ってアイリちゃんもベットに座り始めた。


 ベットに座る⋯⋯だと⋯⋯。


 まさかこの娘は男が喜ぶことを計算して行動しているのか!

 容姿も含めてアイリちゃんはとんだ小悪魔に成長してしまったようだ。

 そしてアイリちゃんをよく見てみると頬は赤くなっており、何やらモジモジと動いている。


 俺もだけどアイリちゃんも緊張しているのかな?


「アイリちゃんこっちの生活は慣れた? っていってもまだ1日しか経ってないから慣れる訳ないよね」


「は、はい⋯⋯皆さんよくして下さるので⋯⋯」


 俺は何を言ってるんだ。これがもしイケメンだったらもっと気の効いた言葉を言うに違いない。


「何か困ってることがあったら言ってね」

「ありがとうございます」


 アイリちゃんはぎごちない笑顔で返事をするとそこで会話が終わってしまった。


 昔と違ってアイリちゃんは可愛くなったから話すだけでも緊張してしまう。

 何か⋯⋯何か話題はないのか。


「あ、あの⋯⋯」


 俺がこの静寂とした状況に困っているとアイリちゃんの方から声をかけてきた。


「お兄さん昔と比べて変わりましたよね」

「変わった? そうかな? 昔も今もジェントルマンのつもりだけど」

「昔は⋯⋯カエルを私の背中に入れたり⋯⋯お、お医者さんごっこで私の服を脱がして来たじゃないですか」

「そ、そうだっけ?」


 あっ?


 今思い出したけど確かにそんなことをしたかもしれない。これじゃあさっきシーラ姉さんにスカートをめくってたことをアイリちゃんに言わないよう口止めをしたけど意味ないじゃないか。


「けど今は優しいお兄さんですね」

「そう。昔より今が大事だから」


 そう言ったアイリちゃんの表情が少し寂しそうに見えるのは気のせいか?


「今もお兄さんは天へと続く島を目指しているのですか?」

「えっ?」

「昔私の家に来た時に、俺が1番最初に攻略して願いを叶えてもらうんだって言ってましたよね」


 確かに言ってたような気がするけど別に今はそこまでこだわっているわけじゃない。


「その⋯⋯もし良かったら⋯⋯」

「何?」


 アイリちゃんの声が小さくて聞こえなかったので俺は聞き返す。


「いえ、何でもありません」

「そう? 何か言いたいことがあるなら何でも言ってね」

「大丈夫です⋯⋯それよりお兄さんは今日の夜何か食べたい物はありますか? 私何でも作っちゃいますよ」

「じゃあアイリちゃんで」

「えっ?」

「い、いや⋯⋯何でもないよ」


 やばい。つい素で返してしまった。アイリちゃんに変な風に思われたかもしれない。


「お兄さんも冗談を言うんですね。ビックリしちゃいました」

「ビックリしてくれたなら言ったかいがあったよ」


 ふう⋯⋯どうやらアイリちゃんは冗談だと思ってくれたようで助かった。


「2人だけしかいないなら今日は外に食べに行かない? ほら、アイリちゃんがうちの家族になったお祝いで奢ってあげるよ」

「えっ? そんな⋯⋯悪いですよ」

「いいからいいから。少しはお兄さんっぽいことさせてよ」

「わかりました。お兄さんありがとうございます」


 こうして俺とアイリちゃんは外食をするため、街の中央にある商業区域へと向かうのであった。


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