第8話 子供は共通の敵を作れば仲良くなるもの
翌朝
ベットから起きたらすでに12時前で朝食? を求め、リビングに降りると家には誰もいなかった。
「あれ? この時間に誰もいないなんてめずらしいな」
俺はグゥゥと鳴るお腹に対して、何か食糧を与えようとキッチンへと向かうとそこには一枚の手紙が置いてあった。
アイリちゃんとセレナを連れて買い物に行ってきます。ご飯はサラちゃんの家で食べて下さい。 母より
買い物かあ⋯⋯俺もアイリちゃんと買い物に行きたいなあ。それでもしアイリちゃんに⋯⋯。
「お兄さん⋯⋯これ買って♥️」
何て色目を使って言われたら、何でも買ってあげちゃうだろう。
くそぉ! 俺は何でこんな時間まで寝ていたんだ。
過ぎたことを言ってもしょうがないか⋯⋯とりあえずサラの家に昼食をもらいに行こう。
俺は1度自分の部屋に戻り、着替えて隣のサラの家へと向かう。
「はい⋯⋯どうぞ」
サラの母親のミチルさんがシチューを皿に装い、テーブルのイスに座る俺の前に置いてくれる。
相変わらず旨そうだな。
ミチルさんはサラの料理の師匠で、サラに料理を習っていた俺としては雲の上のような存在だ。
「頂きま~す」
俺は15時間ぶりに食べるシチューを掻き込むように食していく。
「おかわりもあるからね。いっぱい食べて」
「はい⋯⋯ありがとうございます」
このホワイトシチュー、店に出しても売れそうだな。さすがはミチルさんだとしかいえない。
「そういえば今日アイリちゃんに会ったわよ。もう可愛いくて奥ゆかしくて私もあんな娘が欲しかったわ」
「ダメです。アイリちゃんはうちの子なのであげませんよ」
「いいわ! 深夜にあなた達が寝ている隙に⋯⋯」
「拐うつもりかい! ミチルさんにはちゃんと娘がいるじゃないですか!」
アイリちゃんが魅力的な娘だというのは認めるが、変な考えは持たないで欲しい。そうこの人はサラと同じ血を引いているんだ。たまにサラのように突拍子のないことをする時があるから気をつけなければならない。
朝起きたらアイリちゃんがいない⋯⋯そんな事態も普通に考えられる。
「だってうちの娘は⋯⋯」
「お母さん! 私の黄色のワンピースどこやったの? クローゼットにないよ」
2階からサラが階段を使って降りてくる。
「あっ? 来てたんだ。おはよう」
「おっす」
下着姿で。
「ワンピースなら一昨日洗ったから欲してあるわよ」
「そうなの?」
そう言ってサラは2階に戻っていく。
「同級生の男の子がいるのに下着姿で恥ずかしがりもせずウロウロしてるのよ。ねえ⋯⋯あの娘彼氏できそう? 嫌よ老後になっても娘がこの家にいるのは」
「残念ですがサラに彼氏が出来るのは当分ないかと」
「だったらトウヤくんがもらってよ」
「無理です」
俺は即答でミチルさんの問いに答える。
以前俺の母親とミチルさんはサラと俺をくっつけようと画策していたが、残念ながら俺達はそんな関係にならなかった。生まれた時から知っていて兄妹みたいに育ってきたからサラのことは家族としか思えない。それは俺だけじゃなくてサラも同じ気持ちだろう。
「だってこの間トウヤくんがリビングのソファーで寝ちゃった時があったじゃない」
「そういえばそんなことがありましたね」
「その時あの娘、トウヤくんの朝立ちならぬ夕立ちを見て定規で大きさを測ったり、ペシペシ叩いて遊んでたのよ。私それを見て益々サラは結婚できないって危機感を覚えたわ」
「あいつそんなことしてたのか!」
「だって面白かったんだもん。減るもんじゃないからいいでしょ?」
俺とミチルさんの話が聞こえていたのか、サラが黄色のワンピースを着て2階から降りて来た。
「だったら俺もサラが寝てる時にイタズラしようかな」
「やめて⋯⋯私は寝起きが悪いことを知ってるでしょ」
ここでエッチなことをするなって言ってこないのがサラらしい。
「はあ⋯⋯この娘見てくれだけは私に似ていいのよね」
然り気無く自分も綺麗というミチルさん。
「何でこれで彼氏ができないの?」
「性格では?」
「もう⋯⋯2人ともうるさいなあ。私は別に彼氏がほしいと思ってないからいいの」
そうなんだよな。正直サラは告白も何度もされてるしモテる。もし彼氏を作ろうとしたら俺と違っていつでも出来るはずだ。それなのに彼氏を作らないのは本人が言うように彼氏がいらないのかそれとも別の理由があるのかもしれない。
「私この後出かけるから」
「エリカさんの所?」
「うん。昨日あんたのこと話したら怒ってたから今日は気分転換に買い物行くことになってるの。まあ夕方からは仕事だけどね」
サラは週2くらいで飲食店の仕事をしている。俺はその店に行ったことないけど結構繁盛しているらしい。
「そっか。俺もエリカさんには謝りたいからもし会ってもいいって言ってくれたら教えてくれ」
「任せなさい。あっ! 後シーラさんが、トウヤちゃんが最近会いに来てくれないのって言ってたから」
そう言ってサラは胸を叩いて家から出ていった。
確かに最近シーラさんがいる教会に行ってないな。この後暇だから行ってくるか。
「ミチルさんご馳走さまでした」
「はい。お粗末様でした。またいつでも食べにいらっしゃい」
「ありがとうございます」
俺は自分が使った食器を洗い、玄関へ向かうとミチルさんが見送りに来てくれた。
「次はアイリちゃんも来てくれるとおばさん嬉しいな」
「わかりました。俺から話しときますよ」
そして俺はミチルさんの家を出て、アストルムの街の西側へと向かった。
アストルムの街は中央に商業施設が固まっており、放射線状に住居が設置されている。そして街の西側には教会があり、親がいない子供達の受け入れを行っているため、子供達の数が他の地区に比べてやや多い。
俺は教会の前にある公園を通ると子供達が鬼ごっこをして遊んでいる姿が目に入った。
う~ん⋯⋯皆楽しそうに遊んでるな。
子供って何であんなに元気があるんだろう。俺もそんな時代があったのだろうか。
しかし幼少期を思いだそうとしてもそのような記憶はなかった。
あれ? 何か1人の少年が木に隠れて、鬼ごっこをしている子供達を覗き込んでいる。
「よっ! ゴロー何やってんだ?」
「えっ? お兄さん誰? 僕ゴローじゃないよ」
「悪い、間違えた」
少年は7、8歳くらいの見た目で少し覇気がない表情をしている。
「で? タローはここで何をやっているんだ?」
「タローでもないよ⋯⋯知らない人とは話すなってお姉ちゃんに言われてるから話しかけないで」
「ほう⋯⋯しっかりしたお姉ちゃんだな。俺はトウヤ。君の名前は?」
「だから知らない人とは」
「そっか。人に言えないような恥ずかしい名前なんだな。それなら言わなくていいぞ。ジロー」
「ジローでもないよ! 僕はカイトだ」
「カイトか⋯⋯良い名前だな。けどこれで俺達は知らない人同士じゃなくなったな」
「えっ? そうなの?」
「そうだぞ⋯⋯それでカイトは何をやってるんだ?」
しかしカイトは俺の問いに対して黙ってしまう。
「何か困ってることがあるならお兄ちゃんに相談してみろ」
するとカイトはポツリと悩んでいることを話してくれた。
「僕⋯⋯今日この街に引っ越して来たばかりだから友達もいなくて⋯⋯」
「あの子達と一緒に遊びたいのか?」
俺は予想していた答えをカイトに聞いてみる。
「うん⋯⋯でも僕は人と話すのが得意じゃないから何て言えばいいのか⋯⋯」
「そんなの一緒に遊ぼうぜでいいと思うぞ」
「いきなりそんなこと言えないよ! 現代っ子は昔の人と比べてシャイなんだぞ。それにもし断られたら⋯⋯」
このメンタル弱そうなカイトはトラウマになるかもな。
「だったら俺に任せておけ」
「お兄ちゃんが聞いてくれるの?」
「いや、そんなことはしないぞ。やるのは⋯⋯お~い! 皆集まれ~! 良いものあげるぞ!」
俺は大きな声を上げると鬼ごっこをしていた子供達がワラワラと集まってきた。
「えっ? 何々?」
「何をくれるの?」
「良いものって?」
先程のカイトと違って警戒心なしに近寄ってくるので、俺が変質者だったら簡単に拐うことができそうだな。
「鬼ごっこをして俺を捕まえることができたらガッツリマンのレアカードを全員に進呈しよう」
ガッツリマンカードとはチョコのお菓子に付いてくるカードで、子供達の間で今流行ってるらしい。
「マジで!」
「俺やる!」
「俺も!」
ふふ⋯⋯やはり食いついてきたか。
「おい、お前もやるんだろ⁉️」
1人の少年が高揚した様子でカイトに話しかける。
「う、うん。僕もやってもいいのかな」
「あったり前だろ! 人が多い方が有利だからな」
「わかった」
「よし! ぜってえこの兄ちゃんを捕まえようぜ」
「うん!」
子供なんて共通の敵がいればすぐに仲良くなるものだ。
後は俺が逃げきればいい。
「範囲はこの公園の敷地内な。じゃあ始めるぞ! 用意スタート!」
俺は鬼ごっこ開始と同時にダッシュをかけこの場を離れる。
子供達の数は10人⋯⋯さすがに囲まれでもしたら逃げきることは難しそうだ。
それなら⋯⋯。
俺は子供が登れなそうな木を見つけ、ジャンプをしてその木の枝に掴まり、スルスルと登っていく。
「あっ!」
「卑怯だ!」
「ずるいぞ!」
子供達から非難の嵐を浴びせられるが俺は気にしない。
なぜならずるいと卑怯は敗者の戯言だからだ。
後は子供達が諦めるまでここにいればいい。
俺は勝ちを確信したが、現代っ子達はまだ諦めていなかった。
「ちくしょう! こうなったら兄ちゃんが降りれないように木の周りに犬のふんを置いておこうぜ!」
「うん!」
1人の少年が指示を出すとカイトは率先して犬のふんを探しに行った。
おいこら! お前は俺を裏切るのか!
「よし! 後は兄ちゃんに石を投げて落とすぞ」
「それは反則だろ!」
しかし俺の声は届かず、子供達は本当に石を集め出した。
これはまずい。このままだと俺は石をぶつけられてしまう。
「わかったわかった。俺の負けだ。降りるから犬のふんをどかしてくれ」
俺が言うのも何だが、こんな汚い手をどこで学んで来たのやら。
「よっしゃ!」
「俺達の勝ちだ!」
勝負に勝ったことで子供達とカイトは一緒になって大喜びしており、俺は真下に犬のふんがなくなったのを確認して、木から飛び降りる。
「兄ちゃん俺達の勝ちだよな?」
「早くレアカードくれよ」
子供達は俺がガッツリマンカードを出すのを今か今かと待っている。
しかしその期待を裏切るようでわるいが⋯⋯。
「残念ながらガッツリマンのレアカードなんて最初から持っていない!」
俺が高らかに宣言すると子供達から容赦ない攻撃が飛んで来る。
「ふざけんな!」
「詐欺だ!」
「やっちまえみんな!」
ちょっ! お前らやめろ! 木で殴るな! ていうかカイトも一緒になって攻撃するんじゃない!
「だ、だがここにチョコレートがある。これで許してくれないか」
俺はアイテムボックスから10個のチョコレートを出して子供達に配る。
「ちっ! これで許してやるか」
「嘘つきは泥棒の始まりなんだぞ」
悪態を付きながら子供達は俺から離れていった。
「そういえばお前見ねえな」
先程犬のふんを持ってくるよう指示した少年がカイトに話しかける。
「ぼ、僕⋯⋯今日引っ越して来たんだ」
「そうなんだ。だったら俺達と一緒に遊ばないか」
「いいの?」
「いいに決まってるだろ⋯⋯俺はザジ、お前は?」
「僕はカイト。よろしくねザジくん」
とりあえず当初の目的であるカイトが少年達と仲良くなる目的は達成できたようで良かった。
「ふふ⋯⋯さすがトウヤくんね」
俺は背後から声が聞こえてきたので後ろを振り向くとそこには探し人であるシーラ姉さんがいた。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます