第5話 オークに襲われた女の子

 周囲にいる人達はこの声に反応していない。聞こえてるのは俺だけか? それともただの聞き間違いか?

 聞き間違いだったらそれでいい。だが万が一誰かが襲われているなら⋯⋯。

 たぶん声が聞こえてきたのは街の外からだった。

 俺は急ぎ東門を抜け、街の外へと向かう。


 門を潜ると一面の平原とまばらな林が見えてくる。

 東へと走りながら耳を澄ませてみると⋯⋯。


「だ、だれか!」


 やっぱり聞こえる! 方角は左、たぶんあの林の方だ。

 俺はダッシュで声がする方へと向かうと、大木を背に1人の女の子が魔物に襲われている様子が目に映る。


 あれは⋯⋯オークか!

 こんな所にいるのは珍しいな。この辺りはスライムや小型の獣系の魔物、いてもゴブリン程度しかいないはずなのに。

 そういえばアイリちゃんが住んでいたカーデスの方面では魔物が活性化していると言っていたな。まさかアストルムの魔物も⁉️

 だがとりあえず今はそんなことを考えるより女の子を助けなきゃ!


 俺はミスリルの剣をアイテムボックスより出してオークの下へと向かう。



「こんなことなら護衛の人を雇えば良かった!」


 女の子はオークに襲われた恐怖のせいか地面に座り込み後ろに後退ろうとするが、大木が邪魔で逃げることができない。


「こ、こんな所で死にたくない!」


 グォォォッ!


 しかしオークは女の子の叫び声を無視して、手に持った槍を突き刺そうとかまえる。


「誰か助けて!」


 俺はオークの背後に周りこむ。


 オークのHPのゲージが4つある。そこそこ耐久力はありそうだ⋯⋯だがオークは女の子に気を取られているため隙だらけだ。俺はオークの後頭部目指して一気に上段から斬り払う。


 ギャァァァッ!


 するとオークは断末魔を上げ、4つあったHPのゲージが瞬時に失くなりその場から跡形もなく消え去った。


 鉄の槍を手に入れた。

 オークの毛皮を手に入れた。

 1金貨手に入れた。

 レベルが21から22になりました。


 おっ? レベルが上がった。しかも金貨が手に入ったぞ。


 この世界の人や魔物は命が尽きると消えてしまう。

 そして倒した敵に一番ダメージを当てた者にドロップしたアイテムがアイテムボックスに自動で入ることになっている。


 しかし今はドロップアイテムより、女の子の方が気がかりだ。


「大丈夫ですか?」

「ど、どなたか御存知ありませんが助けて頂きありがとうございます。けどだいじょぶじゃないですぅ」

「どこか怪我をしているの? ポーション回復薬ならあるので使って下さい」


 オークに追いかけられてどこか怪我をしてしまったのかな? けど見たところ身体から血が流れているようには見えないし、服も破れている様子はない。


 俺はとりあえず地面に座っている女の子を起こすために手を差し伸べるが、その時に気づいてしまった。

 女の子の股の所に視線が吸い込まれ、よく見ると青と白の縞々の下着が濡れていた。

 そして女の子も俺の視線に気づき、透かさずスカートで下着を隠し、ワナワナと震えている。


「えっと⋯⋯オークに追いかけられて汗をいっぱいかいたのかな」

「もういいよ⋯⋯どうせ私は良い年してお漏らしをする女だから⋯⋯」


 そう言って女の子はどこからかロープを出して輪っかを作り木にかける。


「お父さん、お母さん、カイト、ニナ⋯⋯先立つお姉ちゃんを許してね」

「ちょっ!」

「せめて一度くらい彼氏を作りたかったなあ」


 女の子はロープで首を吊ろうとしていたので俺は慌てて止める。


「離して! 男の人にお漏らしを見られたから私はもうお嫁にいけない⋯⋯」


 ここでカッコいい男だったら俺が責任とってやるよ! て言えるが童貞の俺にはそんなセリフを口にすることはできない。


「見てない! 俺は何も見ていません! だから死ぬのはやめてくれ!」

「本当?」

「ホントホント! 下着が濡れて寒くて風邪を引きそうだなんてこれっぽっちも思ってない」

「やっぱり死ぬぅぅ!」

「嘘だ! 今のは冗談!」


 ついサラと話す乗りで答えてしまった。今は人の命がかかっているため慎重に受け答えしよう。


「いい? あなたの一言で人が1人死ぬかもしれないことを自覚してね」

「はい⋯⋯すみません」


 とりあえず俺が謝ったことで女の子は平静を取り戻したようだ。


「す、すみません⋯⋯着替えるのであっちを向いてもらってもいいかな」


 そう言って女の子はアイテムボックスから何かを取り出した。


 代えの下着を持っていたのかな?


 俺は女の子の言うことに従って後ろを向く。


 そして3分ほど時間が経った後。


「もうこっちを向いても大丈夫」


 俺は女の子の方を振り向くとそこには、髪が肩までかかるくらいの少し不貞腐れた美少女が立っていた。


 年は俺と同じくらいかな? そういえばさっき首を吊ろうとした時に言ってたけどこの容姿で彼氏が出来たことがないのか?

 少し信じられないが死の瞬間に出た言葉だから本当のことなのだろう。


「危ない所を助けて頂きありがとうございました」

「いや、俺もとんでもないところを見ちゃったから⋯⋯」

「キッ!」

「ヒィ!」


 俺が余計なことを口走ったから女の子が睨み付けてきた。

 そうだ。さっきのことは忘れよう。覚えているのは青と白の縞々の下着だけでいい。


「コホン⋯⋯それでどうしてオークに追われてたんだ」


 俺は咳払いをして、女の子の事情を聞くことにする。


「今度アストルムの街に引っ越すことになって、私だけ先に新しい家に行き家族を迎え入れる準備をしようかなたと⋯⋯」

「それでオークに襲われた?」

「うん」


 街道沿いに歩いていれば、オーク何かに会うことはないはず。やはり最近魔物の様子がおかしいのかな。


「とりあえず街はすぐそこだからもう魔物に襲われることはないぞ」

「本当? 良かったあ⋯⋯あなたはアストルムの街の人ですか?」

「ああ⋯⋯俺は⋯⋯」


 名前を答えようとした時に、女の子が慌てふためく。


「な、ない!」

「えっ? どうした?」

「髪に着けていたリボンがないの!」


 女の子は周囲の地面を探すが、俺から見てもリボンの類いが落ちている様子はない。


「カイトとニナが⋯⋯弟と妹が誕生日にくれたのに」


 姉弟からもらったものか⋯⋯おそらくこの落ち込みようからして俺と違い姉弟と仲が良いのだろう。


「たぶんオークに追われた時に落としたんだ」


 そう言って女の子は駆け出そうとするが、足が動いておらず震えている。

 無理もない俺だって正面からオークと戦ったら苦戦するんだ。普通の女の子なら襲われた恐怖をすぐに拭いさることなどできないだろう。


「俺も一緒に探すよ」

「えっ? いいの?」

「大切な物なんだろ?」

「うん⋯⋯でも⋯⋯悪いよ」


 さっきのリボンがなかった時の絶望した表情。それを見てさすがに見捨てることはできない。


「1人で探してたらまたオークに会って漏らすぞ」

「ああ! 忘れるって言ったのに!」

「ごめんごめん。お詫びにリボンを探すから許してくれ」

「⋯⋯わかった。それで許してあげる⋯⋯後、その⋯⋯ありがとう」


 女の子は少し照れた様子でお礼を言ってくる。


 くっ! 可愛いな。これは何としても見つけてあげたい。


 こうして俺はお漏らしをした女の子と無くしたリボンを探すのであった。


―――――――――――――――


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