第4話 妹に夢を見るのはやめた方がいい
アイリちゃんがうちの家族になった翌日
トントントントン
俺は小刻みの良い音が耳に入り、朝の目覚めを迎える。
何だ? 包丁の音? 珍しく母さんが料理をしているのか?
最近母さんの仕事が忙しくてもっぱら朝食は俺が作っていたのだが(セレナは全く料理ができないので)。
俺は眠い目を擦りながらキッチンへ向かうとそこには天使がいた。
「あっ? お兄さんおはようございます。もう少しで朝御飯ができますので座って待ってて下さい」
フリフリの可愛いピンクのエプロンを着たアイリちゃんに挨拶される。
いくら妹のように思っていてもこの姿に俺はドキドキしてしまう。
落ち着け俺! 昨日母さんにも言われただろ! アイリちゃんは妹のようなものだ。
そう考えると本妹のセレナのことが頭に浮かび邪な気持ちが萎えていく。
「俺も手伝おうか?」
「もうできますから大丈夫ですよ。ゆっくり座ってて下さい」
リビングに向かうと母さんとサラがいて、アイリちゃんの方を眺めていた。
「おっはよう」
「おはよう⋯⋯今日はうちで食べてくのか?」
サラは家が隣同士ということもあって、お互いの家にご飯を食べに行くことがよくある。
「そうよ⋯⋯それにしても今日は良いタイミングで来たわ」
「もうアイリちゃんと話したのか?」
「うん⋯⋯アイリちゃんはこのご時世に珍しくスレてない娘ね。少し話しただけでもわかるわ」
サラの目から見てもアイリちゃんはそう写るのか。
「本当にそうね⋯⋯マリーにどうやって教育したか聞いてみたいわ。それに比べてうちの娘は⋯⋯」
「おっはよぉ! えっ? 何? 今日はアイアイが朝御飯作ってるの? 私お腹空いちゃったからご飯大盛ね」
このセレナの様子を見て母さんは自分の頭を抑える。
「何でうちの娘はこうなっちゃったのよ。アイリちゃんを手伝おうとかないわけ」
「だって料理苦手だもん。セレナが料理をして食材を無駄にするよりいいでしょ」
まあそれは理に叶ってる。セレナは料理が下手どころじゃないから、どんな食べ物⋯⋯いや食べれる物が出てきただけで奇跡のレベルだ。
「あんたって娘は⋯⋯アイリちゃんの爪の垢でも飲ませてあげたいわよ」
「ママひっどぉい⋯⋯セレナにだって良いところがあるんだからね」
「それはどんなことよ」
「えっと~⋯⋯御飯を美味しく食べることかな⋯⋯ほら、そんな私を見ているからバカ兄貴は気持ちよく料理が出来てるじゃん」
こ、こいつは言うにことをかいてそんなことを考えていたのか。
「バカっ! セレナはわからないかも知れないけどこの子は世間から見ればそこらの主婦より料理が上手なのよ!」
「まあこの私が教えてあげたからね」
そう⋯⋯サラは母親の影響なのかメチャクチャ料理が得意だ。俺はそんなサラに習っているからそりゃ料理が出来るようになっても不思議じゃない。
「もうセレナは俺が作る時飯抜きな」
「うそ⁉️ 何? 私を餓死させる気⁉️」
この家の食を預かっているのは俺だ。変なことを言った罰を受けるがいい。
「は~い⋯⋯出来ました」
アイリちゃんが作った料理を運んでくる。
ご飯、豆腐の味噌汁、オムレツ、ウインナー、サラダ⋯⋯朝の定番メニューってやつだ。
「ご飯を作るのは家でもやっていたので、これからも私が用意しますよ」
「アイリちゃん⋯⋯何て出来た娘なの。トウヤ⋯⋯けど1人だと大変だからあんた手伝ってあげて」
「了解」
「それより早く食べようよ。私マジお腹空いてるんだから」
先程まで飯抜きを宣告され絶望の表情を浮かべていたセレナが、既にアイリちゃんの料理を食べようとスタンバっている。
こいつは本当にいい度胸してるな。けど冷めたらもったいないし早く料理を食べるか。
「「「「「頂きま~す」」」」」
皆が一斉にアイリちゃんの料理に手をつける。
俺はまずオムレツから⋯⋯ムッ、これは⋯⋯。
「うま~い! 何このオムレツ⁉️ めっちゃフワフワなんですけど」
「あれ? このサラダ? あんたの家で食べたことないドレッシングだよ」
我が家のドレッシング事情まで知るサラ。けどサラの言うとおり我が家で食べたことない味だ。
「材料はあったので自分で作ってみました⋯⋯あの、お口に合いませんでしたか?」
「ううん⋯⋯あまりに美味しくてびっくりしただけ」
「アイリちゃんすごいわね。マリーったらどうやってこんな娘を育てたのか⋯⋯」
「これもうサラ姉レベルだよ。アイアイにご飯作ってもらえば、兄貴いらなくね?」
こいつは本当に人を苛立たせるのが得意だな。けど悔しいことにアイリちゃんは俺より料理が得意なのは間違いなさそうだ。
「お兄さん⋯⋯私の料理はどうでしょうか」
アイリちゃんが恐る恐る俺に朝御飯の感想を聞いてくる。
これからはこの家の家族になるアイリちゃん。そんなアイリちゃんに遠慮はいらない。ハッキリと言ってやろう。
「もうこれは毎日食べたいね。ハッキリ言ってお嫁にほしいレベルだよ」
「お、お嫁さん⁉️」
俺のお嫁さんという言葉を聞いてアイリちゃんは顔を真っ赤にする。
くっ! 可愛いな! 少なくともこんな反応をしてくれる娘なんて俺は見たことない。
「あんたアイリちゃんに手を出したら!」
「わかってるよ」
「そうだよ⋯⋯アイアイは私がもらうんだから」
そう言ってセレナはアイリちゃんに抱きつく。
女同士は気軽に抱きついたりすることができてうらやましい。
「セレナ! あんた何バカなこと言ってるの?」
「な、何サラ姉? ちょっと怖いよ」
確かに近年見たことないほどサラが真面目な表情をしている。
「アイリちゃんは今日から私の家の娘になるんだから」
「えっ?」
アイリちゃんはサラの言葉を聞いて本気で驚いている。
「何を言ってるんだ⁉️ アイリちゃんは誰にも渡さないから」
「アイリちゃん今度うちにも遊びに来なよ。きっと私のお母さんも喜ぶわよ」
サラは俺の言葉を無視してアイリちゃんを自分の家に誘う。
「は、はい。機会があればぜひ」
サラは人と仲良くなるのが上手だからな。
アイリちゃんは慣れない我が家に来て緊張しているところがあるから、サラと話すのはちょうどいいかもしれない。
こうして俺達はアイリちゃんの料理を堪能し、朝から幸せな気分になったのであった。
朝食後
俺はアイリちゃんと一緒に食べた食器を洗っている。
「そうだアイリちゃん。何か困ったことがあったらなんでも言ってくれよ」
「はい⋯⋯ありがとうございます。けど今のところ皆さんが良くして下さるので大丈夫です」
「そっか」
久しぶりに会った妹みたいな娘が可愛くなっていて、何を話そうかと悩んで言葉をかけたがすぐに終わってしまった。
こっちはあまり女の子と話すことに慣れていないから、この無言で食器を片付ける空間でどうしようか悩んでしまう。
「ねえトウヤ」
そんな中サラが俺に話しかけてくれてこの沈黙の空間が壊される。
「今日13時に中央通りの噴水前だから遅れないでよ。あの娘そういうのうるさいから」
「わかってるよ。午前中はリョウと用事があるけど約束の10分前には行くから安心しろ」
初対面で遅刻なんかしたらサラの顔を潰すことになるしな。
「えっ⁉️ 何? 兄貴まさかデート?」
「お、お兄さんデートですか?」
サラの言葉にセレナとアイリちゃんが食いついてくる。
「そうよ。私の後輩とデートなの」
「マジで? やめた方がいいよサラ姉。こんなクソ兄貴に女の子を紹介したら一瞬で妊娠しちゃうよ」
「に、妊娠⁉️」
アイリちゃんが妊娠という言葉におもいっきり驚いている。
バカヤロー⋯⋯セレナは何を言ってるんだ。童貞の俺にそんなことできるわけないだろ。
何か自分で言ってて悲しくなってきた。
「もし兄貴に彼女ができたら私、鼻から熱々のスープを飲んであげるよ」
「ほう⋯⋯言ったな。ならば可愛い彼女を連れてきてお前の無様な様子を見せてもらうとするか」
「いいよ。連れてこれるもんなら連れてきな」
ゼってえこいつが熱々のスープを鼻から飲んで泣き叫ぶ所を見てやる!
「お、お兄さんは今彼女いないんですか?」
「いないわよ。いないどころか今まで誰とも付き合ったことないからね」
サラが俺の代わりにアイリちゃんの問いに答える。
「いないんじゃなくて作らないだけだ。俺の理想の人にまだ会えてないからな」
「そ、そうなんですか? お兄さん素敵だから付き合っている人がいるかと思ってました」
アイリちゃんに素敵と言われるとちょっと照れてしまうな。
「おっ? これはまさかアイリちゃんはあんたに脈ありってことかな?」
「ち、違います⁉️」
「残念⋯⋯違って」
一瞬俺も脈ありかと思ったが本人におもいっきり否定されてしまった。悲しくない⋯⋯悲しくないぞ。
「お兄さんみたいな素敵な人に私なんか釣り合わないですよ」
「えっ?」
「はいはい⋯⋯社交辞令だからあんたもいちいち反応しない」
しかないだろ。アイリちゃんみたいな良い娘に褒められれば反応してしまうのが童貞の相だ。
とりあえず今日は彼女を作るためにも遅刻しないようにしないとな。
そして食器を片付け終わった時にリョウとの約束の時間が迫っていたため、俺は城壁の東門まで急ぐのであった。
東門に到着すると既にリョウがおり、何やら側にいる女の子と話をしている。
「悪い遅れたか?」
「いや時間通りだ」
今俺が話しかけたのは悪友のリョウ。見た目は良いが一言で言ってしまえば女好き。1週間にクソ女と知り合った合コンもリョウがセッティングしてくれた。
「え~と⋯⋯その人は?」
俺はリョウの隣にいる女の子のことを聞いてみる。
「ああ⋯⋯その⋯⋯すまん! 今日いけなくなった」
まあ女の子がいる時点で察してたけどね。今日デートでしょ。
「狩りにはまた今度行こうぜ。だから今日は⋯⋯」
女の子も心配そうにこちらの様子を伺っている。
「わかった。また今度な。彼女さんを大切にしろよ」
「すまん。この埋め合わせは絶対するから⋯⋯じゃあな」
そう言うとリョウと女の子はさっさとこの場から姿を消してしまった。
くそう! 羨ましいな。けど嘆いてもしょうがない。
どうしようかな。俺1人でも行くか。
「きゃあっ!」
突然微かにだが絹を切り裂くような悲鳴が俺の耳に聞こえてきた。
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