Lv1.対トロール戦
トロール。
10メートル以上の身長を持った肉弾戦を好む戦士系の大型モンスターである。棍棒や斧など重量系の武器を手にする個体が多く。剣や槍などを持つ騎士系の相手を標的とする傾向が強い好戦的な魔物の代表格として特に有名であり。身につけている物は常に武器と腰巻のみ。派手な緑色の肉体は
等級でいえばD2級の魔物。Dとは
(それが今日ここに来た)
見据えるエタルに飛びかかってきた巨大なトロールの巨大な棍棒を、剣で弾き飛ばして遠くに着地した魔物を少年は見る。
魔物が町を襲うことは珍しくない。珍しくないからといって無防備にしていいかというとそういうワケにもいかない。町を襲う魔物は通常、その町の周辺地域より更に危険度の高い生息域からやって来ることが殆どであり、防衛を手薄にすることはできなかった。
例えでいえばエタルが現在の活動拠点にしている、このオワリーの町である。オワリーの町は、最もモンスターの等級が低いドグニチュード0から1のモンスターが出没するセカイラン王国周辺地域ルイケ平原の最東端にあるビウノ森林の中に位置しており、D2
(王国の騎士団が駆けつけるまで、まだ時間がかかる)
剣の切っ先を下に向けて
いまオワリーの町を襲撃してきたのはこのトロール一体だけではない。他にも数体、違う種類のD2級の魔物が同時に襲撃している。にわかには信じ難いことだが、魔物のトロールたちは集団行動によってオワリーの町を計画的に奇襲していた。
「エタル」
肩の子猫の呼びかけで横殴りの棍棒を剣で受けると衝撃波を撒き散らしながら弾き返す。弾き返されたトロールは、また距離を置いて着地し体中の血管を浮き上げてさらに大きく息を吸い込みはじめた。
「うわぁ。怒ってるよ。アレ」
シュレディが怖がるように言う。
トロールの攻撃手段は実に単純だ。力任せにただ手に持っている棍棒を振り回すだけ。ただし問題なのはその力とスピードであり。この町に常駐する騎士程度の実力の場合は一瞬でも目を離した隙に、簡単に背後を取られてしまう。
例えば、目の前で消えたトロールがいい例だった。
「ふンッ」
姿を見失った直後に、背後から振り下ろされた棍棒と振り切った剣の接触が爆風を巻き起こす。巻き起こった爆風と煙から一直線に抜けて突き飛ばされたトロールが地面に踏ん張り、止まらない自分の慣性をやっとのことで制止させる。
「また防がれタ? オレの攻撃ガッ?」
摩擦熱の煙を巻き上げている裸足の両脚で造った轍の終着点で踏みとどまったトロールが、それでもまた激突の場から微動だにしていない少年を驚いて見る。
「オレの攻撃を受けて、なぜ立っていられル?」
トロールには不思議なことでもエタルにとっては不思議ではない。その理由を敵であるトロールに語ることも無いだろう。エタルは町を護り、トロールは町を襲うのだから。
エタルは剣を握ったまま、眼光を鋭くさせるトロールから視線を離した。エタルはこの隙だらけの状態でトロールの攻撃を全て打ち落とす自信があった。
魔法を使ってこないトロールとの戦闘では相手の得意な肉弾戦さえ上手く対処できれば、後の処理はそれほど難しくはない。そこで必要になるのはトロールと互角またはそれ以上の身体能力か魔法能力を身につけること。つまりトロールよりもいずれかの能力が上回っていればそれでよく、現在のエタルは当然、目の前のトロールよりも
トロールの攻撃はいつでも止められる。
マントを風になびかせるエタルは無防備な構えから漂う自信を周囲に溢れさせると、異変を敏感に感じ取ったトロールが棍棒を強く握り直して突撃を仕掛けてきた。
対トロール戦ではこのような攻撃手段の少なさが最大の特徴であり、トロールの仕掛けてくる接近戦にさえ対応できれば、あとは防御でも
トロールが突撃を仕掛けた瞬間の踏み切った初速を威力に利用して肩口に剣のカウンターを入れる。そこで斬撃の衝撃に速さを弱めたトロールの前でまだ立ち止まっていると、怒りに震えるトロールが急加速して振り回した棍棒の一撃、二撃を正確に打ち落として、巨大な棍棒を地面にめり込ませた。
「な、なんだトッ?」
自分より遥かに小さな子供が、自分より圧倒的な力を持って立ち塞がっている。それでも驚愕するトロールの思考に『逃げる』という選択肢が思い浮かぶことはなかった。
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