涼 第二話 頑張りたい

 ち、ちょ、ちょっと聞いて下さい。第二話は僕が創造した香さん視点で書くはずでした。

 そ、そ、それがですね。

 ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。


 あ、あの、あのですね。

 か、か、かおりさんが‥‥‥

 交換小説ですか?

 新しい小説を書き始めてるんです。

「ひとりごと」っていうお題で。


 こ、こ、これは僕との交換小説と捉えて良いのでしょうか?


 ど、ど、どうしよう?

 こんな事ってあるんですかね?

 本当に? 夢じゃないですよね。


 貴方なんです。貴方が「そよかぜ かおりさん」なんですよ。

 僕は毎日、香さんのページを開いています。新しい投稿があっても無くても。っていうか、香さんをフォローしたい気持ちは山程、いや山よりずっと大きいんですけど、出来ていないから毎日開いているんです。毎日っていうか、実際は一日に最低三回は開いてしまうかな。

 で、今朝開いたら、久々に新しい小説が投稿されてて。ルンルンしながら開いてみたんです。

 そしたら

 そしたら

 そしたら、何と「交換小説」の事が書かれていて、僕は心臓が口から飛び出そうになりました。

 何回も何回も読みました。知らないうちに仕事に行く時刻を過ぎてしまっていて、僕は慌てて仕事に向かいました。浮かれているな、仕事だ! 集中して仕事をしなきゃ。僕は無理矢理、小説の事は家に戻るまで封印した。


 やっと開封! ゆっくりと香さんの「ひとりごと」を読んで、今、こうして第二話を書いている。

 浮かれている場合じゃない。どうすればいいんだ? ヒラメキをノリでポンッと投稿してしまった物が、とんだ方向に‥‥‥

 何も考えてないんだよ。よりによって一番巻き込みたくない人を巻き込む事になってしまうなんて。いっそ、見て見ぬふりするか? シレッとこの小説削除してしまおうか? そんな風にも考えた。

 いやいや、とんでもない。

「想定外の事が起こった時、人は試される。人は成長出来る」

 そんな話を聞いた事がある。これは一世一代いっせいちだいのチャンスだ。


 香さんなら僕を助けてくれるはずだ。曲がりなりにも僕が何か書けば、香さんは続きを書いてくれるはずだ。あれこれ悩まずにやってみたら、そこから何かが見えてくるかもしれない。

 頑張れ! 涼! 僕は「藍染あいぞめ りょう」。

 香さんが付けてくれた名前だ。僕はここからどこに向かうのか分からない。でも、本当に本当に頑張りたいと思う。頑張りたいと思っています。ありがとうございます。香さん。失礼にならないように頑張ります。


 僕は今更ながらこの小説で何を書くのか考えている。香さんと一緒に展開していける物語とはどんな物だろう? 香さんが書いた小説を色々思い浮かべる。でもそこに僕は入り込めそうもない。完璧過ぎて僕が入り込める余地など見つからない。僕が一言でも書けば、香さんの世界をぶち壊してしまいそうだ。

 怖い、怖い。


 何でもいいから書き出してしまった方がいいのか。じっくり何日も考えればいいのか。香さんは何を求めているのだろう?

 でも、このチャンスが消えちゃう前に、何かアクションを起こさなくちゃ。僕が香さんの「ひとりごと」を読んだ事と、僕は頑張りたいという事だけは早く伝えよう。


 こんなおかしな僕の第二話を投稿してしまっていいのかな? 何回か読み直してみたけれど、益々分からなくなって、開き直った僕はエイヤッ! と公開ボタンを押してしまった。

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