どれくらい稼げるか

せっかちな方のために先に言うと、ぼくが1〜3万字の短編を書いてもらえる原稿料は、7〜35万円くらいです。ただし、この部分だけ切り取って Twitter などに載せるのは誤解の元になるのでご遠慮願います。


日本の出版業界で「原稿料」というと、基本的には「その原稿を雑誌に1回載せる権利」の対価を指します。つまり、短編集や傑作選など別の媒体にもう一度載せる場合、原稿料とは別にお金が支払われます。最初にもらえるのが7〜35万円、ということです。


以前「A社で出した短編をB社の短編集に収録していい」と述べましたが、それは原稿料がそのような性質のお金だからです。このあたりの版権事情は、日本と海外、また小説・漫画と映画・ゲームなどでさまざまな違いがありますが、相対的に見ると日本の小説は著者の権利が強いといえます。


原稿料は、小説雑誌では「400字詰め原稿用紙1枚につき何千円」と規定されます。具体的には2〜6千円くらいです。400字詰め原稿用紙なんて使っている作家はすでに絶滅危惧種なのですが、わざわざ原稿用紙のテンプレに流し込んで数えているそうです。こういう妙な慣習が出版業界のあちこちにあります。


1枚あたり何円ということは、書けば書くほど原稿料が増えるわけですが、依頼するときに「30枚程度で」といった指定をされますので際限なく書けるわけではありません。40枚書いたら40枚分の原稿料がもらえますが、100枚書いたらたぶんボツです。300枚書いたらおそらく「これ単行本で出しますか」と言われます。


ぼくの改行スタイルだとおおむね1枚330字になるので、「30枚の短編をお願いします」と言われたら「1万字だな」と頭の中で換算します。商業短編ですと30枚くらいが最小で、もっと短いものは何か特殊な名前がつきます。「ショートショート」とか「フラッシュフィクション」とか「マイクロノベル」とか。全体的に美味しそうですね。


1枚あたりの原稿料は出版社ごとに違います。金額が岩のように動かないところもあれば、キャリアや実績に応じて増やしてくれるところもあります。当初1枚3000円と言われたのが、直前になって「編集長が期待してるので3500円になりました」と言われたときは嬉しかったです。期待に応えられたことを祈ります。


他に、「1万字程度、25万円」と総額を固定されることもあります。こういう場合は短く書いたほうがお得……ということは別にないです。短くまとめるのにも手間がかかりますし。


原稿料の支払日は、だいたい雑誌が出た翌月末です。戦前の文豪が原稿料を前借りして酒を飲んでしまう話をよく聞きますが、現代もあるのかは知りません。ぼくはそこまで困窮していないし酒は嗜む程度です。逆に、規定の支払い日がやたらと遅い出版社もあって、キャッシュフローが少々心配になります。


その後、短編集が出ると「印税」が発生します。単価×印刷した部数×10%をもらえます。ネットで時々「いまどき10%出す出版社は少ない」という話を聞くのですが、ぼくに関して言えばどこも10%です。そのあと電子書籍の売上が入ってくるわけですが、このあたりになると「短編作家」というテーマと関係ないので省きます。


総合的に言って、金銭の支払い体系に短編と長編の差はほとんどありません。短編のほうが雑誌などを経由することが多いので、原稿料と印税を両方もらえる割合が高い、という程度でしょうか。とはいえ、短編集は長編に比べて大きなヒットが出づらく、メディアミックスもほぼないので、一攫千金は難しいと考えていいでしょう。

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