どういう経緯で書くのか

基本的には出版社のほうから「書いてください」と依頼がきます。「分量はこのくらいで、締切はいつで、原稿料はいくらです」といったことが指定されます。テーマが決まっていることもありますし、自由のこともあります。


もちろん小説家と認識されていない人には依頼が来ないので、まず認識を獲得する必要があります。ぼくの場合はデビュー作がまあまあ話題になったので、わりとすぐに小説雑誌からの依頼が来るようになりました。KADOKAWA でデビューしたので KADOKAWA の担当さん経由で来ることもありましたが、ぼくはメールアドレスを公開しているため、今だとそこに直で来ます。


最初は短いエッセイを頼まれ「日本の好きな離島」「朝食はパンかご飯か」などの他愛ない雑談を書き、そのあと「最近デビューした新人特集」みたいな号に短編を載せさせていただきました。あとは文学賞のパーティで会った人に「うちで短編書いてみませんか」と言われたりです。エッセイや短編は一度きりなので、よく知らない相手でも比較的気楽に頼めるようですね。連載はもう少し信頼が必要でしょう。


そうして一回パイプができれば、後はこちらから各社の担当編集さんに「こんなん書いたんですが、どこかに載せてもらえませんか」と送りつけたりもします。担当さんの上に編集長がいて、その人がOKを出せば載る、という仕組みです。


なお、依頼でも送りつけでも、ボツになることがあります。「次号予告」に名前が載ったのにボツになったこともあるので油断はできません。テーマ指定がない依頼であれば、ある出版社でボツになったのをそのまま別の出版社に送ることもできます。それもダメだったらWebに載せるつもりなのですが、現時点でそうなったことはないです。


そういう具合で、商業短編を継続的に書くには、発表媒体の編集さんと知り合うのが基本となります。いわば人脈の仕事です。


といっても「小説家の人脈」を保持するには、別に編集長にビールを注ぎながらお世辞を言う必要はなく、「メールが来たら返す」「音信不通にならない」「Twitter で編集者や同業者の悪口を言わない」程度のことができれば十分でしょう。とくに締切を毎回守れる作家は珍しいのでおそらく重宝されます。ぼくは守れていないので単なる予想です。


ただ、コロナ禍で出版社のパーティや授賞式が自粛されているので、こうした人の縁の形成が難しくなっていることは間違いありません。ぼくは2016年の暮れにデビューしましたが、もしこれが2020年だったら今のような仕事はできていなかったと思います。よく言われることですが、作家の仕事はさまざまな運と縁に支えられています。

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