兄、登場

「そうだよ、あんたが出て行けばいい。解決じゃん」

 窓の表情がみるみる晴れ渡っていく。まあ、たしかに殺されるよりはマシか……。

 いや、冷静に考えて、十四歳の妹を一軒家に放置するわけにはいかない。やはりここはふたりして読の家にやっかいになり、安息を取り戻すのが一番ではないだろうか。

 引っ越し先までエリーゼはついてこないわけだし。

 エリーゼはかわいいけど、この家で暮らすのはやっぱり気が滅入る。

「だめだめだめだめ、ぜったいだめ」

「なんでだよ……」

 さっきから窓の言動がおかしい。根本からおかしいやつなので、普段との差を見極めることは相当骨が折れるが……。

「あのう、わたしお掃除とかしますので、小間使いとしてこきつかってくれていいので、ここに置いてくれませんか? そ、その……アレ……アレのことは思い出させないように精一杯努力しますから!」

「それはもう無理だろ! ここまで話進んでんだから」

 大声でつっこむと、所在なくしゅんと肩を落としてしまったエリーゼ。

 俺は罪悪感で両手をあわあわと振る。らちがあかないまま夜が明けそうだと気苦労に疲弊していると――

 ただいま~、とのんきな声が玄関から響いた。

 え?

 窓と顔を見合わせる。

 この家の鍵を持ち、気安く戻って来られる人物は俺たちのほかに二人しかいなかった。父は仕事で関西にいるため、予告なく帰って来ることはない。

「兄ちゃん!」

「えへ。来ちゃった」

 うわさをすれば。

 ひょろりと背が高く優しい目をした男が、リビングの扉から顔を出して、笑みを浮かべた。来ちゃった、ではない。

 しかも、長期滞在する気満々に感じられる、旅行用スーツケースに、ドラムバッグを両肩にそれぞれ抱えていた。

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