8 鹵獲した近代ゴーレム
倉庫の別のスペースには新しげなゴーレムが保管されていた。全長五メートルの大きさのトカゲを模したメタル・ゴーレムの様だった。
「このゴーレムは?似ても似つかぬものだが?」
「これは半年前に食糧調達の時に絡んできたので鹵獲したものです。確か北の方に鮭釣りに出かけたときでしょうか?いきなり攻撃を仕掛けてきたので反撃しました。現代のゴーレムと言うのはかなり弱い様ですね。左フック一発で停止したのでそのまま持ち帰ってきました」
メイドさんが、さらっとヤバイことを言っています。あの身のこなしも一瞬で背後を取るほどの速度があるのに五メートルのゴーレムを一撃で伸して引きずり回すパワーもあるらしい。このメイドは絶対、敵に回しては行けない。多分、片手で首をはねられる。
「良いところですから、この鹵獲したゴーレムの構造と太古のゴーレムの違いに分かっている範囲で説明します。あくまでも魔道ネットワークが収集した知識に基づくものだと言うことを了承ください」
そこからメイドが長い説明を始めたが要約すると以下の通り。
天然魔石を魔道核に加工し、その上に
集中制御方式の利点は魔道核さえできあがれば、身体にあたる部分は適当でもゴーレムとして可動出来る点である。非常にコストが安く作れる方法だ。集中制御方式は、形を変化させやすい流体金属や泥土、粘土、組み合わせた石などと非常に相性が良い。
一方、固体金属や岩などとは余り相性が良くない。塊の固形物を魔法で動かす場合、
可動部の制御の甘さは、素材に疲労を引き起こしゴーレム素体の寿命を大幅に削ってしまう。結局の所、強度を取るか、動きやすさを取るかの選択を迫られる事になる。また、エネルギー源の魔道核と制御用の魔法式が一体化しているのは最大の弱点でもある。このタイプのゴーレムは、魔道核に傷をつけるだけで破壊が可能だ。
もっと魔道核は、何重もの遮蔽物や魔法障壁に覆われ簡単に破壊できない様に保護されている訳だが、ほんの少し破壊するだけでも動作を止めるか暴走してしまうのだ。これは魔法式を魔道核の表面に刻み込んでいるのが原因だ。魔道核の表面にほんの少しでも傷をつけると魔法式が成立しなくなってしまうのである。魔法式が成立しなくなった魔道核は当然ながら動作しなくなる。ゴーレムは動作を停止してしまうのだ。また魔力の消費も大きいが、搭載できる魔石の大きさが動かせるゴーレムの上限になる。ゴーレムが大きくなるほど、より大きな魔石が必要になり、20mクラスのゴーレムを動かすには
そのため現実上の限界は10mクラスとされている。10mのゴーレムを動かす魔石を手に入れるのはかなり大変だ。それでもこのクラスのゴーレムは一騎当千に値する。各国が一番力をサイズがこのサイズである。1つの魔道核で動かなければ、2つ、3つと組み合わせられないかと言うのは当然のアイデアであり、何度も実験が行われているが魔法式が干渉を起こし、まともに動作しない事が判明している。現在は、干渉しない魔法式の研究が行われている最中だ。また小さな魔石を組み合わせることによって巨大な魔道核が作れないかと言う研究も現在も各国で盛んに行われているが合成魔道核は出力が安定しないため実用化には、まだほど遠い状態と言う話だ。
一方、太古のゴーレムは、無数の小さな人工魔石を動力源とし、制御核を
この方式のメリットは、動力源をどこにでも載せられると言う点である。魔石を素体の様々な場所に埋め込む事で、合計して古竜相当の魔力を蓄え可動させる事が可能。この構造は巨大サイズのゴーレムの動作を可能にするだけではなく、小型ゴーレムの稼働時間を飛躍的に延ばす事が出来るメリットがある。
例えると制御系と動力系を多重化し、一つが故障しても他のノードがバックアップし、その間に故障した系を修復する様に設計されているわけだ。これは、元世界に於いても高可用性を要求させるシステムでは普通に行われているものだが、ゴーレムで使われて居る技術はそれより更に高度なもので自動修復機能まで実装している。
しかし分散処理方式が致命的なのは、ゴーレムの素体を作るのが極めて難しいと言う点に尽きる。素体のあちこちに埋め込まれた人工魔石から放出される魔力を吸い出し制御核に送り出し、制御核同士を連携する為、複雑な魔道ネットワークを素体の中に張り巡らせる必要がある。
この魔道ネットワークは人間で言うと神経と血管に相当するものであり、これを素体の中に埋め込む必要がある。高度な工作魔法が存在した太古では可能であったが、現代の魔法技術では分散処理方式に適した素体作成はほぼ不可能である。
また制御用の
ちなみに制御核も魔法回路を利用して作られている。それは記録用より構造が複雑かつ繊細らしい。髪の毛より更に小さい回路が立体的に作られているのだ。ちょうど数十億、数百億と言うトランジスタの組み合わせでCPUがメモリなどと半導体が作られ、それらの部品をびっしり詰め込む事で手のひら大の携帯端末が作られているのと同じように、この魔法回路は握りこぶしぐらいの核には数千億以上の
とてもでは無いが人が魔法や錬金術で作成するのは不可能らしい。太古においては魔法回路製造専用の魔道具をいくつか組み合わせて作っていたそうだ。
……よく考えたらここまで詳しい話を聞かされたら足抜け出来ないじゃないか……。
俺は頭を抱えた。
「そろそろ終業時間になりましたので、今日の作業は切り上げて夕飯にします」
説明が終わると俺はメイドに猫をつかむ様に持ち上げられて地下五階のゴーレム倉庫を後にするのであった。どうやらメイドゴーレムは時間に厳格らしい。
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