1 今回はイキの良さそうな奴が来たようだ
——そのいくばくか前の話。舞台は冥界。
今回はイキの良さそうな奴が来たようだな。
この古代ギリシャから召還されたと思われ、艶光る浅紅色の長い髪を
今日来た転生候補者は恐らく世界作り替えるであろうと言う逸材。その才能は異世界で必要としている人材にマッチ、何より性格がコミュ障陰キャで人間不信・女性不信。これは得がたい才能だ。異世界人は、油断するとすぐハーレムを作ったり、世界のバランスを考えずに俺つえーを始めたり、勝手に隠居してスローライフ始めたりしてしまったり、召還する側としては、とても困る行動をしてくれるのだ。そしてそのような異世界人を送り込むたびに主神に叱られるのは
——何という不条理。
主神様は
ただ、この男、落雷如きで伸びているのが少し気になった。
※※※
「……よ起きなさい」
落雷の後記憶が無いのだが、うっかりブラックアウトしていたのか?……と思い目を空けるといつもと天井が違う……と言うよりそもそも天井が存在しない。青い空が那由他の彼方まで広がっている。インドアオンリーの俺には単なる地獄がそこには広がって居る。
「……げぇ」
思わず飛び起きるとそこには時代錯誤らしき服を来た女性がいた。そういえば、こういうのがうろうろしている場所が近くにあったことを思い出した。俗に言うコスプレ喫茶と言う場所だ。だが、あいにく俺は最近コスプレ喫茶に行った記憶がないし、そもそも生まれてこの方、行ったことはない。確か、PCの前でキーボードを叩いていている途中で突然、電源が落ち
桃色の長い髪とおっぱいを揺らしながらギリシア神話を模したと思われる時代錯誤の薄気味悪い衣裳を来た女がこちらを睨んでいる……いや、俺悪いことしていないだろ。……あっ、生まれてすみません。取りあえず謝罪のポーズを取る。いわゆる陰キャの処世術である。
……にも関わらず残念な桃色おっぱいは、こちらをじっとにらみつけている。
「……な……何か用事ですか?それとも
俺は、コミュ障特有の語頭と語尾の部分が虚空に消え去る何時ものしゃべり方で尋ねる。コミュ障と言うのは口を開けるのも会話するのも膨大なエネルギーを消耗する生き物。少なくとも次に紡ぎ出す単語を考えるだけでも、かなり胃にこたえるのだ。
「いや、君は先程死んだのだけど、その部分記憶に無いの?」
「そ……そんな記憶は無いです……」
俺は雷鳴と共に気を失っただけで、死んだ記憶は無い。死んだ記憶が無く、息をしていると言うことは生きていると言う意味である。
「……い……いや死んでないでしょ?だって死んだ記憶など無いもの。も、もしかして……タチの悪いドッキリですか?」
女がおっぱいをゆらしながこちらに顔を近づけてくる。べつにおっぱいを見ようとしている訳ではないけどどうしても目に入ってくる。これは精神衛生上非常に悪い。もしかして、コミュ障が人の顔をまともに見られないのを知っていてわざとやっているのか?やはりタチの悪いドッキリの可能性が高いと思う。
「あっ……いや、死んだら記憶があるわけないだろ」
「いや君は死んだのだよ。正確には転生させるために死なせたのだ。そして
「……もしかして……異世界転生モノのコスプレですか?俺の知らない格好をしていると言うことは新作アニメかなんかのコスプレか何かでしょうか?……これでも一応、忙しいので早く返して欲しいのですけど……」
少し頭の可哀想な女を怪訝な目をしながら眺める。おっぱいの育ちは良いがそれ以外の育ちはかなり悪そうだ……特におつむの中は相当疑った方が良いだろう。そもそも愛とゴーレムの女神って何だよ。そんなアホな設定誰が考えたのだろうか……作者を小一時間問い詰めたい気分である。だがしかし、それすら時間の無駄である。残った仕事を片付けるために、さっさと帰るに越したことは無い。
「……と、ところで出口はどちらにありますか……女神様……」
「は?出口などありませんよ。ここは冥界ですし、
ヤケに演出に凝っている奴だ。中二病を拗らせたまま三十路を過ぎた可哀想な女なのだろう……俺はその女を哀れみを持って見つめる。瞳では無くおっぱいを見ているのは人の目を見るのは苦手であって、決しておっぱいを凝視したいわけでは無い。コミュ障の必然である。それはともかく、ここは、いわゆるぼったくり喫茶なのだろうか……?有り金、全部出さないと外に出れられないとか、腎臓は2つあるから1つぐらい売っても大丈夫とか言われる場所かも知れない……。
俺は、怖いお兄さんが出てこないか警戒しながら少しずつ後ずさりし、周りを見ながら出口を探すがそれらしいものが全く見つからない。周囲は真っ白な世界が延々と続いており果てることが無く続いていた。
もしかして最新式のVRか……と思い手を顔に当ててはずそうとするがゴーグルのようなモノは顔に着いていなかった。最新式ならこういうこともあるだろうか?もし、こんなにリアリティ溢れるシステムが作れる奴とは後学の為に一度話してみたいものである……話すのは面倒だし実装系とソースコードだけでも見せて貰えれば良いかなぁ……。それにはまずここから逃げ出さないと行けないわけで……。
「か、金なら持ってないぞ。口座の残高も無いから……身ぐるみ剥いでも何も出てこないんだから……」
「いや
しかし、人間不信も行きすぎるとここまで行くのだろうかと
※※※
この自称女神は何を言っているのかと思った……。まぁ言うだけならタダかと思い俺は言った。現実には一言しゃべる度に精神をガリガリ削っている訳だが……。笑うなら笑うがよい。そんなものでは一ミリもダメージを受けない。結局、頭の可哀想な奴の世迷い言にすぎない。
「……それなら好きなだけ開発が出来る静かな環境が欲しい。お前らみたいな奴に絶対邪魔されない結界が張っておりその中で好き放題プログラムが書ける様な環境だ」
「……ならその願い叶えてやろう。その代わり異世界に転生するのだぞ」
予想どおりの反応に微笑む。それを見た転生候補者は少しビビっているようだ。
「……それで契約書は?」
異世界人担当の女神をやっているとこういう転生者が時々存在する。やたら細かい条件を確認するタイプ。そして、重箱の隅をつついてその穴をついてチートしまくるやつ。それを防ぐための書類もしっかり用意してある。分厚い紙束を取り出し転生候補者にぶん投げる。
「ここにある。五百ページぐらいあるから要約したのもあるぞ?」
「……いやこれ全部読むから」
転生候補者は無言で書類に目を通している。何か質問があっても良い物だが一心不乱に書類に目を通したまま一瞥もしない。要するに私こと女神は暇なのである。
「少し休ませて貰うぞ」と声かけすると椅子にもたれかかりキュケーオンを仰いだ。
※※※
未だに紙かよと思いながら契約書とやらに目を通す。数百ページなら鈍器と呼ばれるラノベよりは薄い。文面も矛盾無く論理的に書こうとして逆に遠回りしている法律感漂う文体ではなく、口語的なので読むのはかなり楽だ。何より会話をしなくて良いのが気楽だ。しかし、今は電子化だろう。分厚い書類は紙の無駄に過ぎない。やはり、お役所仕事だなと思いつつ契約書に目を通していく。どうやら無い様に瑕疵は無さそうな感じだし、こちらに一方的に不利な条件は無さそうな感じである。後半は異世界に関する説明が延々と書いてあった。
どうやら転生先と言うのは魔法が存在しゴーレムを主戦力とし戦争をする世界と言う設定の様だ。この設定、流石に二流過ぎないか?こんなのがアニメ化とは世も末だ……と思いながら書類全部に目を通した。もう一度契約内容をチェックしておこうと思い。最初から文章に矛盾が無いか確認していく。
どのくらい時間が経ったか忘れたが納得がいったので顔を上げる。
……すると周りには誰も居ない。もしかしてネット小説やらを読まされただけか……。そろそろ退散する事にしよう。しかし出口はどっちだろうとキョロキョロしてみると地平線は白に囲まれてそれらしきものが見当たらない。仕方無いので適当に当たりをつけてそちらに歩いて行く。でも歩きたくない……。
「転生者よ。ようやく読み終わったみたいだな。で、どうだ?」
さっきの痴女が現れて言う。
「……何もつまらない三文小説だな?中世ヨーロッパ風世界でゴーレム風ロボットを使って戦うとかテンプレも良いところじゃないか。そのうちゴーレムに人間が乗り込んで無双する話だろ?……」とこの場はコミュ障らしくない正直な感想を口にする。通常、このような代物の感想を求められた場合、無碍にも出来ないし、とはいえ褒める場所が一つも見つからないので思わず『あうあう』言ってしまうのがコミュ障だ「……じゃ帰らせて貰うから……」
「それは後ろの方に付けた付記だ。そのあたりは、
痴女がおっぱいを揺らしながら言う。そして上司の事を主神と呼ばされているらしい……恐らくパワハラがまかり通る職場なのだろう。この痴女に若干の哀れみを感じる。
「……で、自称女神様は、転職とか考えた事は無い?」
「す、少しは……。ではなく契約書に問題は無いか聞いているのだ」
「ま……まぁいいんじゃないですか?問題ないかと聞かれれば問題無いと思うぞ。少なくともこの契約書が嘘でも俺は一文も損はしないのは確認したから……」
あの契約書は
——愚痴が過ぎました。仕事に戻りましょう。
「それでは、契約を成立したものします」と
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この章は、半年以上前に書いているので何度か推敲しているのですが設定に齟齬がでているかも。
――と言いますか、本来この小説は、最後から頭の方に戻って書いていく手法を使おうと思ったのですが、後半2/3あたりが未だに真っ白なのは何故でしょう……。
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